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3 お父さん、二人。

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 初めての家族旅行だから。
 宿はこの辺りでも評判の、オーシャンビューのものを選んだ。
 ガラス張りの大きな窓からは、夕日が沈む海が見える。
 これにもやっぱりショーンは大喜びで。
 喜んでいるのは確かだが、今までとは少し様子が違い。
 じっと窓に張り付いて、この光景を目に焼き付けているようだった。
 あまりの美しさに、感動しているのかもしれない。

「おかあしゃ、おかあしゃん!」

 そしてやっぱりカレンを呼んで。
 カレンがショーンの隣で屈んだが、ショーンはまだきょろきょろしている。

「おとーしゃは?」
「お父さん? えっと……」

 ショーンが「お父さん」を探している。
 チェストリーも同じ宿に泊まっているが、部屋は別だ。すぐに呼んでくることはできるが……。
 カレンは、ショーンの言う「お父さん」がジョンズワートとチェストリーのどちらなのだろうか、と少し悩んでしまった。
 それほどに、ジョンズワートとショーンの距離は縮まっているのだ。
 近くにいたジョンズワートも同様で。
 ショーンに呼ばれているのが、自分なのか、チェストリーなのか、わからない。
 自分であって欲しいという思いはあったが――今のショーンの中で「お父さん」と言えばチェストリーだろう。
 そう判断して、彼を呼びに行こうと席を立ったのだが。

「こっち! こっち、きて!」

 とショーンがぶんぶんと手を振っている。ジョンズワートに向かって、こちらに来いと言いたげに、手を、振っている。
 ショーンが呼んでいた「お父さん」は、自分だったのだろうか。
 それとも、仲のいいおじさんである自分がどこかへ行こうとしたから、こっちに来てと呼んだだけなのか。
 どちらなのかは、わからなかったが――。
 ジョンズワートは、ショーン、カレンと並んで、夕日を眺めた。
 ショーンを抱きあげて、子供の目線より高い位置から外を見せてやれば、ショーンはさらに喜んだ。



 チェストリーも含めた四人で食事をとったり、カレンたちの部屋にチェストリーを呼ぶこともあった。
 そのときは、チェストリーに対して「お父さん」と言っていたが。
 ジョンズワートとチェストリー両方の膝に乗ってみたり、男二人を交互に馬にしたり。
 もう、ショーンの中で、チェストリーもジョンズワートも父親のようなもの。
 甘えられる相手。遊んでくれる人。……自分を、大事にしてくれる人。
 そんな雰囲気だった。
 ダブルお父さん。馬二体。男二人の腕を使ってぶら下がる。片方が疲れてしまったら、もう片方へ。
 ショーンは不憫な境遇ではあるのだが――大人の男二人を好きに使う様子は、なかなかに贅沢であった。それも、片方は公爵様である。


 カレンは、父と息子の時間を奪ってしまったこと、ショーンが本来あるべき場所を奪ってしまったことを、強く後悔していた。
 それは、今も消えてはいないのだが……。
 広い宿の中、ショーンがジョンズワートに駆け寄り、その足に突撃。
 息子が直撃したジョンズワートからは「ぐっ」と小さな呻きが出たが……ショーンはおかまいなし。
 両手をあげて、抱っこをねだった。
 身長の高いジョンズワートに抱き上げられ、息子は笑い声をあげている。
 たかいたかいをされれば、きゃー、と大変な盛り上がりをみせている。
 ジョンズワードに懐き、たくさん笑ってたくさん遊ぶ息子を見ると、少しだけ、安心できた。
 少なくとも、今のショーンは、不幸ではないのだろうと。そう思えたから。
 だって、こんなにも喜んでいる。
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