8 / 23
1章
6 謎の子供と、旦那様の妹
しおりを挟む
「……旦那様、その子は……?」
震える声でそう尋ねても、レオンハルトからの返事はない。
レオンハルトの髪は青紫で、その腕に抱かれる子は銀髪。
髪色は異なるし、子は目を瞑っているから瞳の色もわからない。
けれどなんとなく、レオンハルトの面影があるような気がして。
アリアは自身の旦那と、突然やってきた子供を見比べて隠し子疑惑を深めた。
少しのあいだ二人をじっと見ていたアリアだったが、ふと、子の様子がおかしいことに気が付く。
目は閉じっぱなしで、顔が赤く、息も荒い。身体にも力が入っておらず、ぐったりしているように見える。
(もしかして……)
アリアがそっと幼子の額に触れる。
「やっぱり、すごい熱……!」
レオンハルトが連れ帰ってきた幼子は、少し触れただけでわかるほどの高熱を出していた。
そのことを理解したアリアは、すぐさま後ろを振り返り、使用人たちにてきぱきと指示を出す。
「この子を清潔な場所に運んで寝かせて! すぐにお医者様の手配を! 着替えも必要ね。用意できる?」
修羅場にも思える状況を見守っていた者たちが、アリアの言葉を受けて動き出す。
謎の子供も、アリアの指示通り使用人が別室へ運んでいった。
その後も、彼女は見知らぬ幼子の治療のため、使用人に声をかけ続ける。
両手が自由になったレオンハルトは、そんな妻を前にしてどこかぽかんとした様子だった。
***
幼子が別室で治療を受ける中、アリアとレオンハルトは向かい合ってしーんと静まり返っていた。
二人が座るソファの間に置かれたテーブルには、お茶が用意されている。しかし、無言の時間が長すぎてぬるくなり始めている。
アリアは、夫がなにかしらの説明をしてくれるのを待っていた。しかし、無言で腕を組み目を閉じるのみで、彼はなにも言いはしない。
そんな態度にやはり彼女は内心ブチ切れで。
(この人、なんっにも言わない! ちょっとぐらい自分からなにか話してくれたっていいんじゃないの!?)
そんなことを思ったって、説明なんてないものはないのだ。
アリアは一つため息をつくと、自ら切り出した。
「……旦那様。あの子とは、一体どのような関係なのでしょうか。何故、突然連れてきたのですか?」
妻の問いにレオンハルトは静かに目を開け、答える。
「……俺の甥だ。先ほど見た通り、高熱を出している。回復するまでうちにおくが、構わないな?」
「え、ええ……。治療には、私も賛成ですが……」
そういうことじゃないんだよ、とアリアは脳内でふしゃー! とツッコミを入れた。
高熱を出しているのも、治療が必要なのも見ればわかる。彼女が聞きたいのは、どうして連れてきたのか、の部分だ。
しかしレオンハルトは「どうして」の部分に回答する気はないらしく、再び黙ってしまう。
レオンハルトの話が本当なら、あの子は彼の甥っ子。であれば、なんとなく面影があることにも納得がいく……かも、しれない。
しかし、愛人と隠し子の疑惑が晴れることはない。
(甥っ子ってことは、兄弟の子供よね? 旦那様のご兄弟は、たしか……)
アリアは、結婚してすぐの頃の、執事とのやりとりを思い出していた。
このお屋敷の大きな階段を上がった先には、家族の肖像が飾られている。
レオンハルトの両親、まだ幼いレオンハルト。……それから、彼とあまり年の変わらない女の子の四人の姿が描かれており、アリアも「旦那様のご家族ね!」とその絵を眺めた。
今の冷徹旦那とは大違いのあどけなく可愛らしい姿に、「夏場に便利そうな室温下げ男にも、こんな可愛い時代があったのねえ……」としみじみとしたものだ。
女の子のほうは銀髪に青い瞳の美少女で、成長後は相当な美人さんになっていると確信できる。
描かれた子供二人は、どちらも10歳に満たないぐらいだろうか。そのぐらいの年頃だと、どちらが年上なのかよくわからないのはままあることで、アリアには二人のどちらが上の子なのかわからなかった。
肖像画を眺めるアリアのそばを、執事のウォルトが通りかかったので、確認してみる。
「ねえ、ウォルト。このお嬢さんは、旦那様のお姉さんか妹さんかしら?」
「ええ。妹君のステラ様でございます」
「結婚式には、来てなかったみたいだけど……」
二人の式には両家の家族が出席したが、レオンハルトの妹に会った覚えはなく、妹がいるという話すら聞かされていない。
なにか事情でもあったのかと、何の気なしにそう問えば、執事は目を伏せる。
「ステラ様は、旦那様がご結婚なさる半年ほど前に亡くなられて……」
思いもしなかった答えに、アリアも言葉を失う。気の利いたセリフなど浮かばず「そう、なの」と返すことしかできなかった。
震える声でそう尋ねても、レオンハルトからの返事はない。
レオンハルトの髪は青紫で、その腕に抱かれる子は銀髪。
髪色は異なるし、子は目を瞑っているから瞳の色もわからない。
けれどなんとなく、レオンハルトの面影があるような気がして。
アリアは自身の旦那と、突然やってきた子供を見比べて隠し子疑惑を深めた。
少しのあいだ二人をじっと見ていたアリアだったが、ふと、子の様子がおかしいことに気が付く。
目は閉じっぱなしで、顔が赤く、息も荒い。身体にも力が入っておらず、ぐったりしているように見える。
(もしかして……)
アリアがそっと幼子の額に触れる。
「やっぱり、すごい熱……!」
レオンハルトが連れ帰ってきた幼子は、少し触れただけでわかるほどの高熱を出していた。
そのことを理解したアリアは、すぐさま後ろを振り返り、使用人たちにてきぱきと指示を出す。
「この子を清潔な場所に運んで寝かせて! すぐにお医者様の手配を! 着替えも必要ね。用意できる?」
修羅場にも思える状況を見守っていた者たちが、アリアの言葉を受けて動き出す。
謎の子供も、アリアの指示通り使用人が別室へ運んでいった。
その後も、彼女は見知らぬ幼子の治療のため、使用人に声をかけ続ける。
両手が自由になったレオンハルトは、そんな妻を前にしてどこかぽかんとした様子だった。
***
幼子が別室で治療を受ける中、アリアとレオンハルトは向かい合ってしーんと静まり返っていた。
二人が座るソファの間に置かれたテーブルには、お茶が用意されている。しかし、無言の時間が長すぎてぬるくなり始めている。
アリアは、夫がなにかしらの説明をしてくれるのを待っていた。しかし、無言で腕を組み目を閉じるのみで、彼はなにも言いはしない。
そんな態度にやはり彼女は内心ブチ切れで。
(この人、なんっにも言わない! ちょっとぐらい自分からなにか話してくれたっていいんじゃないの!?)
そんなことを思ったって、説明なんてないものはないのだ。
アリアは一つため息をつくと、自ら切り出した。
「……旦那様。あの子とは、一体どのような関係なのでしょうか。何故、突然連れてきたのですか?」
妻の問いにレオンハルトは静かに目を開け、答える。
「……俺の甥だ。先ほど見た通り、高熱を出している。回復するまでうちにおくが、構わないな?」
「え、ええ……。治療には、私も賛成ですが……」
そういうことじゃないんだよ、とアリアは脳内でふしゃー! とツッコミを入れた。
高熱を出しているのも、治療が必要なのも見ればわかる。彼女が聞きたいのは、どうして連れてきたのか、の部分だ。
しかしレオンハルトは「どうして」の部分に回答する気はないらしく、再び黙ってしまう。
レオンハルトの話が本当なら、あの子は彼の甥っ子。であれば、なんとなく面影があることにも納得がいく……かも、しれない。
しかし、愛人と隠し子の疑惑が晴れることはない。
(甥っ子ってことは、兄弟の子供よね? 旦那様のご兄弟は、たしか……)
アリアは、結婚してすぐの頃の、執事とのやりとりを思い出していた。
このお屋敷の大きな階段を上がった先には、家族の肖像が飾られている。
レオンハルトの両親、まだ幼いレオンハルト。……それから、彼とあまり年の変わらない女の子の四人の姿が描かれており、アリアも「旦那様のご家族ね!」とその絵を眺めた。
今の冷徹旦那とは大違いのあどけなく可愛らしい姿に、「夏場に便利そうな室温下げ男にも、こんな可愛い時代があったのねえ……」としみじみとしたものだ。
女の子のほうは銀髪に青い瞳の美少女で、成長後は相当な美人さんになっていると確信できる。
描かれた子供二人は、どちらも10歳に満たないぐらいだろうか。そのぐらいの年頃だと、どちらが年上なのかよくわからないのはままあることで、アリアには二人のどちらが上の子なのかわからなかった。
肖像画を眺めるアリアのそばを、執事のウォルトが通りかかったので、確認してみる。
「ねえ、ウォルト。このお嬢さんは、旦那様のお姉さんか妹さんかしら?」
「ええ。妹君のステラ様でございます」
「結婚式には、来てなかったみたいだけど……」
二人の式には両家の家族が出席したが、レオンハルトの妹に会った覚えはなく、妹がいるという話すら聞かされていない。
なにか事情でもあったのかと、何の気なしにそう問えば、執事は目を伏せる。
「ステラ様は、旦那様がご結婚なさる半年ほど前に亡くなられて……」
思いもしなかった答えに、アリアも言葉を失う。気の利いたセリフなど浮かばず「そう、なの」と返すことしかできなかった。
6
お気に入りに追加
1,400
あなたにおすすめの小説
不要なモノを全て切り捨てた節約令嬢は、冷徹宰相に溺愛される~NTRもモラハラいりません~
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
皆様のお陰で、ホットランク一位を獲得しましたーーーーー。御礼申し上げます。
我が家はいつでも妹が中心に回っていた。ふわふわブロンドの髪に、青い瞳。まるでお人形さんのような妹シーラを溺愛する両親。
ブラウンの髪に緑の瞳で、特に平凡で地味な私。両親はいつでも妹優先であり、そして妹はなぜか私のものばかりを欲しがった。
大好きだった人形。誕生日に買ってもらったアクセサリー。そして今度は私の婚約者。
幼い頃より家との繋がりで婚約していたアレン様を妹が寝取り、私との結婚を次の秋に控えていたのにも関わらず、アレン様の子を身ごもった。
勝ち誇ったようなシーラは、いつものように婚約者を譲るように迫る。
事態が事態だけに、アレン様の両親も婚約者の差し替えにすぐ同意。
ただ妹たちは知らない。アレン様がご自身の領地運営管理を全て私に任せていたことを。
そしてその領地が私が運営し、ギリギリもっていただけで破綻寸前だったことも。
そう。彼の持つ資産も、その性格も全てにおいて不良債権でしかなかった。
今更いらないと言われても、モラハラ不良債権なんてお断りいたします♡
さぁ、自由自適な生活を領地でこっそり行うぞーと思っていたのに、なぜか冷徹と呼ばれる幼馴染の宰相に婚約を申し込まれて? あれ、私の計画はどうなるの……
※この物語はフィクションであり、ご都合主義な部分もあるかもしれません。
泥を啜って咲く花の如く
ひづき
恋愛
王命にて妻を迎えることになった辺境伯、ライナス・ブライドラー。
強面の彼の元に嫁いできたのは釣書の人物ではなく、その異母姉のヨハンナだった。
どこか心の壊れているヨハンナ。
そんなヨハンナを利用しようとする者たちは次々にライナスの前に現れて自滅していく。
ライナスにできるのは、ほんの少しの復讐だけ。
※恋愛要素は薄い
※R15は保険(残酷な表現を含むため)
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~
平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。
しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。
このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。
教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。
寝取られ予定のお飾り妻に転生しましたが、なぜか溺愛されています
あさひな
恋愛
☆感謝☆ホットランキング一位獲得!応援いただきましてありがとうございます(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)
シングルマザーとして息子を育て上げた私だが、乙女ゲームをしている最中にベランダからの転落事故により異世界転生を果たす。
転生先は、たった今ゲームをしていたキャラクターの「エステル・スターク」男爵令嬢だったが……その配役はヒロインから寝取られるお飾り妻!?
しかもエステルは魔力を持たない『能無し』のため、家族から虐げられてきた幸薄モブ令嬢という、何とも不遇なキャラクターだった。
おまけに夫役の攻略対象者「クロード・ランブルグ」辺境伯様は、膨大な魔力を宿した『悪魔の瞳』を持つ、恐ろしいと噂される人物。
魔獣討伐という特殊任務のため、魔獣の返り血を浴びたその様相から『紅の閣下』と異名を持つ御方に、お見合い初日で結婚をすることになった。
離縁に備えて味方を作ろうと考えた私は、使用人達と仲良くなるためにクロード様の目を盗んで仕事を手伝うことに。前世の家事スキルと趣味の庭いじりスキルを披露すると、あっという間に使用人達と仲良くなることに成功!
……そこまでは良かったのだが、そのことがクロード様にバレてしまう。
でも、クロード様は怒る所か私に興味を持ち始め、離縁どころかその距離はどんどん縮まって行って……?
「エステル、貴女を愛している」
「今日も可愛いよ」
あれ? 私、お飾り妻で捨てられる予定じゃありませんでしたっけ?
乙女ゲームの配役から大きく変わる運命に翻弄されながらも、私は次第に溺愛してくるクロード様と恋に落ちてしまう。
そんな私に一通の手紙が届くが、その内容は散々エステルを虐めて来た妹『マーガレット』からのものだった。
忍び寄る毒家族とのしがらみを断ち切ろうと奮起するがーー。
※こちらの物語はざまぁ有りの展開ですが、ハピエン予定となっておりますので安心して読んでいただけると幸いです。よろしくお願いいたします!
病弱令嬢ですが愛されなくとも生き抜きます〜そう思ってたのに甘い日々?〜
白川
恋愛
病弱に生まれてきたことで数多くのことを諦めてきたアイリスは、無慈悲と噂される騎士イザークの元に政略結婚で嫁ぐこととなる。
たとえ私のことを愛してくださらなくても、この世に生まれたのだから生き抜くのよ────。
そう意気込んで嫁いだが、果たして本当のイザークは…?
傷ついた不器用な二人がすれ違いながらも恋をして、溺愛されるまでのお話。
*少しでも気に入ってくださった方、登録やいいね等してくださるととっても嬉しいです♪*
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?
氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!
気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、
「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。
しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。
なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。
そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります!
✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる