気だるげ男子のいたわりごはん

水縞しま

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7.わたあめのための手作りごはん    

着替え中

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 じゅうぶんに冷ました手作りごはんを器に盛る。

 わたあめに見せると、その場でくるくる回転しながら喜びを表現した。

「おすわり」

 私の言葉を聞いた瞬間、回転を停止して即座におすわりをした。前脚を揃えて、胸を張っている。なんとも行儀のよいおすわりだ。そのちんまりした姿に、またしても心臓がぎゅんぎゅんする。

「よしっ!」

 合図と同時にガツガツと食べ始める。

 余程、手作りごはんが食べたかったのだろう。作り手は違うけれども、それを気にした様子はなく、勢いよく食べている。うれしいなぁと思った。

 自分が作ったものを、美味しそうに食べてもらえるのはうれしい。子どものころは、そんな風に思う余裕がなかった。思えば、誰かのためにごはんを作るということを、ずいぶん長い間してこなかった。

 郡司は毎週末、私にごはんを作ってくれている。

 私が美味しそうにがっつく姿を見て、うれしいとか、思うんだろうか。

 そういえば、郡司は自分のごはん、どうしてるんだろう? 風邪を引いてから、きちんと栄養のあるものを口にしているのだろうか。

 メッセージで確認しようとスマートフォンを開いた瞬間、時間が目に入った。

「あっ! そろそろ出ないと間に合わない!」

 名残惜しすぎるけれど、わたあめに別れを告げる。

「またね、わたあめちゃん♡ 明日も飼い主の調子が悪かったら、おねえさんが来るからね!」

 郡司には、無事にわたあめに手作りごはんをあげたこと、一応はキッチンをきれいにしたことをメッセージで告げる。

『私、もう行くからね! 私が出たあとは、ちゃんと戸締りしてね』

 スマートフォンをバッグに押し込んだところで、着替えをしていないことに気づいた。動きやすさ重視でここに来たので、今はランニング女子のような恰好なのだ。

 白のTシャツからグレーの半袖トップス、短パンから黒の美脚ワイドパンツに履き替えれば、あっという間に働く女子の出来上がりだ。この場でさくっと着替えさせてもらおう。Tシャツの裾を両手でがしっと掴み、豪快に脱ぎ捨てる。そして短パンに手をかけたところで、リビングの奥にある扉が開いた。

「……まだいたの」
 
「え?」

 郡司と目が合う。瞬きもできずに、その場でかたまる。数秒してやっと思考停止が解け、「ぎゃっ!」という声が出た。

「あ、やば。風邪うつるわ……」

 そう言って、郡司は部屋に引っ込んだ。

 すすっと扉が閉じられるのを見ながら、「そっちかい!」と心の中で叫んだ。

 一応は女性の着替えを目撃したのだ。もうちょっとオタオタしてくれてもいいのではないか。こっちは思わず「ぎゃっ!」と言ってしまったのに。

 色気も何もない声だったな……。

 心臓がバクバクと脈打っている。完全に下着姿の上半身を見られた。赤面しながら、なんとか着替えを済ませる。

 赤くなった顔を手でパタパタあおぎながら、わたあめの姿を探すとソファの上にいた。

 どてーーんと横向きになり、満足そうな顔でむにゃむにゃしている。お腹が満腹になり、今は睡魔と戦っているようだった。

 わたあめが幸せならそれでいい。下着姿なんてものは、別に恥ずかしいものじゃない。うん。水着だと思えばいいのだ。ブラジャーと形状はほぼ同じ。何なら、ブラジャーのほうがしっかりしているではないか。

 絶っっっ対に、恥ずかしくない。

 そう自分に言い聞かせながら、「行ってきます!」と玄関から部屋のほうに向かって叫んだのだった。
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