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第二章
9 わくわくと、ぐるぐる。
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ジョンズワートにエスコートされながら馬車に乗りこみ、彼の隣に座ったカレンだが……。
ずっと大好きだった妻とのデートにうっきうきのジョンズワートとは対照的に、「あれ???」と混乱していた。
食事中だったあのときは、彼に触れられてふわふわして、なんだかとてもいい心地で。その状態で、彼の誘いを受け入れてしまったのだが……。
少し時間が経った今、正気に戻ってしまったのである。
初夜以降、なにもなかった自分たちが――デート、をする。
ジョンズワートがデートと言ったのだから、これはデートなのだろう。
デート。どうして急に、デート。
自分が「一緒に出かけませんか」と言ったことがきっかけなのはわかっているのだが……。
まさか、こんなことになるなんて。
子供の頃に比べたらずっと丈夫になったとはいえ、カレンは、通常に比べれば今も身体が弱い。
今、季節は冬。カレンにとっては、つらい時期である。
ジョンズワートもそれを知っているからか、外の寒さにやられないよう、軽いのにとても温かい、上等な上着まで着せられている。
「カレン、大丈夫? 寒くはない?」
「は、はい。大丈夫です。ありがとうございます」
心配したジョンズワートが、カレンの顔を覗き込んでくる。
冬用の馬車だから元から距離が近いのに、更に近づかれてしまった。
こんなことをされたら、寒いどころか、顔も身体も暑くなってしまう。
あまりの近さに赤くなって俯くカレンを、にこにこのジョンズワートが見守っていた。
夫婦となって数か月経つはずなのに、カレンは初心なままだ。
これも、ジョンズワートが初夜以降、彼女に全く手を出さないからなのだが……。
その手を出さない夫のジョンズワートは、上機嫌すぎて花でも飛びそうな勢いであった。
彼の部下のアーティがこの場にいたら、でれでれすぎて気持ち悪いと言われてしまうことだろう。
「まずは、食器を見にいこうか。せっかくなら、きみと揃いのものが欲しいな」
「お、お揃いなんて、そんな」
「……嫌かい?」
「…………嫌なわけでは」
「じゃあそうしよう」
デートとかお揃いとか、急になんなんです!? とキャパオーバー真っ最中のカレンをよそに、ジョンズワートは御者に行先を指示する。
主人の言葉を受け、馬車がゆっくりと動き出した。
ホーネージュは、1年の半分ほどが冬の雪国だ。
だから、馬車の作りも他の国とは異なる。
冬には、小さめの作りの、そりをつけたものが使われるのだ。
通常は車輪かそりのどちらかのみがついているが、公爵家の所有物なだけあって、簡単な操作でそりから車輪へ切り替え可能になっている。
ちなみに、今はそりモードだ。
デュライト家の周辺はよく道が整備されているため、馬で進むことも可能だが、もっと雪深い場所になると、犬ぞりが主流なこともある。
出発した馬車――今はそりだから、馬ぞりと言った方が正しいのかもしれない――の中で、カレンはひたすら混乱していた。
初夜以降、夜会でのエスコート等の最低限の触れ方しかしてこなかった人に、プライベートで背や手を触られて。
デート、することになって。
揃いの食器が欲しいとまで言われている。
すごく優しいのに、自分を求めてくれない、外出への同行もほとんどなかった状態から、突然のこれである。
混乱するのも当然というものだろう。
わくわくのジョンズワートと、ぐるぐるのカレンのデートは、まだ始まったばかり。
ずっと大好きだった妻とのデートにうっきうきのジョンズワートとは対照的に、「あれ???」と混乱していた。
食事中だったあのときは、彼に触れられてふわふわして、なんだかとてもいい心地で。その状態で、彼の誘いを受け入れてしまったのだが……。
少し時間が経った今、正気に戻ってしまったのである。
初夜以降、なにもなかった自分たちが――デート、をする。
ジョンズワートがデートと言ったのだから、これはデートなのだろう。
デート。どうして急に、デート。
自分が「一緒に出かけませんか」と言ったことがきっかけなのはわかっているのだが……。
まさか、こんなことになるなんて。
子供の頃に比べたらずっと丈夫になったとはいえ、カレンは、通常に比べれば今も身体が弱い。
今、季節は冬。カレンにとっては、つらい時期である。
ジョンズワートもそれを知っているからか、外の寒さにやられないよう、軽いのにとても温かい、上等な上着まで着せられている。
「カレン、大丈夫? 寒くはない?」
「は、はい。大丈夫です。ありがとうございます」
心配したジョンズワートが、カレンの顔を覗き込んでくる。
冬用の馬車だから元から距離が近いのに、更に近づかれてしまった。
こんなことをされたら、寒いどころか、顔も身体も暑くなってしまう。
あまりの近さに赤くなって俯くカレンを、にこにこのジョンズワートが見守っていた。
夫婦となって数か月経つはずなのに、カレンは初心なままだ。
これも、ジョンズワートが初夜以降、彼女に全く手を出さないからなのだが……。
その手を出さない夫のジョンズワートは、上機嫌すぎて花でも飛びそうな勢いであった。
彼の部下のアーティがこの場にいたら、でれでれすぎて気持ち悪いと言われてしまうことだろう。
「まずは、食器を見にいこうか。せっかくなら、きみと揃いのものが欲しいな」
「お、お揃いなんて、そんな」
「……嫌かい?」
「…………嫌なわけでは」
「じゃあそうしよう」
デートとかお揃いとか、急になんなんです!? とキャパオーバー真っ最中のカレンをよそに、ジョンズワートは御者に行先を指示する。
主人の言葉を受け、馬車がゆっくりと動き出した。
ホーネージュは、1年の半分ほどが冬の雪国だ。
だから、馬車の作りも他の国とは異なる。
冬には、小さめの作りの、そりをつけたものが使われるのだ。
通常は車輪かそりのどちらかのみがついているが、公爵家の所有物なだけあって、簡単な操作でそりから車輪へ切り替え可能になっている。
ちなみに、今はそりモードだ。
デュライト家の周辺はよく道が整備されているため、馬で進むことも可能だが、もっと雪深い場所になると、犬ぞりが主流なこともある。
出発した馬車――今はそりだから、馬ぞりと言った方が正しいのかもしれない――の中で、カレンはひたすら混乱していた。
初夜以降、夜会でのエスコート等の最低限の触れ方しかしてこなかった人に、プライベートで背や手を触られて。
デート、することになって。
揃いの食器が欲しいとまで言われている。
すごく優しいのに、自分を求めてくれない、外出への同行もほとんどなかった状態から、突然のこれである。
混乱するのも当然というものだろう。
わくわくのジョンズワートと、ぐるぐるのカレンのデートは、まだ始まったばかり。
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