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新たな始まり

3 吹っ切れた公爵様は、妻を溺愛中。 一方奥様は、嬉しさと恥ずかしさでたじたじです!

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 カレンの肩を抱きながら、ジョンズワートもまた、己の過ちを振り返っていた。

 二度目の求婚のとき、あんな手を使うべきではなかった。
 返事に困る彼女の傷に触れて、無理やり頷かせるなんて。
 責任をとるためなんかじゃない。きみが好きなんだと、何年経っても諦めることができなかったのだと、彼女に届くまで伝え続けるべきだったのだ。

 結婚後だってそうだ。
 ジョンズワートは、勝手に彼女を守っているつもりになっていた。
 実際、大事に扱ってはいた。けれど……本当に必要なことは、できていなかった。
 嫌われているとしても、カレンの外出に同行したいと、もっと早くに言ってみるべきだった。
 彼女が勇気を振り絞って夜の営みに誘ってきたときも、ただ拒むだけではなく、もっと言葉が必要だった。
 結婚さえしてしまえば大丈夫、この先の時間もあるだなんて思って、悠長に構えているべきではなかった。
 ジョンズワートは、ひどく臆病で。間違ってばかりで。
 なのに彼女への気持ちを捨てることも、諦めることもできなくて。
 いつもいつも、色々なものが足りていなかった。

 たしかに、1度目の求婚をした15歳のときはひどく傷ついたし、そのあとは父が病気を患わったこともあり、本当に大変だった。
 だとしても、カレンのことを想っているつもりで、結局、自分のことしか見ていなかったのかもしれない。
 どれもこれも、これ以上、自分が傷つきたくなかっただけだったのかもしれない。

 それでも、カレンは帰ってきてくれた。
 こんな情けない、彼女を傷つけてばかりの、自分のもとに。
 すれ違いを解消し、想いを通じ合わせた今、ジョンズワートは、もう、臆病になるのはやめた。
 今度こそ、彼女を大事にしてみせる。
 大事にしているようで、蔑ろにしていたあの過ちを、もう繰り返したくない。
 ……完璧には、いかないかもしれないけれど。
 もう、カレンを泣かせたくなかった。



 ラントシャフトからホーネージュに到着するまで、時間はたっぷりとあったから。
 その間に、互いにすれ違っていたことは確認済みだ。
 ジョンズワートがカレンを大事にしているつもりだったこと。カレンに嫌われていると思い込んでいたこと。
 カレンも、責任を取るなんて形で結婚させたくなかったこと、これ以上ジョンズワートを縛りたくなくて逃げたことなどを、しっかり伝え合っている。



 ジョンズワートは、カレンの肩を抱く手に、少しだけ力を込めた。
 自分がここにいることが。今、一緒にいることが。彼女にしっかり伝わるように。

「遅くなってしまったけど、やり直そう」
「……はい。ワート様」

 カレンにも、ジョンズワートの温もりが、存在が、しっかり伝わっていた。
 二人は、この先。こうして寄り添い合って進んでいくのだろう。
 カレンの瞳からは、さきほどとは違う理由で涙が出そうになる。
 色々あったけれど、今のカレンは、幸福だった。
 彼とともにいられるこの時間を、噛みしめていた。
 それはジョンズワートも同じであるのだが――

「……ということで、カレン。僕はもう、怯えて逃げるのはやめるから。きみが好きだってしっかり伝えていくよ」
「は、はい……」

 そう言うジョンズワートは、それはもうにっこにこで。
 カレンに頬ずりしながら、髪を撫でている。可愛い、可愛い、好き、という言葉つきだ。
 この変わりっぷりには、奥様のカレンもたじたじで。
 でも、逃げはしなかった。だって、ジョンズワートに触られることが、愛されることが、とても嬉しいのだから。

 カレンは、思う。
 この表情、行動、態度で。
 愛されていないとか、責任を取るためだけの結婚だとか、思えるわけがない。

 にっこにこのジョンズワートに撫でられて、顔を真っ赤にするカレン。
 手は膝におき、やや硬直気味だ。
 4年前には自分に触れもしなかった旦那様に愛され過ぎて、奥様は絶賛戸惑い中。

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