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1章
7 火傷痕
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甥っ子だという話が本当なら、あの子は妹・ステラの息子ということになる。
たしかに、ステラも謎の子供も同じ銀髪だった。
レオンハルトとも血縁関係にあるのだから、二人並んだときの親族っぽさにも説明がつくかもしれない。
自分の中でそんな話を組み立てることはできたのだが、アリアはどうにも納得がいかず、渋い顔になってしまう。
どうしたって、客室で見つけたあのプレゼントの山と、愛人・隠し子疑惑が繋がって簡単には「伯父と甥ね! なるほどお!」とはいかないのである。
そんなアリアを尻目に、レオンハルトはソファから立ち上がる。
「旦那様?」
「悪いが、まだ仕事が残っている」
顔をあげるアリアにそれだけ言うと、レオンハルトはすたすたと部屋を出ていこうとするではないか。
アリアの視点でいくと、完全に逃走であった。仕事なんていうのは言い訳で、説明を放棄して逃げる男にしか見えない。
この男……! という気持ちとともにアリアも立ち上がり、小走りで追いかけて彼の腕を掴んだ。
「旦那様! まだ話は終わってませ……ん……」
「ぐっ……」
アリアの勢いがそがれたのは、腕を掴まれたレオンハルトが過剰な反応を示したからだった。
アリアも必死だったのは確かだが、こんな風にうめき声をあげて痛がるほど強く触ってはいない。
驚いてぱっと手を放した今も、彼は腕を庇う様子を見せており、とても普通の状態ではない。
居心地悪そうに目をそらしており、明らかに訳アリ。
まさか、とアリアは思う。レオンハルトは騎士だ。職業柄、どうしても怪我をしやすい。
彼はもしや、怪我を隠しているのではないか。アリアは、そんな風に考えた。
もしそうであれば――こんなちょっとしたことで痛がるような状態で、放置するわけにもいかない。
「旦那様、脱いでください」
「……は?」
レオンハルトからどこか間の抜けた声があがる。
それもそうだろう。結婚して一か月ほどの妻、それも一度も肌を重ねていない、同じ家に住む他人レベルの関係の相手に、いきなり脱げと言われたのだから。
レオンハルトは「なにを言っているんだこいつは」という顔をしているが、弟たちに囲まれて育ってきたアリアがそれぐらいで怯むことはない。
「いいから、脱げって言ってるんです!」
もはや、自分よりずっと大きな男に掴みかかる勢いだった。
服を引っ張られ、ボタンにも手をかけられそうになったレオンハルトは、「やめろ」「痴女か」と言いながらも抵抗を試みる。
その気になればアリアを突き飛ばすぐらい簡単にできるだろうが、それはしないあたり、彼にも騎士道精神はあるのだろう。
「とりゃあっ!」
抵抗もむなしく、レオンハルトのジャケットはアリアにむしりとられる。
今度はシャツのボタンに手をかけ、本格的に脱がそうとしてくるものだから、レオンハルトも焦った。
「おい、いい加減に……!」
「旦那様。夫婦のあいだに隠しごとはなし、ですよ?」
慌てるレオンハルトの前で、アリアはにっこりと笑ってみせた。
夫婦の愛なんてないと言っただろうが、とか、女性が男の服を奪い取って裸にしようとするのはどうなんだ、とか。
色々と言いたいことはあったが、騎士団長様は年下妻の勢いに押され気味だった。
こんな女だったのか、なんて今更思ったところでもう遅い。
気が付けば、アリアの手によってシャツのボタンも全開にされていた。
流石は弟たちの世話をしてきた姉といったところか。相当な手際のよさであった。
「っ……!」
肌を見られた。そう理解したレオンハルトは、バツが悪そうにアリアから顔を背ける。
そんな彼の前で、アリアは。
「……え?」
その体に広がる痛々しい痕を見て、言葉を失っていた。
火傷をしたときのような痕が、彼の胸や腹部に広がっている。
シャツの隙間から見える分だけでも、相当広範囲にわたっているように見えた。
こういった症状の出る事象に、アリアは心当たりがあった。
「もしかして……呪い?」
ぽつりと呟かれた言葉。
それに、レオンハルトが反応することはなかった。
たしかに、ステラも謎の子供も同じ銀髪だった。
レオンハルトとも血縁関係にあるのだから、二人並んだときの親族っぽさにも説明がつくかもしれない。
自分の中でそんな話を組み立てることはできたのだが、アリアはどうにも納得がいかず、渋い顔になってしまう。
どうしたって、客室で見つけたあのプレゼントの山と、愛人・隠し子疑惑が繋がって簡単には「伯父と甥ね! なるほどお!」とはいかないのである。
そんなアリアを尻目に、レオンハルトはソファから立ち上がる。
「旦那様?」
「悪いが、まだ仕事が残っている」
顔をあげるアリアにそれだけ言うと、レオンハルトはすたすたと部屋を出ていこうとするではないか。
アリアの視点でいくと、完全に逃走であった。仕事なんていうのは言い訳で、説明を放棄して逃げる男にしか見えない。
この男……! という気持ちとともにアリアも立ち上がり、小走りで追いかけて彼の腕を掴んだ。
「旦那様! まだ話は終わってませ……ん……」
「ぐっ……」
アリアの勢いがそがれたのは、腕を掴まれたレオンハルトが過剰な反応を示したからだった。
アリアも必死だったのは確かだが、こんな風にうめき声をあげて痛がるほど強く触ってはいない。
驚いてぱっと手を放した今も、彼は腕を庇う様子を見せており、とても普通の状態ではない。
居心地悪そうに目をそらしており、明らかに訳アリ。
まさか、とアリアは思う。レオンハルトは騎士だ。職業柄、どうしても怪我をしやすい。
彼はもしや、怪我を隠しているのではないか。アリアは、そんな風に考えた。
もしそうであれば――こんなちょっとしたことで痛がるような状態で、放置するわけにもいかない。
「旦那様、脱いでください」
「……は?」
レオンハルトからどこか間の抜けた声があがる。
それもそうだろう。結婚して一か月ほどの妻、それも一度も肌を重ねていない、同じ家に住む他人レベルの関係の相手に、いきなり脱げと言われたのだから。
レオンハルトは「なにを言っているんだこいつは」という顔をしているが、弟たちに囲まれて育ってきたアリアがそれぐらいで怯むことはない。
「いいから、脱げって言ってるんです!」
もはや、自分よりずっと大きな男に掴みかかる勢いだった。
服を引っ張られ、ボタンにも手をかけられそうになったレオンハルトは、「やめろ」「痴女か」と言いながらも抵抗を試みる。
その気になればアリアを突き飛ばすぐらい簡単にできるだろうが、それはしないあたり、彼にも騎士道精神はあるのだろう。
「とりゃあっ!」
抵抗もむなしく、レオンハルトのジャケットはアリアにむしりとられる。
今度はシャツのボタンに手をかけ、本格的に脱がそうとしてくるものだから、レオンハルトも焦った。
「おい、いい加減に……!」
「旦那様。夫婦のあいだに隠しごとはなし、ですよ?」
慌てるレオンハルトの前で、アリアはにっこりと笑ってみせた。
夫婦の愛なんてないと言っただろうが、とか、女性が男の服を奪い取って裸にしようとするのはどうなんだ、とか。
色々と言いたいことはあったが、騎士団長様は年下妻の勢いに押され気味だった。
こんな女だったのか、なんて今更思ったところでもう遅い。
気が付けば、アリアの手によってシャツのボタンも全開にされていた。
流石は弟たちの世話をしてきた姉といったところか。相当な手際のよさであった。
「っ……!」
肌を見られた。そう理解したレオンハルトは、バツが悪そうにアリアから顔を背ける。
そんな彼の前で、アリアは。
「……え?」
その体に広がる痛々しい痕を見て、言葉を失っていた。
火傷をしたときのような痕が、彼の胸や腹部に広がっている。
シャツの隙間から見える分だけでも、相当広範囲にわたっているように見えた。
こういった症状の出る事象に、アリアは心当たりがあった。
「もしかして……呪い?」
ぽつりと呟かれた言葉。
それに、レオンハルトが反応することはなかった。
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