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冬
7 きみは、大事な大事な、たからもの。
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「お父さんが来てくれてよかったわねえ、ショーンちゃん」
「うん……」
カップをテーブルに置くと、老婦人はショーンの頭を撫でる。
ここまでのやりとりで、ショーンも少し落ち着いたようだ。まだ泣いてはいるが、先ほどのように激しく声をあげてはいない。
「あの、あなたは……?」
「この子が迷子になってたから、一時的に保護してたのよお。冷え切って泣いてたから、まずうちに連れてきたの。落ち着いたら警察にも届けるつもりだったのだけど……先にお父さんが来てくれて助かったわあ」
「はあ……」
「……一応聞くけれど、ショーンちゃんのお父さんでいいのよね?」
「は、はい」
「やっぱり! そっくりだもの!」
すぐわかったわあ、ショーンちゃんはお父さん似なのねえ、と老婦人は続ける。
一度はテーブルにおいたカップを取ると、再び二人のそばまでやってきて。
「はい、お父さん。ショーンちゃんに飲ませてあげて? あなたの分もこれから用意するわあ」
そう言って、温かい飲み物が入ったそれをジョンズワートに渡してきた。
幼子が飲むことを想定してだろうか。火傷しない程度の温度に調整されているように思えた。
「あ、ありがとうございます。あの……」
「いいのよお。お父さんも冷えてるでしょう? ちょっとあったまっていきなさいな。もう1つ用意するから、ちょっと待っててちょうだいね」
「いや、あの」
ジョンズワートとしては、ショーンが見つかったことを早く報告し、妻の元へ戻りたいのだが……。
迷子になっていたショーンを保護したという老婦人は、再び部屋の奥へと消えてしまった。
おそらく、そちらにキッチンがあるのだろう。
なんともマイペースでゆったりとしたご婦人を前に、公爵としてこの国をわたってきたはずのジョンズワートも調子を乱されていた。
なにも言えないまま老婦人を見送ったジョンズワート。ハッとしてショーンの状態を確認するが、外傷などはなく。
本人から話を聞いても、本当にここで保護されていただけのようだった。
安堵からはあーと盛大に息を吐き、ショーンをぎゅっと抱きしめた。
「よかった……。本当に、よかった……」
ジョンズワートの声は、少し、震えている。
実の父の、心からの言葉と温もり。なにか感じるものがあるのか、ショーンも黙って「父」に身を委ねた。
そのうち、2つのカップを用意した老婦人が二人の元へ戻ってくる。
お父さんも飲んでね、と言ってから1つはテーブルの上へ。もう1つは自分用のようで、それを持ったまま椅子に腰かけた。
ぎゅっとくっつくショーンとジョンズワート見ながらカップに口をつけ、老婦人はのんびりと話し始める。
「昔は旦那も子供もいたんだけどねえ。この年だから、子供は独り立ちして、旦那も他界しちゃって。一人だから、警察に届けるのも後になっちゃったわ。ごめんなさいね」
「いえ。この子を保護していただいたこと、感謝しております」
「そういえば、うちにいるってよくわかったわねえ」
「息子を探していると話したら、町の人が教えてくださったもので」
「そうだったの。確かに、親子でこれだけ似ていたらわかりやすいわあ」
一目でわかったもの、と婦人は続ける。それから、お父さんもお飲みなさい、とも。
カレンたちを外で待たせている中、申し訳ない気持ちもあるが……。
息子を保護してくれた人の厚意を無下にはできないし、ジョンズワートが冷えているのも確かだったから、用意された飲み物はありがたくいただいた。
それぞれに用意された分を飲み終わる頃には、ショーンもずいぶん落ち着いていた。
これ以上カレンたちを心配させるわけにもいかないし、ショーンももう大丈夫そうだったから、そろそろお暇することとした。
玄関先にて、老婦人は幼子とその父を笑顔で見送る。
「今回は、本当にありがとうございました。後ほどお礼に伺います」
「いいのよお、お礼なんて。久々に孫に会ったみたいで、私も楽しかったもの。ショーンちゃん、元気でね。お父さんから離れちゃダメよ?」
「うん……」
一人になって寂しかったのだろう。
ショーンは、自分を抱き上げるジョンズワートの胸にぺったりとくっつき、こくりと頷いた。
「お父さんも。このくらいの子はすーぐどこかへ行っちゃうからねえ。ちゃあんと手を繋いでおいてあげないと。目を離したら、いけないよ」
この老婦人は、ジョンズワートの事情どころか、正体も知らない。
だから、彼女は一般論を言っているだけだ。
幼い子供とはしっかり手を繋ぐ。どこかへ行ってしまわないよう、目を離さない。
当たり前のこと、普通のことなのだが……。
これまで何度も家族を失いかけたジョンズワートの胸に、響くものがあった。
ショーンがいなくなったあの時の、不安と絶望感。見つけたときの安堵と幸福。
ジョンズワートは、息子のショーンのことが本当に大事で、失いたくないと心の底から思っていることを、再確認した。
だから、返事は決まっている。
「……はい! もう、絶対に離しません」
ジョンズワートの力強い返事に、老婦人はうんうんと頷いた。
「うん……」
カップをテーブルに置くと、老婦人はショーンの頭を撫でる。
ここまでのやりとりで、ショーンも少し落ち着いたようだ。まだ泣いてはいるが、先ほどのように激しく声をあげてはいない。
「あの、あなたは……?」
「この子が迷子になってたから、一時的に保護してたのよお。冷え切って泣いてたから、まずうちに連れてきたの。落ち着いたら警察にも届けるつもりだったのだけど……先にお父さんが来てくれて助かったわあ」
「はあ……」
「……一応聞くけれど、ショーンちゃんのお父さんでいいのよね?」
「は、はい」
「やっぱり! そっくりだもの!」
すぐわかったわあ、ショーンちゃんはお父さん似なのねえ、と老婦人は続ける。
一度はテーブルにおいたカップを取ると、再び二人のそばまでやってきて。
「はい、お父さん。ショーンちゃんに飲ませてあげて? あなたの分もこれから用意するわあ」
そう言って、温かい飲み物が入ったそれをジョンズワートに渡してきた。
幼子が飲むことを想定してだろうか。火傷しない程度の温度に調整されているように思えた。
「あ、ありがとうございます。あの……」
「いいのよお。お父さんも冷えてるでしょう? ちょっとあったまっていきなさいな。もう1つ用意するから、ちょっと待っててちょうだいね」
「いや、あの」
ジョンズワートとしては、ショーンが見つかったことを早く報告し、妻の元へ戻りたいのだが……。
迷子になっていたショーンを保護したという老婦人は、再び部屋の奥へと消えてしまった。
おそらく、そちらにキッチンがあるのだろう。
なんともマイペースでゆったりとしたご婦人を前に、公爵としてこの国をわたってきたはずのジョンズワートも調子を乱されていた。
なにも言えないまま老婦人を見送ったジョンズワート。ハッとしてショーンの状態を確認するが、外傷などはなく。
本人から話を聞いても、本当にここで保護されていただけのようだった。
安堵からはあーと盛大に息を吐き、ショーンをぎゅっと抱きしめた。
「よかった……。本当に、よかった……」
ジョンズワートの声は、少し、震えている。
実の父の、心からの言葉と温もり。なにか感じるものがあるのか、ショーンも黙って「父」に身を委ねた。
そのうち、2つのカップを用意した老婦人が二人の元へ戻ってくる。
お父さんも飲んでね、と言ってから1つはテーブルの上へ。もう1つは自分用のようで、それを持ったまま椅子に腰かけた。
ぎゅっとくっつくショーンとジョンズワート見ながらカップに口をつけ、老婦人はのんびりと話し始める。
「昔は旦那も子供もいたんだけどねえ。この年だから、子供は独り立ちして、旦那も他界しちゃって。一人だから、警察に届けるのも後になっちゃったわ。ごめんなさいね」
「いえ。この子を保護していただいたこと、感謝しております」
「そういえば、うちにいるってよくわかったわねえ」
「息子を探していると話したら、町の人が教えてくださったもので」
「そうだったの。確かに、親子でこれだけ似ていたらわかりやすいわあ」
一目でわかったもの、と婦人は続ける。それから、お父さんもお飲みなさい、とも。
カレンたちを外で待たせている中、申し訳ない気持ちもあるが……。
息子を保護してくれた人の厚意を無下にはできないし、ジョンズワートが冷えているのも確かだったから、用意された飲み物はありがたくいただいた。
それぞれに用意された分を飲み終わる頃には、ショーンもずいぶん落ち着いていた。
これ以上カレンたちを心配させるわけにもいかないし、ショーンももう大丈夫そうだったから、そろそろお暇することとした。
玄関先にて、老婦人は幼子とその父を笑顔で見送る。
「今回は、本当にありがとうございました。後ほどお礼に伺います」
「いいのよお、お礼なんて。久々に孫に会ったみたいで、私も楽しかったもの。ショーンちゃん、元気でね。お父さんから離れちゃダメよ?」
「うん……」
一人になって寂しかったのだろう。
ショーンは、自分を抱き上げるジョンズワートの胸にぺったりとくっつき、こくりと頷いた。
「お父さんも。このくらいの子はすーぐどこかへ行っちゃうからねえ。ちゃあんと手を繋いでおいてあげないと。目を離したら、いけないよ」
この老婦人は、ジョンズワートの事情どころか、正体も知らない。
だから、彼女は一般論を言っているだけだ。
幼い子供とはしっかり手を繋ぐ。どこかへ行ってしまわないよう、目を離さない。
当たり前のこと、普通のことなのだが……。
これまで何度も家族を失いかけたジョンズワートの胸に、響くものがあった。
ショーンがいなくなったあの時の、不安と絶望感。見つけたときの安堵と幸福。
ジョンズワートは、息子のショーンのことが本当に大事で、失いたくないと心の底から思っていることを、再確認した。
だから、返事は決まっている。
「……はい! もう、絶対に離しません」
ジョンズワートの力強い返事に、老婦人はうんうんと頷いた。
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