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第二章

12 その約束の行方は。

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 扉の前で従者が「うまくいけ!」と願っていることなど知らぬまま。
 ジョンズワートとカレンは、二人には広すぎるぐらいの個室で、メニューを眺めていた。

「カレン、なにがいい? きみの好きなものを頼んでいいよ」
「は、はい。ええと……。では、この紅茶とイチゴのタルトのセットを……」
「きみは昔から、紅茶とイチゴが好きだね」
「……覚えていてくださったのですか?」
「もちろん」

 ジョンズワートは、よくカレンに贈り物をしてくれる。それらがみな自分好みだったから、そうだろうとは思っていたが。
 彼はやはり、カレンが好きなものを覚えていてくれたのだ。
 もちろん、と迷うことなく返ってきた言葉に、じん、と目頭が熱くなる。

「じゃあ注文するよ」
「お願いしま……あっ」
「カレン?」
「あ、えっと、その、イチゴたっぷりパフェ、というものが目に入ってしまって……」

 タルトにする、と言ったばかりなのに目移りしてしまったことがなんだか恥ずかしくて。
 カレンは視線を泳がせた。
 どちらにせよイチゴのスイーツをご所望の妻に、ジョンズワートは愛しい者を見る目を向けて。

「やっぱりそっちにするかい?」
「……悩みます。タルトもパフェも、どちらも美味しそうで」
「なら、両方頼もうか」
「それだと、食べきれるかどうか……」
「どちらも半分こすればいいよ。ここは個室だ。誰も見ていない」

 ジョンズワートは、手の甲に顎をおき、いたずらっぽく笑う。
 彼は年若い公爵だから、侮られないよう気を張っていることが多い。
 そんな彼がこんな風に過ごせるのも、ここが個室で、妻と二人きりだからだろう。

 タルトはともかく、パフェを半分こするとなると、1つの器に二人でスプーンを突っ込むことになる。
 立場的にも人前では少々やりにくいことだが、ジョンズワートの言う通り、今は個室にいる。
 二人だけの秘密にすれば、なんの問題もない。
 それでも、パフェを二人でつつくなんて、初夜以来なにもされていなかったカレンには刺激の強いことだったが――

「は、はひ……」

 幼い頃から好きだった彼のいたずらっ子みたいな表情に押され、半分こを了承。
 そのときのカレンの声は、裏返っていた。

 店員を呼び、ジョンズワートが注文をすれば、ほどなくしてタルトとパフェ、2つのティーポットとカップが運ばれてくる。
 タルトは普通に半分に切ってわけっこ。
 パフェは……やはり、1つの器を二人でつつくことになった。
 結婚して数か月のカレン。キスすら初夜にしか経験がない。

 あまりのことに顔を真っ赤にして、ひゃー! となりながらも、彼女が食べる速度は変わらず。パフェとタルトを食べ進めていく。
 カレンは甘党なのである。
 ずっとキャパオーバー状態である彼女は気が付いていなかったが、パフェの半分以上……3分の2ぐらいはカレンが食べた。
 甘いものが好きな彼女のために、ジョンズワートが譲った部分も確かにある。
 しかし、だ。甘いものが好きであっても、許容量は人によって違う。
 カレンとジョンズワートの場合、両者甘いものは好きだが、許容量はカレンの方が上だった。
 ジョンズワートは早い段階で生クリームにやられ、スプーンの動きが鈍くなってしまったのである。
 後半はもう、パフェを吸い込むカレンを見守っている状態だったが、いっぱいいっぱいのカレンはそれに気が付くことなく、美味しく完食した。
 ちなみに、カレンは仲睦まじいカップルのようにパフェをつつき、半分ずつ食べたと思っている。

 タルトとパフェを食べ終わり、二人でのんびりと紅茶を楽しみ始めた頃。
 カレンが、おずおずとジョンズワートに話しかけた。

「あの、ワート、様。今日は誘ってくださってありがとうございます。とても楽しいし、嬉しいです。……あと、美味しかったです」
「……!」

 ジョンズワートの青い瞳が、驚きに開かれた。
 彼女の発した言葉の全てが、ジョンズワートにとってとても重要だったが……。カレンは、今、自分のことを「ワート様」と呼んだ。
 ジョンズワートと親しい者にしか許されない、愛称呼び。
 怪我をさせたあの日から、封印されていた呼び方である。それを、カレン自ら。
 ジョンズワートはもう、嬉しくてたまらなくて。ついつい、身を乗り出してしまった。

「……カレン。また一緒に出かけよう!」
 
 ジョンズワートの勢いに、少しびくっとしたカレンであったが。
 すぐに笑顔を取り戻し、「はい」と、確かに頷いた。
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