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第三章
14 もう、いいんだよ。
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あの場はチェストリーだけで十分だと判断し、アーティもジョンズワートとともに進む。
元は宿屋であったため、部屋の数は多い。
1つ1つドアを開けて中を確かめ、遭遇した悪党はみねうちで片づける。
それを繰り返していくうちに――
「カレン!」
ようやく、カレンに辿り着いた。
腕や足を拘束され、口にテープを貼られて床に転がされている。ショーンは口をふさがれた状態で椅子に縛られていた。
その部屋に配置されていた賊は、アーティが片づけ。ジョンズワートは、一目散に妻子の元へ向かった。
彼女を拘束するロープはナイフで切り、口を塞ぐテープは慎重にはがした。ショーンも同様に解放する。
縛られた跡は残っていたが、それ以外に暴力や暴行を受けた形跡はなかった。
だとしても、相当に怖い思いをしたのだろう。カレンは浅く息をしながら、震えている。
まだ幼いためか、ショーンは意外にも落ち着いており。ジョンズワートを見て「おじたん!」なんて言っている。息子よりカレンのほうが心配な状態だった。
怯え切った彼女の姿に、ジョンズワートは心を痛める。
彼女に向かって手を伸ばし、一度は引っ込めて――少し迷ってから、彼女の肩に触れた。
触られたためか、彼女はびくっと身体を震わせる。
「カレン。僕だよ。ジョンズワートだ」
努めて優しくそう言えば、カレンはおそるおそる顔を上げて、ジョンズワートと視線を合わせる。
「わーと、さま?」
「うん。怖かったね。もう大丈夫。大丈夫だから」
「わーとさま。わーとさま、わーと、さま……。っ……う、うう、ああ……」
ジョンズワートの姿を見て、安心したのだろうか。彼女の緑の瞳からは、どっと涙があふれだした。
泣きじゃくる彼女を、ジョンズワートが抱きしめる。
そうしてから、自分が触れてはまずかったかと思ったジョンズワートだったが――カレンは彼にすがりつき、自らその胸に身を寄せた。
「怖い目に遭わせてごめん。もう、大丈夫だから……」
カレンを抱きしめる腕に、力を込める。カレンは、抵抗せずジョンズワートを受け入れてくれた。
そんな彼らを……自分の母と「ワートおじさん」が抱き合う姿を前にしたショーンは、不思議そうに二人を見つめていた。
母親が、今日初めて会った男の腕の中で泣いているのだ。息子からすれば、謎の光景だろう。
ショーンの視線に気が付いたジョンズワート。思わず、「カレン、この子は」と聞いてしまった。
そこでようやくカレンはハッとして、今の状況を理解した。
ジョンズワートとショーンが、再び出会ってしまった。
ジョンズワートは既にショーンが自分の息子だと気が付いているし、カレンもそれを理解している。
それでも、認めるわけにはいかず。
「この子は……」
「ショーン。ごめんな、ちょっとおじさんと一緒にきてくれるかな? お父さんに会いに行こう」
「お父さんに?」
「ああ」
なんとなくこの後の展開が見えたアーティは、さっとショーンを抱き上げて部屋の外に出た。
この子は3歳だから、どのくらい話の内容が理解できるのかわからないが。
子供に聞かせるのは酷だろうと、そう判断したのだ。
宿屋の一室だった場所には、気絶し、縛り上げられた悪党と、カレンとジョンズワートが残された。
「ちがう、違うんです。あの子はあなたの子ではないのです。私は不貞を働いて……。そう、他の男の子供を妊娠したから逃げたんです。本当です、信じてください。あなたの子では、ないのです」
「カレン、もう……」
もう、そんな嘘をつかなくていい。もう、わかっている。
カレンと身体を重ねたのは、初夜の一度きり。避妊はしなかった。
あのとき妊娠したのだとすれば、ショーンの年齢を考えても計算が合う。
だからもう、そんな風に泣きながら、嘘をつかなくてもいい。
ジョンズワートはそう思っていたが、カレンは今も「違う」と繰り返している。
涙を流すカレンと、自身の子であることを強く否定され続け、涙が出そうなジョンズワート。
そんな状態になった頃、こつこつと足音が聞こえてきた。ジョンズワートは警戒態勢になったが、それはすぐに解かれた。
現れたのが、チェストリーだったからだ。
「お嬢、もういいんですよ」
元は宿屋であったため、部屋の数は多い。
1つ1つドアを開けて中を確かめ、遭遇した悪党はみねうちで片づける。
それを繰り返していくうちに――
「カレン!」
ようやく、カレンに辿り着いた。
腕や足を拘束され、口にテープを貼られて床に転がされている。ショーンは口をふさがれた状態で椅子に縛られていた。
その部屋に配置されていた賊は、アーティが片づけ。ジョンズワートは、一目散に妻子の元へ向かった。
彼女を拘束するロープはナイフで切り、口を塞ぐテープは慎重にはがした。ショーンも同様に解放する。
縛られた跡は残っていたが、それ以外に暴力や暴行を受けた形跡はなかった。
だとしても、相当に怖い思いをしたのだろう。カレンは浅く息をしながら、震えている。
まだ幼いためか、ショーンは意外にも落ち着いており。ジョンズワートを見て「おじたん!」なんて言っている。息子よりカレンのほうが心配な状態だった。
怯え切った彼女の姿に、ジョンズワートは心を痛める。
彼女に向かって手を伸ばし、一度は引っ込めて――少し迷ってから、彼女の肩に触れた。
触られたためか、彼女はびくっと身体を震わせる。
「カレン。僕だよ。ジョンズワートだ」
努めて優しくそう言えば、カレンはおそるおそる顔を上げて、ジョンズワートと視線を合わせる。
「わーと、さま?」
「うん。怖かったね。もう大丈夫。大丈夫だから」
「わーとさま。わーとさま、わーと、さま……。っ……う、うう、ああ……」
ジョンズワートの姿を見て、安心したのだろうか。彼女の緑の瞳からは、どっと涙があふれだした。
泣きじゃくる彼女を、ジョンズワートが抱きしめる。
そうしてから、自分が触れてはまずかったかと思ったジョンズワートだったが――カレンは彼にすがりつき、自らその胸に身を寄せた。
「怖い目に遭わせてごめん。もう、大丈夫だから……」
カレンを抱きしめる腕に、力を込める。カレンは、抵抗せずジョンズワートを受け入れてくれた。
そんな彼らを……自分の母と「ワートおじさん」が抱き合う姿を前にしたショーンは、不思議そうに二人を見つめていた。
母親が、今日初めて会った男の腕の中で泣いているのだ。息子からすれば、謎の光景だろう。
ショーンの視線に気が付いたジョンズワート。思わず、「カレン、この子は」と聞いてしまった。
そこでようやくカレンはハッとして、今の状況を理解した。
ジョンズワートとショーンが、再び出会ってしまった。
ジョンズワートは既にショーンが自分の息子だと気が付いているし、カレンもそれを理解している。
それでも、認めるわけにはいかず。
「この子は……」
「ショーン。ごめんな、ちょっとおじさんと一緒にきてくれるかな? お父さんに会いに行こう」
「お父さんに?」
「ああ」
なんとなくこの後の展開が見えたアーティは、さっとショーンを抱き上げて部屋の外に出た。
この子は3歳だから、どのくらい話の内容が理解できるのかわからないが。
子供に聞かせるのは酷だろうと、そう判断したのだ。
宿屋の一室だった場所には、気絶し、縛り上げられた悪党と、カレンとジョンズワートが残された。
「ちがう、違うんです。あの子はあなたの子ではないのです。私は不貞を働いて……。そう、他の男の子供を妊娠したから逃げたんです。本当です、信じてください。あなたの子では、ないのです」
「カレン、もう……」
もう、そんな嘘をつかなくていい。もう、わかっている。
カレンと身体を重ねたのは、初夜の一度きり。避妊はしなかった。
あのとき妊娠したのだとすれば、ショーンの年齢を考えても計算が合う。
だからもう、そんな風に泣きながら、嘘をつかなくてもいい。
ジョンズワートはそう思っていたが、カレンは今も「違う」と繰り返している。
涙を流すカレンと、自身の子であることを強く否定され続け、涙が出そうなジョンズワート。
そんな状態になった頃、こつこつと足音が聞こえてきた。ジョンズワートは警戒態勢になったが、それはすぐに解かれた。
現れたのが、チェストリーだったからだ。
「お嬢、もういいんですよ」
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