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1 今度は、三人で。

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 チェストリー不在のまま、時は流れ。
 ホーネージュの1年の半分近くを占める季節、冬がやってきた。
 ショーンはこことは違う温暖な土地で育ったから。みな、この幼子が風邪などひかないよう気を配った。
 その甲斐あってか、冬と呼べる時期に入っても、ショーンは寝込むほどの体調不良には襲われていない。
 4年過ごしたラントシャフトとの差にやられたのは、母親であるカレンのほうだった。
 どうも、ショーンは見た目だけでなく体の丈夫さも父親譲りなようだ。
 寒さにやられて寝込む母のベッドで、今日は誰と遊んだ、ジョンズワートとこういうことをしたと報告する姿も、幼い頃の父に似ていた。
 ベッドに乗りあげ、たどたどしくも楽しそうに母に今日の出来事を報告するショーンと、それを聞いて微笑む母。
 そこにジョンズワートも加わる光景は、もうすっかり家族のそれで。
 そうやって二人がカレンを元気づけてくれたからか、数か月が経過したころには、カレンもホーネージュの冬に適応し始めていた。
 
 カレン自身もそれを感じ始めたころ、彼女は夫のジョンズワートにこう提案した。

「ワート様。故郷の雪まつりに行きたいのですが……」

 夜、夫婦の寝室にて。二人一緒にベッドに乗りあげて、温もりを分け合うかのように身を寄せ合っていたときのことだった。
 それまで上機嫌に妻の髪を撫でていたジョンズワートが、びしっとかたまった。

「あの……?」

 いいね、いこうか。と快諾されると思っていたカレン。どうしましたか、と聞こうとして、自身の過去の行いを思い出す。
 妊娠の可能性を隠し、誘拐と死亡を偽装したあの日。カレンは、雪まつりに行きたいと言って無理に外出し、そのまま姿を消した。
 ジョンズワートはきっと、あの時のことを思い出してしまったのだろう。
 そのことに気が付いたカレンは、誤解をときたい、ジョンズワートの不安を取り除きたい一心で必死になって。

「さ、三人で! 三人で一緒に行きたいのです! 私の故郷のお祭りを、ショーンにも見て欲しくて!」
「あ、ああ、そうだよね。三人で、だよね」

 ジョンズワートもまた、三人、三人だよね、と三人一緒であることを何度も繰り返していた。

 過去の恐怖を思い出してしまったジョンズワートも、思い出させるようなことをしてしまったカレンも、まだ心臓が変な動き方をしている。
 少しの沈黙ののち。

「前とは、違うんだよね」

 ジョンズワートが静かに、確かめるようにそう言った。

「……はい。もう、あなたの前から姿を消したりしません。三人で、一緒に……。家族揃って、行きましょう?」
「うん。楽しみだな。きっとショーンも喜ぶよ」
「ええ。アーネスト領の雪まつりは盛大なものですから、きっと大はしゃぎですよ」

 そのあとは、雪まつりに行くならアーネスト家にも顔を出そう、どの日にどんな催しが行われるのか確認しよう、と話したり。
 まだ十代だったころ、二人で行ったよねと思い出話をしたり。
 先ほどまでの凍った空気が嘘だったかのように、和やかに会話が進んでいく。
 
 アーネスト領の雪まつり。
 過去には、カレンがジョンズワートに「さようなら」を告げるために使われた催しであるが……。
 今度はきっと、楽しい思い出になる。
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