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プロローグ

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 のどかな農村の、顔なじみばかりの小さな食堂にて。
 この日は、旅行者と思われる若い男の二人組が酒を飲んでいた。
 まだ昼間だというのにずいぶんと羽目を外したようで、テーブルには空いたグラスがいくつも並んでいる。
 金髪の男はテーブルに突っ伏し、もう片方の男は深くフードをかぶっており、どちらも顔を見ることはできない。


 金髪の男の名は、ジョンズワート・デュライト。いくつかの国境を越えた先の国の、公爵様である。
 そんな彼が、どうしてこんな場所で飲んだっくれているのか。
 それには、理由があった。
 彼の妻、カレン・アーネスト・デュライトは、4年前に誘拐された。
 死亡説も流れたが、諦めることができず。ジョンズワートは、再婚もしないでカレンを探し続けていた。
 ようやく有力な情報が入り、この地を訪れたのだ。
 やっとのことで妻に辿り着いた彼が目にしたのは――従者の男と家庭を築き、幸せそうに過ごすカレンの姿。息子までいた。
 年の頃は、3歳ほどだろうか。
 子の年齢を考えると、ジョンズワートの前から消えた頃に、カレンは妊娠したことになる。
 彼女は、誘拐されたわけではなかったのだろう。意中の相手とともに、ジョンズワートから逃げたのだ。

 そう理解したジョンズワートは、カレンに声をかけることなくその場を後にしたが……この村から立ち去るまでには至らず。
 カレンに見つかってしまうかもしれない、邪魔をしてしまうかもしれないとわかっていたのに、彼女の住む村で、未練たらしく酒を飲んでいた。
 そんなことをしていたら、カレンが夫と子供を連れて同じ店に来てしまった。
 どうやら、食材を卸しにきたようだ。
 ジョンズワートはとっさに顔を隠そうとして、テーブルにつっぷした。
 こうして、酔いつぶれた旅の男が誕生したのである。
 


 少々飲みすぎではあったが、問題を起こしているわけでもないため、店の人間も、他の客も、カレンたちも、無理にジョンズワートたちに接触することはしなかったのだが――カレンの息子が、近づいてきてしまった。

「おじたん、だいじょーぶ?」

 クリーム系の柔らかな色合いをした金の髪に、深い青色の瞳。愛らしい少女のようにも見える幼子は、見知らぬ男に向かってこてんと首を傾げた。
 続いて、勝手に離れちゃダメでしょう、おじさんじゃなくてお兄さんよ、と言いながら、母親が……カレンがやってくる。

「旅の方ですか? 急に申し訳ありません。この店にはよく来るものですから、この子ったら、慣れすぎちゃっ……て……」

 そこで、ジョンズワートと、カレンの視線が、絡んでしまった。

「ワート、さま……?」
「カレン……」

 顔を上げてしまったジョンズワートの瞳は、子と同じ、深い青色だった。

 ホーネージュ王国の公爵、ジョンズワート・デュライトと、その妻だった女性・カレンの物語は、ここから再び交差する。
 
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