大陸一の賢者による地属性の可能性追求運動 ―絶対的な物量を如何にして無益に浪費しつつ目的を達するか―

ぽへみやん

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9.地属性で石化はできるか

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「できませんよ。魔物モンスターじゃないんですから」

 【地の勇者】ドリスは、突然妙なことを言い始めた【大陸一の賢者】に怪訝そうな視線を返す。

「石化は地属性っていうより、闇じゃないですか?」
「よくわかんないのは何でも闇か……闇とはいったい……」

 賢者が唯一理解できない属性が闇である。闇とは何なのか。日陰に入ることで体が蝕まれる、というのはちょっと意味がわからない。逆に「目に見えない光」と考えれば、放射線か何かなのだろうか。放射線で人が石になるのかどうかは知らないが。

「闇魔法でそういうのあるの?」
「うーん、人間が石化魔法使うって、聞いたことないですね」

 闇魔法では、という印象があるなら、闇魔法使いが既に研究していることだろう。
 優秀な闇魔法使いが研究していれば、それは既に開発されていることだろう。
 その程度には、魔法の歴史は長い。思い付く者がいた大抵のことは、それが現実に可能な事柄であれば、実現されているはずなのだ。

 それでも石化魔法が開発されていないということは、「石化は闇魔法ではない」という可能性が高い。
 調査を行った全ての項目で判明しなかったのであれば、それ以外の部分に答えがある可能性が、相対的に上昇する。ならば、検討の余地はある、と賢者は考えた。

 まず、石化とはどういう現象なのか。
 生き物が石になる、とは具体的にどういうことなのか。

「体の一部が石になって、そこから石の部分が広がって、最後には石像になっちゃいます」

 石になる。「化石」は生物の死骸が鉱物に置き換わることでできるが、石化効果を受けた相手が、土に埋められているわけでもない。
 構成物質が「入れ替わる」のか、「変質する」のか、それによっても実現性や実用性が変わる。

「石化魔法を使う魔物って結構いる?」
「魔法だけじゃないですけど、いますよ。石化の魔眼ならメドゥサやバジリスク、石化攻撃ならコカトリスとか、セキカヒツジとか」
「セキカヒツジって初めて聞いたけど、毛は硬いの? 軟らかいの?」
「脆いです。殴ったらパリーンてなりました」

 セキカヒツジに気を取られて話がそれかけたが、石化技を使うモンスターは少なくないらしい。

「じゃあ、似たような種族で、魔眼や攻撃で相手の存在を消滅させる魔物っている?」
「ええー……怖すぎませんかそれ。聞いたことないですよ」

 石化魔法が、「相手の体組織をバラバラに移動させ、別の所から持ってきた石に置き換える」というものであれば、その事実は些か不自然ではあるように、賢者には思えた。
 無関係な場所から召喚などで石を持ってきて体組織と入れ替えるくらいなら、単純に「体組織をバラバラに分解して消し去る」方がロスがない。ロスがない方法があるなら、そちらを使うのが自然だし、そうでなくともロスがない方法を使う別の魔物がもっとたくさんいるはずだ。
 過去にそういった魔物が生存競争に破れて滅んだだけかもしれないので、必ずしもそうとは言えないが。ともあれ、可能性としては偏りが生まれる。

「石化攻撃による石化は、恐らく、攻撃を受けた側の構成物質が変質して石になっているわけだ」

 この変化が「肉が硬化して石のようになる」なら、魔法ではなく単なる固有能力。毒か何かだろう。
 だが、地属性魔法使いが「石」と認識する物に変質するのだ。鉄は石ではない、宝石は石ではない、しかし石化した生き物は、石である。
 魔術的に「石」、つまり地属性魔法使いが生成、操作できるような物質に変化するのなら、つまり、「有機物を媒介に石を生成する自動式の魔術が存在する」ということになる。
 肉を消費して、石にする、一度発動したら肉が尽きるまで連鎖的に発動し続ける魔術。

「おおおお。面白そう」

 賢者の表情からは自然、笑みがこぼれた。

 また不穏な顔だなぁ、とドリスは他人事のように考えた。

 詠唱は意思の補助、術陣は装置である。
 物質の変質は魔法の中でも錬金術の範疇であり、人の意思で即時的に効果を規定、発揮する一般的な魔法とは異なり、複雑な術陣や、科学的な補助が必要となる。
 接触攻撃による石化効果は、体内に何らかの化学物質を注入し、石化魔法の起動の呼び水としているのだろう。こちらは実際にセキカヒツジなどを捕獲して、その体内の成分を研究する必要があり、機材も専門知識もない環境では難しい。
 魔眼の方は直接的な接触はないのだから、おそらく術陣によるものと思われる。
 つまり、「肉」を消費して、連鎖的に「魔法を発動する陣を表面に描いた石」を生む魔術を開発すれば良いということになる。魔法的に高位の「肉」を低位の「石」に転移するので、発動後は余剰魔力すら発生し、必要な魔力は実質的にスターターのみとなる。その効果から見れば消費は意外なほど少ないだろう。
 賢者は魔法は使えないが、術陣なら調べればわかる。書いてあることが書いてある通りに起こる、それだけの話なのだから。

「石化が再現できるぞ!」

 異様にテンションを上げる賢者に引きずられ、ドリスのテンションも徐々に上がってゆく。

 二晩経った朝、人類初の石化魔法が開発された。

***

「どうだった? 利いた?」
「目を合わせてもらえませんでした」

 石化の術陣は、周囲の者は勿論、発動した本人でもうっかり見れば石化してしまう危険な代物なので、本人には絶対に見えない位置に描かなければならない。それが「術者の瞳の中」であり、魔眼が魔眼たるのはそういった理由である。瞳の中に、魔力による線形を三次元的にばらして描いた術陣は、瞳を見た相手の網膜上で完全な陣として像を結び、そこから連鎖的に対象を石に変えてゆく。
 近眼の相手等には効果が薄いが、それ以上に。
 目を合わせられなければ、何の効果もない。

「情報が漏れたんだな。相手も対策を取ってきたってわけか」
「なんかずっとぷるぷる震えてましたし、完全に馬鹿にして笑ってましたよ」

 悔しそうに俯くドリスに賢者は労いの言葉をかけ、自分も一旦就寝することとした。何せ、思いついてから丸二日、ほとんど寝ずに作業していたのだ。徹夜テンションとは恐ろしいものである。


 体外に出力される前の無属性魔力で魔法陣を描くこの魔術は、本来、地属性ではない。しかし、この魔術が一般に解析されることを危険視した国教会は、これを敢えて地属性の・・・・禁呪と定めた。
 石化の魔法の開発。それは新たな拷問、処刑のための魔術ができたというわけでは、決してない。
 今までほぼ進んでいなかった石化の魔眼、石化攻撃への研究が、飛躍的に進んだということである。この【大陸一の賢者】と地の勇者の研究は後に、石化防止装備や石化進行停止魔法の開発にもつながり、石化モンスターの被害に苦しんでいた地域の多くの人々の命を救うこととなる。
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