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新たな始まり
1 嬉しさと、後悔と。
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デュライト公爵邸の庭に置かれた椅子に座り、カレンは春の日差しを浴びていた。
カレンの侍女を続けるサラも、そばにいる。
とはいえ、ホーネージュは雪国。穏やな気候だったラントシャフトに比べると、春であっても少し肌寒く思える。
カレンは、ふと思い出す。
ジョンズワートに二度目の求婚をされたときも、こんな天気だったなあと。
あのとき、カレンは彼の申し出を受けるべきかどうか迷っていた。
20歳のカレンは、ジョンズワートへの恋心が消えていないことを自覚し、揺れていた。
自分に素直になって、すぐに頷けばよかったのかもしれないが……。二人は8年もまともに会話もしていなかったし、サラとの噂も知っていた。
だからジョンズワートの意図がわからず、返事もできないでいるうちに、額の傷に触れられ――傷をつけた責任を利用して、彼と結婚してしまった。
その後の結婚生活では、彼はとても優しかったが、カレンが本当に必要としていることはしてくれなくて。
そんな折、サラとキスしているような場面も見てしまい、妊娠の可能性にも気が付き……ひどいやり方で、ジョンズワートの元から逃げ出してしまった。
ジョンズワートにも非はあった。
しかしそれも、彼が15歳だったとき、最初の求婚でカレンがひどい言葉で彼を傷つけたから、臆病になっていたわけで。
自分のせいで、多くの人に迷惑をかけてしまった。心配させた。
ジョンズワートをたくさん傷つけてしまった。
息子のショーンにだって、余計な苦労をさせている。
「ほら、ショーン。おいで。気を付けてね」
「うん!」
俯くカレンの耳に、ショーンとジョンズワートの笑い声が届く。
顔を上げれば、ジョンズワートがショーンに肩車をしてやっていた。
帰国後、ジョンズワートは可能な限り、妻子と過ごす時間を作っていた。
忙しいはずなのに、今も庭でショーンと遊んでいる。
肩車をしてショーンに木を見せる姿は、もうすっかり親子のそれだった。同じ色をしているから、余計にだろう。
そう見えるというだけで、ショーンはまだ、ジョンズワートのことをよく遊んでくれるおじさんぐらいに思っているようだが……。
自分が勘違い思い込みで逃走などしなければ、もっと早くこの光景を見ることができたのでは。最初から父と息子でいられたのではないかと。そう、思ってしまう。
二人が仲良くなってくれたこと、自身もジョンズワートとのすれ違いを解消し、デュライト公爵邸に戻ってこれたことは、嬉しい。
でも。それでも――。
カレンは唇を結び、握った手には力が込められた。
奪って、しまった。
ショーンとジョンズワートの時間を。ショーンが本来あるべきだった場所を。
涙がにじんできたとき、ショーンを肩車したままのジョンズワートがやってきた。
「カレン、きみもおいで……よ……」
「ワートさま……」
カレンの瞳が潤んでいることに気が付いたのだろう。
ジョンズワートはショーンをサラに預け、カレンの隣に座った。
カレンの侍女を続けるサラも、そばにいる。
とはいえ、ホーネージュは雪国。穏やな気候だったラントシャフトに比べると、春であっても少し肌寒く思える。
カレンは、ふと思い出す。
ジョンズワートに二度目の求婚をされたときも、こんな天気だったなあと。
あのとき、カレンは彼の申し出を受けるべきかどうか迷っていた。
20歳のカレンは、ジョンズワートへの恋心が消えていないことを自覚し、揺れていた。
自分に素直になって、すぐに頷けばよかったのかもしれないが……。二人は8年もまともに会話もしていなかったし、サラとの噂も知っていた。
だからジョンズワートの意図がわからず、返事もできないでいるうちに、額の傷に触れられ――傷をつけた責任を利用して、彼と結婚してしまった。
その後の結婚生活では、彼はとても優しかったが、カレンが本当に必要としていることはしてくれなくて。
そんな折、サラとキスしているような場面も見てしまい、妊娠の可能性にも気が付き……ひどいやり方で、ジョンズワートの元から逃げ出してしまった。
ジョンズワートにも非はあった。
しかしそれも、彼が15歳だったとき、最初の求婚でカレンがひどい言葉で彼を傷つけたから、臆病になっていたわけで。
自分のせいで、多くの人に迷惑をかけてしまった。心配させた。
ジョンズワートをたくさん傷つけてしまった。
息子のショーンにだって、余計な苦労をさせている。
「ほら、ショーン。おいで。気を付けてね」
「うん!」
俯くカレンの耳に、ショーンとジョンズワートの笑い声が届く。
顔を上げれば、ジョンズワートがショーンに肩車をしてやっていた。
帰国後、ジョンズワートは可能な限り、妻子と過ごす時間を作っていた。
忙しいはずなのに、今も庭でショーンと遊んでいる。
肩車をしてショーンに木を見せる姿は、もうすっかり親子のそれだった。同じ色をしているから、余計にだろう。
そう見えるというだけで、ショーンはまだ、ジョンズワートのことをよく遊んでくれるおじさんぐらいに思っているようだが……。
自分が勘違い思い込みで逃走などしなければ、もっと早くこの光景を見ることができたのでは。最初から父と息子でいられたのではないかと。そう、思ってしまう。
二人が仲良くなってくれたこと、自身もジョンズワートとのすれ違いを解消し、デュライト公爵邸に戻ってこれたことは、嬉しい。
でも。それでも――。
カレンは唇を結び、握った手には力が込められた。
奪って、しまった。
ショーンとジョンズワートの時間を。ショーンが本来あるべきだった場所を。
涙がにじんできたとき、ショーンを肩車したままのジョンズワートがやってきた。
「カレン、きみもおいで……よ……」
「ワートさま……」
カレンの瞳が潤んでいることに気が付いたのだろう。
ジョンズワートはショーンをサラに預け、カレンの隣に座った。
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