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1章

4 初夜を拒む旦那様

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 夫はこんな態度であるが、屋敷の使用人たちはアリアを奥様として迎えてくれた。
 一人で進むレオンハルトに追いついて並んで屋敷に入れば、玄関には使用人がずらっと並んでお出迎え。
 夕食も、二人しかいないというのに広いダイニングを使い、そばには使用人が控えている。食事の内容も豪勢だ。こんな料理、実家では誕生日にすら食べることはできなかった。
 さらには着替えや入浴の世話までされて、身の回りのことを自身でこなしてきたアリアは少々恥ずかしくなってしまう。
 バスタブに浸かった状態で侍女に髪や身体を洗われながら、アリアはレオンハルトに告げられた言葉を思い返していた。

(義務として子は作るってことは……。初夜はあるのよね……?)

 嫌々であることは態度からにじみ出ていたが、彼はたしかにそう言った。
 つまり、夫婦の営みを行う意思はある、ということだ。
 貴族同士の結婚であれば、結婚したその日に夫婦の契りを――身体を繋げるのがこの国では一般的だ。
 だから、レオンハルトもおそらくそのつもりでいるだろう。
 そう考えると、肌や髪を磨かれているこの状況が、料理提供前の味付けや下準備のように思えてくる。

(恥ずかしいけど……。妻になったからには、これも私の仕事よね!)

 髪にオイルを揉みこまれながら、アリアはそう意気込んだ。
 相手は冷徹男だが、夫であることには違いない。次期公爵の妻となったアリアは、血筋を残すという己の務めを果たすべきなのだ。
 貴族同士の結婚という時点で、アリアだって当然覚悟している。恥ずかしいから無理です! なんて言っている場合ではなかった。

 身体を清められたアリアは、使用人から教えてもらった夫の寝室へと向かう。
 勇気を出してノックして、「アリアです」と名乗ると、やや間を開けてから扉が開く。
 もう休むつもりだったようで、レオンハルトも寝衣に着替えている。

「……なんの用だ」

 なんの用だって、新婚初日に妻が夫の寝室を訪ねたとあっては、用は1つしかないも同然だ。
 いちいち聞かないでくれません!? と思いながらも、アリアは恥ずかしさから頬を染めつつ高い位置にある夫の顔を見上げる。

「なにって、しょ、初夜を……」

 年下の新妻、必死のお誘いであった。しかし、7つ下の妻の上目遣いを受けた夫はといえば。

「そうか。必要ない。自分の部屋に戻れ」

 無情にもそう言い切って、ばたんとドアをしめてしまった。
 アリアは一人、廊下に残される。呆気にとられながらももう一度ノックしてみるが、以降、レオンハルトからの返事はなかった。
 どういうことよ! と部屋に突撃してやろうかと思ったものの、鍵まで閉められており。
 アリアは結婚して初めての夜を、自身に与えられた部屋で一人過ごすことになるのだった。
 こんな扱いだが、寝具は最高級のものが用意されていた。
 接し方は冷たいものの、どこまでも冷遇するつもりではないらしい。
 なんなのよ、と思いながら、アリアは眠りについた。
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