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5 離さないって、決めたんだ。

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 ショーンは活発な男の子で、今いるのはホーネージュでも有名な、アーネスト領雪まつりの会場。
 当然、かなり人が多い。
 だからカレンもジョンズワートも、ショーンが迷子にならないよう気を付けていた。
 それは観光客に紛れた護衛だって同じで。
 三人に……特にショーンになにかあれば、すぐに助けがくるはずだった。

 そろそろ違うものを見に行こうと、三人が移動を始めたときだった。
 道行く人にぶつかって、一瞬、ジョンズワートとショーンの手が離れてしまった。
 まだまだ小さなショーンは、あっという間に人混みにのまれてしまう。

「ショーン!」

 必死に手を伸ばすが、ショーンの方はといえば、気の向くままに違う方向へ進みだす。
 ジョンズワートも護衛もすぐに追いつくことはできず。
 ショーンは、一人でどこかへ消えてしまった。
 その後、皆で必死に探すがショーンは見つからない。
 少し経ったタイミングで、護衛がジョンズワートにあるものの存在を報告した。
 高低差を利用して作られた、雪でできた長い滑り台である。
 いくら人が多いとはいえ、カレンもジョンズワートも、複数名の護衛もいたのである。そんな中、こんなにもすっといなくなるのは難しいだろう。
 だが、この滑り台を見つけて、一人で滑り下りてしまったのなら。降りた先で駆けて行けば、そのまま姿を消すこともできる。
 先ほど滑り台の楽しさを存分に味わったショーンなら、これだけの高低差のものでも一人で乗ってしまうかもしれない。
 聞き込みをすれば、小さな男の子が一人で滑っていった、という証言を得ることもできた。
 ショーンは、滑り台を使って大人たちの目が届かない場所までおり、そのままどこかへ行ってしまったのだ。

 カレンももちろんだが……ジョンズワートの心臓は、どっどっど、と嫌な音を立てていた。
 ショーンが、自分たちの元からいなくなった。
 ただ迷子に――それも十分に危険なことではあるが――なっただけかもしれない。
 しかし、ジョンズワートは二度にわたって家族を誘拐されている。……一度目は、偽装だったけれど。
 ジョンズワートは、今まで何度も大事な人を失いかけているのだ。
 今回も、もしかしたら誘拐されたのではないかと。
 ジョンズワートの中で、どんどん不安が大きくなっていく。

 なにも公爵の看板をぶら下げて遊んでいたわけではないが、自分たちが公爵家の人間だと、わかる人にはわかるかもしれない。
 義理の両親にもらった防寒具も、見定めるつもりで見れば簡単にわかる上等なもので。正体を知らなくとも、ショーンがお坊ちゃんであることは理解できるだろう。
 あの幼子を誘拐の対象とする理由は、十分にある。

 冬だというのに、ジョンズワートからは嫌な汗が流れる。
 早く、ショーンを見つけなければ。
 ショーンが戻ってくるかもしれないから、カレンと護衛の一人には雪像がある場所に残ってもらい、ジョンズワートを含めた他の者はショーンの捜索にあたる。
 必死になって駆け回るが、やはりショーンは見つからない。



 呼び方は今も「わとしゃ」だけれど。ショーンとも、ずいぶん親子らしくなれた。
 もしかしたら、そう遠くないうちにお父さんと認めてもらえるのではないかと、期待していた。
 離れ離れになっていた分、大事にするつもりだった。もう妻子を離さないと誓っていた。
 それなのに、また、失うのだろうか。

「ショーン! どこだ、ショーン! ショーン!」

 ジョンズワートの叫びもむなしく、息子が見つかることはなく、時間だけが過ぎていく。
 絶対に失わないと、もう手を離さないと決めていたのに――大事なものが、ジョンズワートの手をすり抜けていく。
 最初にカレンが消えたときのこと。再会後、カレンとショーンが誘拐されたこと。過去の恐怖が、ジョンズワートの脳裏に蘇る。
 大きな声を出しながら走り続けたジョンズワートは、はあはあと荒い息をしながら膝に手をつく。

「ショーン……」

 涙がこぼれてしまいそうだった。
 恐怖に足がすくみそうだった。
 けれど、このまま立ち止まっているわけにはいかない。
 今度こそ、大事な人を失いたくない。
 疲れていたって、挫けそうになったって、追いかける。見つけ出す。諦めない。
 ジョンズワートはこぼれそうになる涙を拭き、ぐっと顔を上げた。

「絶対、見つけるから」

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