気だるげ男子のいたわりごはん

水縞しま

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10.ぬくもりほうじ茶ラテ

わんこ友だち

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 カフェの外観は、おしゃれなログハウス調だった。

 扉を開けると、カランコロンとドアベルが鳴る。店内は柔らかな光が満ちていて、かすかに木の香りが漂っている。
 
 カウンター席とテーブル席、それからテラスにもテーブルがあった。

 わたあめと一緒に、カウンター席に案内される。まだ開店前。郡司は私にドリンクを作ってからオープン準備を始めた。

 陶器製のカップからは、白い湯気が立ち上っている。口をつける瞬間、ほのかな甘い香りがした。

「んっ! 美味しい! 甘いけど、甘すぎない感じ!」

 ブラインドを上げながら、郡司が「ほうじ茶ラテ」と教えてくれる。

「初めて飲んだかも。美味しい~~!」

 わたあめが興味津々で私のほうを見ている。

「わたあめは飲めないよ」

 私が「めっ!」と言っていると、郡司がカウンターの向こうから小さな器を持ってきた。

「おまえはこっち」

 わんこ用のクッキーだ。カラフルな……。

「あ、これって!」

「杏さんとこのだな」

 見覚えがありすぎる形状。定番商品でもある、毎度おなじみのクッキー。

「そういえば、うちの商品のこと言ってたな~~!」

 郡司が働く店で、うちの商品が提供されていることに驚きと嬉しさを覚える。

 一粒ずつわたあめに食べさせていると、オープン時間を過ぎていたらしい。ちらほらとお客さんがやってきた。

 わたあめを膝の上に抱き、そわそわとしながら郡司が働く様子を眺める。いつの間にか、わたあめのことはそっちのけで、過保護な保護者のように郡司の姿を目で追った。

 てきぱきと席に案内したり、注文をとったり、料理やドリンクをこしらえたり。スマートで完璧な働きぶりだ。

 小さな店とはいえ、問題なく切り盛りする郡司を見て、私はホッと胸を撫でおろした。

 余計なお世話だと思いつつ、実は心配していたのだ。

 料理の腕はまったく問題ない。だけど、カフェ店員は接客も仕事なわけで。

 あの郡司が、接客……? 愛想ゼロで大丈夫なのだろうかと思っていたんだけど。

「よかったね」

 カウンター席から身を乗り出すようにして、郡司に話しかける。

「なにが」

「みんな、わんこに夢中だもんね」

 ヒソヒソする私に、郡司が首をひねる。

 それぞれが自慢の愛犬に夢中なのだ。ごはんを食べさせたり、写真を撮ったり。たいていのわんこは、目の前のご馳走に目をキラキラさせている。不愛想な店員のことは視界に入らない様子だ。

 イケメンより愛犬! 間違いない!!

 膝の上のアフロ頭を見下ろしながら確信する。愛犬とは、愛らしく、愛しい生き物なのだ。

 大きくても小さくても可愛い。顔が驚くほど細長くても、反対にペチャッとなっていても。体毛がくるくるでもストレートでも、愛犬は可愛い。

「いつから、わたあめの飼い主になったんだよ」

 郡司が洗い物をしながらこちらを見る。

「飼い主みたいなものだもんね~~!」

 くるくるの毛を撫でながら反論する。

 頭だけで振り返りながら、わたあめが私を見上げる。ぺろっとのぞく舌と白い歯。

「どこもかしこも可愛いね~~!」

 ほわほわとアフロ頭を触っていると、隣の席の女性から声を掛けられた。

「可愛いビションちゃんですね」

 同年代だろう。バギー(わんこ用の乗り物)には、白いペキニーズが眠そうな顔でおさまっている。

 奥には男性が座っていて、どうやらカップルのようだ。

「ありがとうございます~~!」

 謙遜ゼロで感謝を述べる。

 親バカと言われてもいい。うちの子は可愛い。

「お揃いですね! 真っ白なペキニーズちゃん可愛いなぁ」

 美人さは低めかもしれないが、愛嬌という名のラブリーさでは屈指のペキニーズ。

 バギーをのぞかせてもらうと、寝ぼけ眼で「ほへぇ?」という顔をする。

「可愛い~~!」

 ただでさえ愛嬌満点なのに、寝起きでますますぶちゃいくになっている。けれど可愛い。ぶちゃいくと可愛いがイコールになるとは。おそるべしペキニーズ。

「ありがとうございます!」

 謙遜ゼロで返され、その自信満々な相手の表情をみて、なんだかほっこりした。愛されてるな、とこちらまで幸せな気持ちになる。

「あの、失礼ですけど。もしかして店員さんの彼女さんですか?」

「ほへぇ!?」

 驚きのあまり、顔までペキニーズに寄る。

「あ、違いました? うちと同じかと思って」

 女性が、奥の男性のほうに視線を向ける。

 男性は穏やかに笑みを浮かべ、私に頭を下げる。

「あ、どうも……!」

 慌てて私もぺこぺこする。

 挙動不審な私をみかねたのか、郡司が割って入ってきた。

「まぁ、そんなようなものです」

 ちらりと私のほうを見る。

 片方の眉をわずかに上げ、こちらを凝視している。

 私は心臓がバクバクして、どうにかなるんじゃないかと思った。

「わ、はっ、んぐっ、そ、そうです……」

 ドキドキが止まらず、気を失いそうだった。変に噛んだし。恥ずかして死にそうだ。わたあめを高速で撫でることにより、なんとか正気を保つ。

「お似合いのカップルさんですね」

「え?」

 そ、そうか……?

 年齢差とか、性格とか……。あ、でも外見の系統は同じなんだった。

「あ、ああありがとうございます」

 どもりながらも、なんとか取り繕う。

「この後、ドッグランのほうに行ったりしますか? もしよかったらなんですけど、一緒に遊んでもらえたらうれしいなって」

「もちろん行きます! ぜひっ!」

 ありがたいお誘いだ。犬同士、仲良く遊べる子がいるか心配していたのだ。

「実はうちの子、ぜんぜん人見知りしなくて。あ、犬だから犬見知り……? とにかく、わんちゃんにグイグイ距離をつめていくんです」

「元気でいいですね」

「ありがとうございます。でも、おとなしい子だと引かれてしまって……」

 なるほど。

「うちのわたあめは、ぜんぜん大丈夫です!」

 人(犬)見知りなし。めちゃくちゃ陽キャなわんこだ。

「よかったね。しーちゃん」

 ちょんちょんとペキニーズの頭を撫でる。二歳の女の子らしい。

「しーちゃん?」

「はい。白玉っていうんです」
 
 出た! 安易ネーム! うちのわたあめと同じ。白いから白玉。でも最高の良い名前だと思う。
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