大陸一の賢者による地属性の可能性追求運動 ―絶対的な物量を如何にして無益に浪費しつつ目的を達するか―

ぽへみやん

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14.地属性で地精霊は使役できるか

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 風の四天王城近く、【大陸一の賢者】の地下秘密基地。
 家主である【大陸一の賢者】と、施工主にして居候の【地の勇者】ドリスは、既に十数度目になる四天王対策会議を行っていた。

 ふと思いつき、賢者は尋ねる

「地属性精霊の召喚ってできる?」

 ドリスは首を傾げて問い返す。

「いや……わざわざ召喚しなくても、その辺にいるじゃないですか」

 確かに、地精霊による肉体強化は使うことがあると以前にも聞いた。精霊が見えない賢者と、当たり前のように精霊が見えるドリスでは、根本的な感覚が異なるのだろう。
 ならば、と賢者は訊き方を変える。

「地精霊を使役して、自分の代わりに戦わせるとかは?」
「それは精霊使いの領分ですよ。精霊使うなら、地属性の意味ないですし」

 精霊使いは魔法使いと異なる、という話自体、賢者にとっては初耳だ。文脈からすれば、どういう違いがあるのか程度は想像できるが。

「あー、精霊使いって、無属性の純粋な魔力を対価に、多属性の精霊を使役する感じかな?」
「よく知りませんけど、たぶんそれです」

 賢者様あたしより詳しいじゃないですか、とドリスは笑い、そのまま苦笑いで続けた。

「大体、地属性精霊に何をさせればいいんですか?」

 地属性精霊のできるようなことは大体自分で出来るから、精霊に支払う手数料分だけ魔力を損するだけだという。
 手数が増えると言えば増えるかもしれないが、ゴーレムで物量押しを試みた時も、あっさり蹴散らされてしまった。対四天王を想定した実戦レベルの精霊などそうそういないのだろう。

「家事とかですか?」
「料理も洗濯物も砂塗れになりそうだなぁ」

 四天王の食事に砂を混入させるという嫌がらせは以前一度検討したが、殺傷能力もないので没となった。飲み込んだ砂で内部から切り裂こうにも、生物の体内に取り込まれた物は、無意識による抵抗から、外部操作が難しい。

「そもそもあたし、精霊に嫌われてますしねぇ」
「絶やすもんなぁ、精霊」

 ドリスの扱う最大強化魔法【精霊絶やしレヴァティプレデター】は、周囲の精霊を絶滅させる勢いで喰らい、己の力とする魔法だ。地精霊が絶えるということは現実的にはあり得ないが、仲間を貪る化け物に好んで近寄り、あまつさえ手下になろうという者は、精霊にだってそうはいるまい。

 そういえば、五歳か六歳の頃だったか、当時から精霊を見ることのできたドリスは、自宅の土間を漂っている精霊に、籠を被せて捕まえてみたことがある。籠の隙間から観察していると、精霊は土に潜って逃げてしまった。
 地精霊を捕える地属性無効の檻、【砂の孤島デザートプリズン】はドリスが生まれて初めて開発した魔術であり、今でもドリスの中では精霊とは「幼児にも劣る存在」として認識されている。

「精霊って基本的に阿呆ですし、弱いんですよ」

 賢者様よりは強いと思いますけど、とドリスは言う。
 つまり、賢者は幼児にも劣る存在より弱い、と認識されているということだ。賢者にもその「幼児」という言葉に何らかの注釈をつけたい思いはあったが。

「霊的なパワーがたまるパワースポットには大型の精霊もいますけど、人間を馬鹿にして調子こいてるんです。無理やり引っ張って連れてくることはできますが、土地頼りなんで、土地を離れたらどのみち雑魚なんですよねぇ」

 ドリスの話を聞く限り、地属性魔法使いが……というよりは、ドリス個人が戦闘で地精霊を使役するメリットは特にないらしい。

 そういうことであれば、別にあくまで精霊に固執する必要はない。何となくそれっぽいかなと思って提案しただけで、賢者にこだわりはないのだ。

「なら、地属性のモンスターを使役するというのはどうだろうか」

 ゴーレムでの失敗を鑑みて、量より質で攻めるのが良いだろう。
 しかし、ドリスはあまり乗り気ではない。好き嫌いではなく、やはり単純に意義を見出せないという様子だ。

「地属性って強いのいますかねぇ。地属性で魔法使うやつって大体器用貧乏ですし、強いのは肉弾戦メインだと思うんですけど」

 勇者として招集、壮行された王都を出て十日ばかりで風の四天王城に攻め込んだドリスだが、何も途中の魔物モンスターや魔族をすべて無視して駆け抜けてきたわけではない。経路上の、暴力で解決可能な問題は概ね片付けて通ってきた。地元でも周辺の魔物退治くらいはしていたし、ある程度は魔物についての知識もある。

「確かに、地属性の魔物で厄介なのって、でかいか硬いか、擬態と不意打ちが巧いかってとこかもね」

 大きさ、硬さは【地属性以外完全無効】を抜ける地属性魔法には関係のない部分だ。全身に岩の棘を纏った岩棘針鼠ロックザヘッジホッグという魔物、あれの棘は地属性だったかもしれないが、遠距離攻撃メインな風の四天王に、カウンターでは意味がない。
 擬態して不意打ちしようにも、屋内ではちょっと無理だろう。

「俺のイメージだと、サンドワームとかよく使われてる感じする」
「誰がそんなの使ってたんですか? ミミズとか、畑掘り返すと潰れてたり、暑い日に地面でのたうって干からびてたりのイメージしかないんですけど」
「あとは……スナオオネズミ?」
「弱そう!」

 脳以外の全身を砂で構成しているスナオオネズミは、全身をまとめて叩き潰さなければ、何度でも再生する。何度も再生されて殺されかけたのは、賢者にとってほんの数ヶ月前のことで、そう簡単に忘れられる記憶でもない。

「君、スナオオネズミ馬鹿にするなよ。あれ絶望感すごいんだよ」
「賢者様……」

 ドリスは賢者への庇護レベルを一段階上げた。

***

「それで、勇者は何て?」
「手下になれっていうもんじゃから、儂に勝てたらな、とのう」

 魔王軍【風の四天王】ヴェゼルフォルナは、眼前で大笑する巨漢の老翁――魔王軍【地の四天王】イオルムに向けて、飲んでいた紅茶を噴き掛けた。

「えほっ、えほっ……なんということを! あの勇者は本気にしますわよ!!」

 座高で頭二つほども背丈の違うイオルムは、胸から腹にかけてを紅茶で濡らしてしまったが、【風属性以外完全無効】の体には、熱も水もダメージとはならない。服の色も茶色系なので、染みになろうが何ということはなかった。
 風の四天王城、バルコニー。窓一つなく完全に密閉されたこの城にも、バルコニーは存在する。存在はするが、建物の中から出入りすることはできない。正門か非常口から一度外に出て、空を飛ぶなりして移動する必要がある。採光ゼロで魔法の灯り頼りの薄暗い室内では気が滅入る、と自分の建てた城を評したイオルムの提案により、築城以来一度も使われていなかったこのバルコニーで、二人は茶飲み話に花を咲かせていた。

「おうおう、まさか【風属性以外完全無効】が地の勇者に抜かれるとは思わんかったわい。死ぬ所じゃった」
「だからあの勇者の火風の魔法は危険だとあれほど……!!」

 仮にイオルムが勇者に敗れたとして、本当にその命令を聞いて襲い掛かってくるとは、ヴェゼルフォルナも思わないが、それでも身内が死ぬのは気分が悪い。

「しかしあの勇者やばいのう。魔鉱七層重機亀レインボータートルが四発じゃろ? 納得の暴威じゃわ」
「その節はお預かりした子を、申し訳ありませんでしたわ」

 肉質も骨も軽く、基本的に紙装甲とされる飛行魔物モンスターでは物量に弱かろう、ということでイオルムから貸し出された絶対無敵の魔獣・魔鉱七装重機亀は、地の勇者が初めてヴェゼルフォルナの城――その時は建て直し前の普通の城だったが――を訪れた際に、呆気なくその甲羅を貫かれ、斃れた。墓は城の近くに作ったが、奈落の底に飲み込まれ、今は行方知れずだ。

「あの魔法相手では致し方なかろう」
「いえ、その時は素手でしたわ」
「…………つくづくお主も不運じゃのう」

 イオルムの担当となる風の勇者は、まだ王都から地の四天王城までの距離の、半分程にも至っていない。
 風の魔法といっても、斬撃や打撃であれば素の防御力で弾ける程度のようだし、頭のおかしいアドバイザーもいないので、基本的には正攻法で風を操る戦闘スタイルとの調べがついている。
 四勇者の内で変則的な魔法の使い方をするのは、地の勇者を除けば、毒や酸をメインとする水の勇者くらいだろう。しかし、その魔力は常識的な人間の勇者の範疇にとどまる。山を飛ばして城ごと圧し潰す地の勇者と違い、水の勇者は湖を凍らせて投げつけることも、盆地を水の底に沈めるようなこともできないらしい。

「下手な断り方をすれば、また何度でも来ますわよ。あれは」
「四天王が身内と戦う訳ないじゃろ、と言ったら素直に帰ったわ」
「す、素直……」

 それで素直に帰るなら最初から行かなければいいのに、とヴェゼルフォルナは思う。

「貴方もどうぞ、あの勇者達には気を付けてくださいまし」
「そうじゃのう」

 人員がいないため手ずから淹れなおした紅茶を飲み、一息。
 何ともなしに天井を見上げた所へ。

 耳を劈く轟音。
 卓上の紅茶が波紋一つ起こさない中、景色が、丸ごと、跳ねた。
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