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2 霧が、晴れてきている。

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 こんなにも楽しく、嬉しい時間が来るなんて、思いもしなかった。
 色々あったし、大きなことをしてしまったのは自分だから、今だって、カレンの中から後悔や懺悔の気持ちは消えていない。
 でも、この罪はずっと背負っていくと決めていた。
 家族としてやり直すためとはいえ、誘拐と死亡の偽装が真実であった、という嘘までついている。
 優しさや良心のある人々に。自分によくしてくれる人たちに。
 カレンはずっと嘘をつき続けるのだ。
 真実を話すこともできず、その荷をおろすこともできない。
 死ぬまで……いや、命を失ったあとも。カレンはずっと、自分の罪を、自分の中に置き続けるのである。
 これは、多くの過ちを犯したカレンへの、罰であった。
 
 しかし、だからといって、笑顔になる資格まで奪われるわけじゃない。
 家族としてやり直したいというのは、他でもないカレン自身が望むことでもあるが――ショーンとジョンズワートのためにできることの1つでもあるのだ。
 カレンが笑うと、二人も喜ぶ。カレンを笑わせようとして、二人が仲良くなる。
 それにもちろん、カレンだって嬉しいし、楽しい。
 だからカレンは、笑っていていいのだ。楽しいと思っていいのだ。
 自分のためにも、大事な人たちのためにも。

 そう思えることが、そうさせてくれることが。本当に嬉しくて、楽しくて、愛おしくて。
 
「二人ともありがとう。大好き」

 カレンは、そう言いながら夫と息子を抱きしめた。
 大きさの差がありすぎるため、二人いっぺんにとはいかなかったから、順番に。
 ふわっと抱きしめられた二人は、ぱあっと表情を輝かせ、やっぱり同じ顔をして喜んで。
 やっぱり似てるなあ、と。カレンからはまた笑みがこぼれた。



 結婚してから逃走までの間や、公爵邸に戻ってきてすぐの頃は暗い表情も多かった彼女だが。
 今では、こうしてよく笑っている。
 人間、思いつめたり追い詰められたりしているときは、本来の性質が隠れてしまうもので。
 カレンに笑顔が増えてきたのは、夏ぐらいだったろうか。少しずつ、彼女の中の霧が晴れてきているのだろう。
 本来の姿に、戻ってきている。幼い頃から彼女を知るジョンズワートも、それは感じていた。
 元来、彼女はよく笑う人だったのだ。
 妻が元気になってくれたこと、笑ってくれることが嬉しくて。ジョンズワートも、ついついショーンと一緒になってカレンに色々なものを見せてしまう。

 27歳になったというのに、幼い頃と、やっていることが変わらない。
 そんな風にも思いながらも、これでいいのだと、ジョンズワートは思っていた。
 息子も、妻も、こんなにも喜んでいる。



 別の日、ジョンズワートはまた、ショーンを遊びに誘った。
 しゃがんで息子に視線を合わせ、作戦会議の始まりだ。

「さあ、ショーン。今日は母さんになにを見せようか」
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