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第三章
19 デュライト公爵邸に、春が来る。
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こうして、カレンたちはホーネージュに……デュライト家に戻ってきた。
ジョンズワートがカレンを連れて帰ってきたことを知り、屋敷は喜びで溢れた。
サラなんて、勢いのままにカレンに抱き着いてきたぐらいである。
「奥様、おかえりなさい……! ずっと、お待ちしておりました」
カレンを抱きしめながら、涙を浮かべてそんなことを言われたものだから。
カレンは、サラを疑う必要なんてなかったことを改めて理解した。
「ありがとう、サラ。……ごめんなさい」
「そんな、奥様! 帰ってきていただけただけで、十分です」
カレンの言う「ごめんなさい」には、彼女を疑ってしまったこと、姿を消してみなに苦労と心配をかけたことへの謝罪の意味が込められていたが……サラに伝わったのは、後者のみである。
サラは、涙を拭いながら「よかった」と繰り返している。
主人そっくりの息子までいるのを見て、使用人の女性たちは大いに盛り上がった。
誰の子か、なんて聞く者はいない。だって、どう見てもジョンズワートの子なのだから。
輝くクリーミーブロンドには天使の輪。瞳の色も父親と同じ深い青。
女の子と見間違うほどに愛らしい幼子は、他の男の子供であると主張するほうが無理なほどに、父親寄りの見た目をしていた。
もちろん、カレンの実家であるアーネスト家にもすぐに連絡。
長い旅をしてきたカレンを気遣い、家族のほうがデュライト公爵邸まで会いに来てくれた。
死んだとまで言われた娘が、生きていた。それも、可愛い可愛い男の子まで連れて。
両親は、涙を流しながらカレンを抱きしめた。そしてやはり、孫のショーンにメロメロになるのであった。
「しかしカレン、なにがあったんだ?」
少し場が落ち着いた頃。
そう聞いてきたのは、カレンの父・アーネスト伯爵である。
カレンとジョンズワートは目と目で会話し、ジョンズワートが口を開く。
「カレンの口からは、少し……」
「あ、ああ。そうですね。すまない、カレン。つらいことを聞いた」
「いえ……」
カレンは、それだけ言って瞳を伏せる。
そんな姿を見てしまった家族は、それ以上、その場で追及することはできなかった。
ラントシャフトからホーネージュまでの移動時間に、この4年間なにがあったのか、と聞かれたときの対処方法についての話し合いは済んでいた。
まず、カレンとチェストリーをさらい、死亡まで偽装した賊たちが実在していた、という設定に。
どこかもわからない場所に連れていかれ、二人とも怖い思いをした。
カレンの妊娠が発覚した頃、チェストリーがカレンを連れての逃走に成功するが……あまりのことに、カレンの精神状態はひどく不安定だった。
すぐにでもホーネージュに帰りたかったが、カレンは身重で、心にも相当なダメージを負っている。
出産と回復を優先。恐怖を思い出さなくて済むよう、過去のことからも遠ざけて。
この4年間、チェストリーがカレンを守り続けていた。
カレンの容態や育児が落ち着いてきて、カレン自らジョンズワートに会いたいと言うようになった頃に手紙を出し、ようやく二人は再会。
大体、そんな流れであることにした。
できることなら真相を話してしっかり謝りたかったが……それはそれで、今後に支障が出る。
誘拐された話をそのまま活かす形のほうが、家族としてやり直しやすい。そう判断してのことだった。
言ってしまえばほとんど嘘であるから、心苦しい。
けれど、本当のことを話してしまえば、余計に人々を混乱させ、ショーンに与えるショックや傷も大きくなるだろう。
正しいのは、死亡を偽装したことと、チェストリーがカレンを守り続けたこと、ジョンズワートに手紙を送ったことぐらい。
真偽を疑い、カレンから真相を聞き出そうとする者がいれば、すぐにバレてしまうかもしれない嘘だったが……。
カレンには聞かないで欲しいと言って、ジョンズワートが盾になった。
それに、カレンを傷つけてまで、恐ろしい過去を思い出させてまで、話を聞こうとする者も、いなかった。
みな、この4年間のことについては、なるべく触れないようにしてくれた。
中には、多数の嘘が混ざっていることに気が付いている者もいたかもしれないが……。
公爵であるジョンズワートがそれをよしとしているし、妻を取り戻した彼は心の底から喜んでいる。
だから、この件を掘り起こそうとする者は少なかった。
本当のことを話さず、自分が被害者であり続けることは、カレンを苦しませた。
それだけのことをしたのだから、後悔も反省もせず、苦しみもせず終了にはならない。
けれど、ついつい、真相を知るジョンズワートに甘え、謝ってしまうのだが……やはり唇をふさがれる。
すれ違いを解消し、互いの想いを確かめ合ったことで、ジョンズワートの臆病さは消えていた。
キスをされ。頬を撫でられ。髪に触れられ。愛おしそうに見つめられ。
吹っ切れた旦那様の愛情表現をたっぷりと、それはもうたっっぷりと受けたカレンは、もう、彼を疑うことなどできなかった。
何年経っても諦めなかった実績と、現在の愛しっぷり。自分は愛されていないと思う方が難しい。
死亡説が流れても妻を探し続けた男、ジョンズワート・デュライト公爵は、4年の時を経て、ようやく妻を取り戻した。
離れている間に誕生した息子まで一緒に。
カレンは公爵夫人に戻り、ショーンは公爵の長男としての扱いに。
新米奥様のまま姿を消してしまったカレンは、貴族として、公爵夫人として振る舞えるようになるまでそれなりに苦労し。
全く異なる環境に身をおくことになったショーンも、最初は戸惑っている様子だった。
色々あった家族だから、公爵邸での暮らしに馴染むまでには時間がかかるだろう。
そうしているうちに季節が廻り、ホーネージュに春がやってきた。
家族三人で迎える、初めての、新しい季節だ。
ジョンズワートがカレンを連れて帰ってきたことを知り、屋敷は喜びで溢れた。
サラなんて、勢いのままにカレンに抱き着いてきたぐらいである。
「奥様、おかえりなさい……! ずっと、お待ちしておりました」
カレンを抱きしめながら、涙を浮かべてそんなことを言われたものだから。
カレンは、サラを疑う必要なんてなかったことを改めて理解した。
「ありがとう、サラ。……ごめんなさい」
「そんな、奥様! 帰ってきていただけただけで、十分です」
カレンの言う「ごめんなさい」には、彼女を疑ってしまったこと、姿を消してみなに苦労と心配をかけたことへの謝罪の意味が込められていたが……サラに伝わったのは、後者のみである。
サラは、涙を拭いながら「よかった」と繰り返している。
主人そっくりの息子までいるのを見て、使用人の女性たちは大いに盛り上がった。
誰の子か、なんて聞く者はいない。だって、どう見てもジョンズワートの子なのだから。
輝くクリーミーブロンドには天使の輪。瞳の色も父親と同じ深い青。
女の子と見間違うほどに愛らしい幼子は、他の男の子供であると主張するほうが無理なほどに、父親寄りの見た目をしていた。
もちろん、カレンの実家であるアーネスト家にもすぐに連絡。
長い旅をしてきたカレンを気遣い、家族のほうがデュライト公爵邸まで会いに来てくれた。
死んだとまで言われた娘が、生きていた。それも、可愛い可愛い男の子まで連れて。
両親は、涙を流しながらカレンを抱きしめた。そしてやはり、孫のショーンにメロメロになるのであった。
「しかしカレン、なにがあったんだ?」
少し場が落ち着いた頃。
そう聞いてきたのは、カレンの父・アーネスト伯爵である。
カレンとジョンズワートは目と目で会話し、ジョンズワートが口を開く。
「カレンの口からは、少し……」
「あ、ああ。そうですね。すまない、カレン。つらいことを聞いた」
「いえ……」
カレンは、それだけ言って瞳を伏せる。
そんな姿を見てしまった家族は、それ以上、その場で追及することはできなかった。
ラントシャフトからホーネージュまでの移動時間に、この4年間なにがあったのか、と聞かれたときの対処方法についての話し合いは済んでいた。
まず、カレンとチェストリーをさらい、死亡まで偽装した賊たちが実在していた、という設定に。
どこかもわからない場所に連れていかれ、二人とも怖い思いをした。
カレンの妊娠が発覚した頃、チェストリーがカレンを連れての逃走に成功するが……あまりのことに、カレンの精神状態はひどく不安定だった。
すぐにでもホーネージュに帰りたかったが、カレンは身重で、心にも相当なダメージを負っている。
出産と回復を優先。恐怖を思い出さなくて済むよう、過去のことからも遠ざけて。
この4年間、チェストリーがカレンを守り続けていた。
カレンの容態や育児が落ち着いてきて、カレン自らジョンズワートに会いたいと言うようになった頃に手紙を出し、ようやく二人は再会。
大体、そんな流れであることにした。
できることなら真相を話してしっかり謝りたかったが……それはそれで、今後に支障が出る。
誘拐された話をそのまま活かす形のほうが、家族としてやり直しやすい。そう判断してのことだった。
言ってしまえばほとんど嘘であるから、心苦しい。
けれど、本当のことを話してしまえば、余計に人々を混乱させ、ショーンに与えるショックや傷も大きくなるだろう。
正しいのは、死亡を偽装したことと、チェストリーがカレンを守り続けたこと、ジョンズワートに手紙を送ったことぐらい。
真偽を疑い、カレンから真相を聞き出そうとする者がいれば、すぐにバレてしまうかもしれない嘘だったが……。
カレンには聞かないで欲しいと言って、ジョンズワートが盾になった。
それに、カレンを傷つけてまで、恐ろしい過去を思い出させてまで、話を聞こうとする者も、いなかった。
みな、この4年間のことについては、なるべく触れないようにしてくれた。
中には、多数の嘘が混ざっていることに気が付いている者もいたかもしれないが……。
公爵であるジョンズワートがそれをよしとしているし、妻を取り戻した彼は心の底から喜んでいる。
だから、この件を掘り起こそうとする者は少なかった。
本当のことを話さず、自分が被害者であり続けることは、カレンを苦しませた。
それだけのことをしたのだから、後悔も反省もせず、苦しみもせず終了にはならない。
けれど、ついつい、真相を知るジョンズワートに甘え、謝ってしまうのだが……やはり唇をふさがれる。
すれ違いを解消し、互いの想いを確かめ合ったことで、ジョンズワートの臆病さは消えていた。
キスをされ。頬を撫でられ。髪に触れられ。愛おしそうに見つめられ。
吹っ切れた旦那様の愛情表現をたっぷりと、それはもうたっっぷりと受けたカレンは、もう、彼を疑うことなどできなかった。
何年経っても諦めなかった実績と、現在の愛しっぷり。自分は愛されていないと思う方が難しい。
死亡説が流れても妻を探し続けた男、ジョンズワート・デュライト公爵は、4年の時を経て、ようやく妻を取り戻した。
離れている間に誕生した息子まで一緒に。
カレンは公爵夫人に戻り、ショーンは公爵の長男としての扱いに。
新米奥様のまま姿を消してしまったカレンは、貴族として、公爵夫人として振る舞えるようになるまでそれなりに苦労し。
全く異なる環境に身をおくことになったショーンも、最初は戸惑っている様子だった。
色々あった家族だから、公爵邸での暮らしに馴染むまでには時間がかかるだろう。
そうしているうちに季節が廻り、ホーネージュに春がやってきた。
家族三人で迎える、初めての、新しい季節だ。
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