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9.カレイの唐揚げと茶碗蒸し
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「なんか、新工場の立ち上げメンバーに選ばれたんですけど」
週明けの午前中、史哉に声を掛けられた。
「え?」
新工場?
「来週から行けって言われたんで。急だからとりあえずウィークリー探します」
私がバタバタと動き回っている間に会議室に呼ばれ、そこで話があったらしい。
ぼすっと椅子に座り、史哉はスマートフォンを片手で操作し始める。どうやら、賃貸住宅サイトを閲覧しているようだ。
「会社が用意とかしてくれないんですか?」
嶺衣奈が遠慮がちに史哉に問う。
「無いって言われた。初めから期待してないけど」
「……そういうとこ、あるよね。うちの会社って」
ブラックと断言できないが、確実にグレー寄りというか。こじんまりした会社の悪い部分が出ているというか。
「って、それより! 本当なの? 新工場に行くって。それも来週? 早くない?」
頭がぐらぐらする。少しずつだけど、史哉に割り振っていた仕事がある。それをどうするか。とりあえず私が引き受けるとして、新たな人員を投入してもらえるのだろうか。無理な気がする。なんといってもグレー寄り。
おまけに、今は社長を筆頭に社内全体が浮足立っている状況なのだ。「アイ&ワン」と新工場のことに意識が行き過ぎている。既存の業務は、何となく後回しにされている感がある。
「ぜっんぜん聞いてない……」
がっくりと、力が抜けた私を見て、史哉が口を開く。
「主任が推薦したんじゃないんですか」
「何でそう思うの……?」
脱力し過ぎて、机に突っ伏す。せっかく、良い感じで育ってきたのに。貴重な戦力なのに。
「お払い箱にされるの慣れてるんで」
「……そういえば、ここに来るまでに経由地が複数あったね」
史哉が自分のところに回されてきたころを思い出す。そんなに経っていないはずなのに、もはや懐かしささえ感じる。
「主任が何も言ってないなら、いいです」
ふうっと大きく、史哉が息を吐く。
「推薦なんてしないわよ。びしびし鍛えて、超有能な部下にする予定だったんだから」
かつて郡司に語ったこともある、「部下有能化計画」。実現すれば、繁忙期の休日出勤や終電での帰宅は回避できるはずだった。
お仕事大好き人間の私にだって、限界はあるのだ。
「主任って、けっこう腹黒いんですね」
史哉まで、郡司と同じようなことを言う。
軽蔑しているのかと思いきや、意外にも愉快そうにしていた。
脱力したまま、私は送別会の計画を練る。たらい回しにされていたことを気にしていたようだけど、今回は違う。初めて望まれて赴くのだ。気持ちよく送り出してやりたいと思った。
「時間ないからいいです」
にべもなく断られ、ますます脱力する。
「イマドキっ子だから……?」
飲み会断固お断り、的なやつだろうか。
「そうじゃなくて。期間限定らしいんで」
「へ?」
「軌道にのったら本社勤務に戻るらしいです」
そういうことは初めに言いなさいよ。大事なことじゃないのよ。
「良かったですね! 主任!」
嶺衣奈に肩を揺すられ、「ま、まぁね」と反応する。
「部下有能化計画? でしたっけ? ま、使えるようになって戻ってくるんで。期待して待っててください」
そう言って、史哉はニヤリと笑った。
くるりと椅子を回して、私のほうに向いていた体をパソコンのほうに向ける。そうして、鼻歌でもうたい始めるんじゃないかというくらい、楽しそうに仕事を再開させたのだった。
週明けの午前中、史哉に声を掛けられた。
「え?」
新工場?
「来週から行けって言われたんで。急だからとりあえずウィークリー探します」
私がバタバタと動き回っている間に会議室に呼ばれ、そこで話があったらしい。
ぼすっと椅子に座り、史哉はスマートフォンを片手で操作し始める。どうやら、賃貸住宅サイトを閲覧しているようだ。
「会社が用意とかしてくれないんですか?」
嶺衣奈が遠慮がちに史哉に問う。
「無いって言われた。初めから期待してないけど」
「……そういうとこ、あるよね。うちの会社って」
ブラックと断言できないが、確実にグレー寄りというか。こじんまりした会社の悪い部分が出ているというか。
「って、それより! 本当なの? 新工場に行くって。それも来週? 早くない?」
頭がぐらぐらする。少しずつだけど、史哉に割り振っていた仕事がある。それをどうするか。とりあえず私が引き受けるとして、新たな人員を投入してもらえるのだろうか。無理な気がする。なんといってもグレー寄り。
おまけに、今は社長を筆頭に社内全体が浮足立っている状況なのだ。「アイ&ワン」と新工場のことに意識が行き過ぎている。既存の業務は、何となく後回しにされている感がある。
「ぜっんぜん聞いてない……」
がっくりと、力が抜けた私を見て、史哉が口を開く。
「主任が推薦したんじゃないんですか」
「何でそう思うの……?」
脱力し過ぎて、机に突っ伏す。せっかく、良い感じで育ってきたのに。貴重な戦力なのに。
「お払い箱にされるの慣れてるんで」
「……そういえば、ここに来るまでに経由地が複数あったね」
史哉が自分のところに回されてきたころを思い出す。そんなに経っていないはずなのに、もはや懐かしささえ感じる。
「主任が何も言ってないなら、いいです」
ふうっと大きく、史哉が息を吐く。
「推薦なんてしないわよ。びしびし鍛えて、超有能な部下にする予定だったんだから」
かつて郡司に語ったこともある、「部下有能化計画」。実現すれば、繁忙期の休日出勤や終電での帰宅は回避できるはずだった。
お仕事大好き人間の私にだって、限界はあるのだ。
「主任って、けっこう腹黒いんですね」
史哉まで、郡司と同じようなことを言う。
軽蔑しているのかと思いきや、意外にも愉快そうにしていた。
脱力したまま、私は送別会の計画を練る。たらい回しにされていたことを気にしていたようだけど、今回は違う。初めて望まれて赴くのだ。気持ちよく送り出してやりたいと思った。
「時間ないからいいです」
にべもなく断られ、ますます脱力する。
「イマドキっ子だから……?」
飲み会断固お断り、的なやつだろうか。
「そうじゃなくて。期間限定らしいんで」
「へ?」
「軌道にのったら本社勤務に戻るらしいです」
そういうことは初めに言いなさいよ。大事なことじゃないのよ。
「良かったですね! 主任!」
嶺衣奈に肩を揺すられ、「ま、まぁね」と反応する。
「部下有能化計画? でしたっけ? ま、使えるようになって戻ってくるんで。期待して待っててください」
そう言って、史哉はニヤリと笑った。
くるりと椅子を回して、私のほうに向いていた体をパソコンのほうに向ける。そうして、鼻歌でもうたい始めるんじゃないかというくらい、楽しそうに仕事を再開させたのだった。
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