66 / 77
冬
5 離さないって、決めたんだ。
しおりを挟む
ショーンは活発な男の子で、今いるのはホーネージュでも有名な、アーネスト領雪まつりの会場。
当然、かなり人が多い。
だからカレンもジョンズワートも、ショーンが迷子にならないよう気を付けていた。
それは観光客に紛れた護衛だって同じで。
三人に……特にショーンになにかあれば、すぐに助けがくるはずだった。
そろそろ違うものを見に行こうと、三人が移動を始めたときだった。
道行く人にぶつかって、一瞬、ジョンズワートとショーンの手が離れてしまった。
まだまだ小さなショーンは、あっという間に人混みにのまれてしまう。
「ショーン!」
必死に手を伸ばすが、ショーンの方はといえば、気の向くままに違う方向へ進みだす。
ジョンズワートも護衛もすぐに追いつくことはできず。
ショーンは、一人でどこかへ消えてしまった。
その後、皆で必死に探すがショーンは見つからない。
少し経ったタイミングで、護衛がジョンズワートにあるものの存在を報告した。
高低差を利用して作られた、雪でできた長い滑り台である。
いくら人が多いとはいえ、カレンもジョンズワートも、複数名の護衛もいたのである。そんな中、こんなにもすっといなくなるのは難しいだろう。
だが、この滑り台を見つけて、一人で滑り下りてしまったのなら。降りた先で駆けて行けば、そのまま姿を消すこともできる。
先ほど滑り台の楽しさを存分に味わったショーンなら、これだけの高低差のものでも一人で乗ってしまうかもしれない。
聞き込みをすれば、小さな男の子が一人で滑っていった、という証言を得ることもできた。
ショーンは、滑り台を使って大人たちの目が届かない場所までおり、そのままどこかへ行ってしまったのだ。
カレンももちろんだが……ジョンズワートの心臓は、どっどっど、と嫌な音を立てていた。
ショーンが、自分たちの元からいなくなった。
ただ迷子に――それも十分に危険なことではあるが――なっただけかもしれない。
しかし、ジョンズワートは二度にわたって家族を誘拐されている。……一度目は、偽装だったけれど。
ジョンズワートは、今まで何度も大事な人を失いかけているのだ。
今回も、もしかしたら誘拐されたのではないかと。
ジョンズワートの中で、どんどん不安が大きくなっていく。
なにも公爵の看板をぶら下げて遊んでいたわけではないが、自分たちが公爵家の人間だと、わかる人にはわかるかもしれない。
義理の両親にもらった防寒具も、見定めるつもりで見れば簡単にわかる上等なもので。正体を知らなくとも、ショーンがお坊ちゃんであることは理解できるだろう。
あの幼子を誘拐の対象とする理由は、十分にある。
冬だというのに、ジョンズワートからは嫌な汗が流れる。
早く、ショーンを見つけなければ。
ショーンが戻ってくるかもしれないから、カレンと護衛の一人には雪像がある場所に残ってもらい、ジョンズワートを含めた他の者はショーンの捜索にあたる。
必死になって駆け回るが、やはりショーンは見つからない。
呼び方は今も「わとしゃ」だけれど。ショーンとも、ずいぶん親子らしくなれた。
もしかしたら、そう遠くないうちにお父さんと認めてもらえるのではないかと、期待していた。
離れ離れになっていた分、大事にするつもりだった。もう妻子を離さないと誓っていた。
それなのに、また、失うのだろうか。
「ショーン! どこだ、ショーン! ショーン!」
ジョンズワートの叫びもむなしく、息子が見つかることはなく、時間だけが過ぎていく。
絶対に失わないと、もう手を離さないと決めていたのに――大事なものが、ジョンズワートの手をすり抜けていく。
最初にカレンが消えたときのこと。再会後、カレンとショーンが誘拐されたこと。過去の恐怖が、ジョンズワートの脳裏に蘇る。
大きな声を出しながら走り続けたジョンズワートは、はあはあと荒い息をしながら膝に手をつく。
「ショーン……」
涙がこぼれてしまいそうだった。
恐怖に足がすくみそうだった。
けれど、このまま立ち止まっているわけにはいかない。
今度こそ、大事な人を失いたくない。
疲れていたって、挫けそうになったって、追いかける。見つけ出す。諦めない。
ジョンズワートはこぼれそうになる涙を拭き、ぐっと顔を上げた。
「絶対、見つけるから」
当然、かなり人が多い。
だからカレンもジョンズワートも、ショーンが迷子にならないよう気を付けていた。
それは観光客に紛れた護衛だって同じで。
三人に……特にショーンになにかあれば、すぐに助けがくるはずだった。
そろそろ違うものを見に行こうと、三人が移動を始めたときだった。
道行く人にぶつかって、一瞬、ジョンズワートとショーンの手が離れてしまった。
まだまだ小さなショーンは、あっという間に人混みにのまれてしまう。
「ショーン!」
必死に手を伸ばすが、ショーンの方はといえば、気の向くままに違う方向へ進みだす。
ジョンズワートも護衛もすぐに追いつくことはできず。
ショーンは、一人でどこかへ消えてしまった。
その後、皆で必死に探すがショーンは見つからない。
少し経ったタイミングで、護衛がジョンズワートにあるものの存在を報告した。
高低差を利用して作られた、雪でできた長い滑り台である。
いくら人が多いとはいえ、カレンもジョンズワートも、複数名の護衛もいたのである。そんな中、こんなにもすっといなくなるのは難しいだろう。
だが、この滑り台を見つけて、一人で滑り下りてしまったのなら。降りた先で駆けて行けば、そのまま姿を消すこともできる。
先ほど滑り台の楽しさを存分に味わったショーンなら、これだけの高低差のものでも一人で乗ってしまうかもしれない。
聞き込みをすれば、小さな男の子が一人で滑っていった、という証言を得ることもできた。
ショーンは、滑り台を使って大人たちの目が届かない場所までおり、そのままどこかへ行ってしまったのだ。
カレンももちろんだが……ジョンズワートの心臓は、どっどっど、と嫌な音を立てていた。
ショーンが、自分たちの元からいなくなった。
ただ迷子に――それも十分に危険なことではあるが――なっただけかもしれない。
しかし、ジョンズワートは二度にわたって家族を誘拐されている。……一度目は、偽装だったけれど。
ジョンズワートは、今まで何度も大事な人を失いかけているのだ。
今回も、もしかしたら誘拐されたのではないかと。
ジョンズワートの中で、どんどん不安が大きくなっていく。
なにも公爵の看板をぶら下げて遊んでいたわけではないが、自分たちが公爵家の人間だと、わかる人にはわかるかもしれない。
義理の両親にもらった防寒具も、見定めるつもりで見れば簡単にわかる上等なもので。正体を知らなくとも、ショーンがお坊ちゃんであることは理解できるだろう。
あの幼子を誘拐の対象とする理由は、十分にある。
冬だというのに、ジョンズワートからは嫌な汗が流れる。
早く、ショーンを見つけなければ。
ショーンが戻ってくるかもしれないから、カレンと護衛の一人には雪像がある場所に残ってもらい、ジョンズワートを含めた他の者はショーンの捜索にあたる。
必死になって駆け回るが、やはりショーンは見つからない。
呼び方は今も「わとしゃ」だけれど。ショーンとも、ずいぶん親子らしくなれた。
もしかしたら、そう遠くないうちにお父さんと認めてもらえるのではないかと、期待していた。
離れ離れになっていた分、大事にするつもりだった。もう妻子を離さないと誓っていた。
それなのに、また、失うのだろうか。
「ショーン! どこだ、ショーン! ショーン!」
ジョンズワートの叫びもむなしく、息子が見つかることはなく、時間だけが過ぎていく。
絶対に失わないと、もう手を離さないと決めていたのに――大事なものが、ジョンズワートの手をすり抜けていく。
最初にカレンが消えたときのこと。再会後、カレンとショーンが誘拐されたこと。過去の恐怖が、ジョンズワートの脳裏に蘇る。
大きな声を出しながら走り続けたジョンズワートは、はあはあと荒い息をしながら膝に手をつく。
「ショーン……」
涙がこぼれてしまいそうだった。
恐怖に足がすくみそうだった。
けれど、このまま立ち止まっているわけにはいかない。
今度こそ、大事な人を失いたくない。
疲れていたって、挫けそうになったって、追いかける。見つけ出す。諦めない。
ジョンズワートはこぼれそうになる涙を拭き、ぐっと顔を上げた。
「絶対、見つけるから」
30
お気に入りに追加
3,393
あなたにおすすめの小説
バイバイ、旦那様。【本編完結済】
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
妻シャノンが屋敷を出て行ったお話。
この作品はフィクションです。
作者独自の世界観です。ご了承ください。
7/31 お話の至らぬところを少し訂正させていただきました。
申し訳ありません。大筋に変更はありません。
8/1 追加話を公開させていただきます。
リクエストしてくださった皆様、ありがとうございます。
調子に乗って書いてしまいました。
この後もちょこちょこ追加話を公開予定です。
甘いです(個人比)。嫌いな方はお避け下さい。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。
window
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。
「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」
ある日ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。
「私も新婚旅行に一緒に行きたい」彼を溺愛する幼馴染がお願いしてきた。彼は喜ぶが二人は喧嘩になり別れを選択する。
window
恋愛
イリス公爵令嬢とハリー王子は、お互いに惹かれ合い相思相愛になる。
「私と結婚していただけますか?」とハリーはプロポーズし、イリスはそれを受け入れた。
関係者を招待した結婚披露パーティーが開かれて、会場でエレナというハリーの幼馴染の子爵令嬢と出会う。
「新婚旅行に私も一緒に行きたい」エレナは結婚した二人の間に図々しく踏み込んでくる。エレナの厚かましいお願いに、イリスは怒るより驚き呆れていた。
「僕は構わないよ。エレナも一緒に行こう」ハリーは信じられないことを言い出す。エレナが同行することに乗り気になり、花嫁のイリスの面目をつぶし感情を傷つける。
とんでもない男と結婚したことが分かったイリスは、言葉を失うほかなく立ち尽くしていた。
【完結】貴方をお慕いしておりました。婚約を解消してください。
暮田呉子
恋愛
公爵家の次男であるエルドは、伯爵家の次女リアーナと婚約していた。
リアーナは何かとエルドを苛立たせ、ある日「二度と顔を見せるな」と言ってしまった。
その翌日、二人の婚約は解消されることになった。
急な展開に困惑したエルドはリアーナに会おうとするが……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
window
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!
たまこ
恋愛
エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。
だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる