25 / 50
5.ひんやり抹茶ラテ
おやつをあげる
しおりを挟む
しばらくすると、わたあめの愛らしさに対する動機息切れも若干おさまってきた。持参したおやつを見せながら、郡司にひとつずつ説明していく。
「こっちはかぼちゃのクッキーで、これはお魚ふりかけ。フードの上にふりかけると食いつきがよくなるって人気なんだ。栄養もたっぷりだよ」
「どーも。……ま、もともと食いつきはいいんだけど」
どうやら、わたあめは普段からごはんをもりもり食べているらしい。
「それで、これがささみジャーキーなんだけど……あげてもいい?」
わたあめのきゅるるん視線に耐えきれず、飼い主にお伺いを立てる。一日に与えるおやつの量はきちんと決めているらしく、郡司の了承を得てささみジャーキーの袋を開ける。
小ぶりなものを一枚取り出し、わたあめに見せる。その瞬間、さらに瞳の輝きが増した。つぶらな瞳をまん丸にさせながら、真剣な眼差しでおやつを凝視している。
食べやすい大きさに手で割り、試しに「おすわり」と言ってみると、わたあめはお尻を床につけて胸を張った。しつけもきちんとされているらしい。
前の両脚をきちっと揃え、めちゃくちゃ良い姿勢を保っている。わたあめからの「ちゃんとおすわりしたぞ」という圧を感じる。
その様子に見惚れてしまい、おやつをあげないでいると、座った状態のまま前脚が足踏みを始めた。食べたくて我慢できないのだろう。視線はおやつ一直線。一心不乱に凝視している。
「よしっ!」
という私の声と同時に、わたあめがぎゅーんと飛んできて、ささみジャーキーをぱくっと口に入れた。可愛くて白い小さな牙をのぞかせながら、ジャーキーを味わっている。
食べ終えると、またしても賢いおすわりを始めた。ぐっと胸を張ってアピールしている。もっとおやつが欲しいのようだ。
「おて!」
自分の右手を差し出しながら、またしても試しに言ってみる。すると、わたあめはぺしっと右脚を私の手のひらに乗せてきた。
めちゃくちゃエライ! ジャーキーをひとつあげる。
「おかわり!」
今度は左脚をたしっと乗せた。なんて可愛くて賢いのだ。さらにもうひとつジャーキーを与える。
手のひらには、わたあめの肉球の感触が残っている。なんともいえない肌触りと質感。ずっと触っていたいにふにふに感。
自分の手のひらを眺めながら感触の余韻に浸っていると、ぺしっと右脚が乗ってきた。その脚を引っ込め、次はたしっと左脚が乗る。ぺしっ、たしっ、ぺしっ、たしっ。
自発的に交互に「おて」と「おかわり」を繰り返している。とてつもない食いしん坊だ。
「いっぱい食べると、ごはん食べられなくなるからね。これで最後だよ」
そう言って、わたあめから少し離れたところにおやつを置き「まて」の合図を送る。愛らしく賢いわたあめは、指示通りにじっと待っている。床に置かれたさみジャーキーを、じぃーーーっと見ている。
そして、私の「よし」の声と共にぴょーんと飛んで距離を詰めた。その動きはまるで、ヒョウが獲物を狩る瞬間みたいだった。
ただし、全身もふもふのずんぐりむっくり、頭はアフロヘアなので、動きと姿形がちぐはぐで面白い。ぴょーんと飛んだ際、アフロヘアが風にたなびいていたのも高ポイントだ。
フローリングの床に座り込んで、あむあむと美味しそうにジャーキーを頬張るわたあめを眺める。微笑ましい姿に、思わずふふっと笑みがこぼれる。
「……なに笑ってんの」
頭上から郡司の声が降ってきた。
両手にグラスを持ちながら、私を見下ろしている。グラスの中身は、鮮やかなグリーン色をしていた。
「抹茶ラテ」
そっけない口調で郡司が言う。私がわたあめに夢中になっている間に、作ってくれたらしい。差し出されたグラスを受け取った。氷がたっぷり入っているグラスは冷たい。
なんだか、急に喉が渇いてきた。
「いただきます!」
口をつけた瞬間、抹茶の香りを感じた。ほろ苦いけれど、ミルクのやさしい風味がそれをくるんで、ひんやりした気持ち良さも合わさってゴクゴク飲める美味しさだった。
グラスの中の氷がカランと音を立てる。勢いよく飲みすぎてしまった。もっと味わって飲めばよかったな、と少し後悔する。本当に美味しかった。カフェで出してもいけるんじゃ? と思うくらいのクオリティだった。
なんでも茶筌を使っているらしい。名残り惜しそうにグラスを見ていると、郡司が二杯目を入れてくれた。
「すげぇ顔してたよ」
キッチンに立つ郡司が口角をほんのわずかに上げるようにして言う。フランス映画に出てくるような、やたら色気のある悪役みたいな笑い方だ。
「顔って?」
「わたあめとそっくりだった」
なんでも、「一気にフードを食べてしまい、お皿の中にごはんが一粒も残っていない現実を理解できていないときのわたあめの顔」に激似だというのだ。
「初対面なのに似ているなんて、運命だね!」
おやつを食べて満足したのか、ソファの上でドテッと仰向けに寝ころんでいるわたあめに話しかける。
「……犬、どうしても見たくなったら来ていいから」
郡司の声色に違和感を覚える。ちょっとしんみりしている。表情もなんというか、センシティブな感じ。
あ、そういえば。私は「幼少期、ちょびっと苦労した」という設定なんだった。
それにしても、郡司は義理堅い奴だ。優しくて良い奴。笑い方はニヒルだけれども。とりあえず、ちょっと盛った過去の話はそのままにして、「ありがとう」と言っておいた。
「こっちはかぼちゃのクッキーで、これはお魚ふりかけ。フードの上にふりかけると食いつきがよくなるって人気なんだ。栄養もたっぷりだよ」
「どーも。……ま、もともと食いつきはいいんだけど」
どうやら、わたあめは普段からごはんをもりもり食べているらしい。
「それで、これがささみジャーキーなんだけど……あげてもいい?」
わたあめのきゅるるん視線に耐えきれず、飼い主にお伺いを立てる。一日に与えるおやつの量はきちんと決めているらしく、郡司の了承を得てささみジャーキーの袋を開ける。
小ぶりなものを一枚取り出し、わたあめに見せる。その瞬間、さらに瞳の輝きが増した。つぶらな瞳をまん丸にさせながら、真剣な眼差しでおやつを凝視している。
食べやすい大きさに手で割り、試しに「おすわり」と言ってみると、わたあめはお尻を床につけて胸を張った。しつけもきちんとされているらしい。
前の両脚をきちっと揃え、めちゃくちゃ良い姿勢を保っている。わたあめからの「ちゃんとおすわりしたぞ」という圧を感じる。
その様子に見惚れてしまい、おやつをあげないでいると、座った状態のまま前脚が足踏みを始めた。食べたくて我慢できないのだろう。視線はおやつ一直線。一心不乱に凝視している。
「よしっ!」
という私の声と同時に、わたあめがぎゅーんと飛んできて、ささみジャーキーをぱくっと口に入れた。可愛くて白い小さな牙をのぞかせながら、ジャーキーを味わっている。
食べ終えると、またしても賢いおすわりを始めた。ぐっと胸を張ってアピールしている。もっとおやつが欲しいのようだ。
「おて!」
自分の右手を差し出しながら、またしても試しに言ってみる。すると、わたあめはぺしっと右脚を私の手のひらに乗せてきた。
めちゃくちゃエライ! ジャーキーをひとつあげる。
「おかわり!」
今度は左脚をたしっと乗せた。なんて可愛くて賢いのだ。さらにもうひとつジャーキーを与える。
手のひらには、わたあめの肉球の感触が残っている。なんともいえない肌触りと質感。ずっと触っていたいにふにふに感。
自分の手のひらを眺めながら感触の余韻に浸っていると、ぺしっと右脚が乗ってきた。その脚を引っ込め、次はたしっと左脚が乗る。ぺしっ、たしっ、ぺしっ、たしっ。
自発的に交互に「おて」と「おかわり」を繰り返している。とてつもない食いしん坊だ。
「いっぱい食べると、ごはん食べられなくなるからね。これで最後だよ」
そう言って、わたあめから少し離れたところにおやつを置き「まて」の合図を送る。愛らしく賢いわたあめは、指示通りにじっと待っている。床に置かれたさみジャーキーを、じぃーーーっと見ている。
そして、私の「よし」の声と共にぴょーんと飛んで距離を詰めた。その動きはまるで、ヒョウが獲物を狩る瞬間みたいだった。
ただし、全身もふもふのずんぐりむっくり、頭はアフロヘアなので、動きと姿形がちぐはぐで面白い。ぴょーんと飛んだ際、アフロヘアが風にたなびいていたのも高ポイントだ。
フローリングの床に座り込んで、あむあむと美味しそうにジャーキーを頬張るわたあめを眺める。微笑ましい姿に、思わずふふっと笑みがこぼれる。
「……なに笑ってんの」
頭上から郡司の声が降ってきた。
両手にグラスを持ちながら、私を見下ろしている。グラスの中身は、鮮やかなグリーン色をしていた。
「抹茶ラテ」
そっけない口調で郡司が言う。私がわたあめに夢中になっている間に、作ってくれたらしい。差し出されたグラスを受け取った。氷がたっぷり入っているグラスは冷たい。
なんだか、急に喉が渇いてきた。
「いただきます!」
口をつけた瞬間、抹茶の香りを感じた。ほろ苦いけれど、ミルクのやさしい風味がそれをくるんで、ひんやりした気持ち良さも合わさってゴクゴク飲める美味しさだった。
グラスの中の氷がカランと音を立てる。勢いよく飲みすぎてしまった。もっと味わって飲めばよかったな、と少し後悔する。本当に美味しかった。カフェで出してもいけるんじゃ? と思うくらいのクオリティだった。
なんでも茶筌を使っているらしい。名残り惜しそうにグラスを見ていると、郡司が二杯目を入れてくれた。
「すげぇ顔してたよ」
キッチンに立つ郡司が口角をほんのわずかに上げるようにして言う。フランス映画に出てくるような、やたら色気のある悪役みたいな笑い方だ。
「顔って?」
「わたあめとそっくりだった」
なんでも、「一気にフードを食べてしまい、お皿の中にごはんが一粒も残っていない現実を理解できていないときのわたあめの顔」に激似だというのだ。
「初対面なのに似ているなんて、運命だね!」
おやつを食べて満足したのか、ソファの上でドテッと仰向けに寝ころんでいるわたあめに話しかける。
「……犬、どうしても見たくなったら来ていいから」
郡司の声色に違和感を覚える。ちょっとしんみりしている。表情もなんというか、センシティブな感じ。
あ、そういえば。私は「幼少期、ちょびっと苦労した」という設定なんだった。
それにしても、郡司は義理堅い奴だ。優しくて良い奴。笑い方はニヒルだけれども。とりあえず、ちょっと盛った過去の話はそのままにして、「ありがとう」と言っておいた。
2
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる?
「年下上司なんてありえない!」
「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」
思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった!
人材業界へと転職した高井綾香。
そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。
綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。
ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……?
「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」
「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」
「はあ!?誘惑!?」
「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと -
設樂理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡
やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡
――――― まただ、胸が締め付けられるような・・
そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ―――――
ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。
絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、
遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、
わたしにだけ意地悪で・・なのに、
気がつけば、一番近くにいたYO。
幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい
◇ ◇ ◇ ◇
💛画像はAI生成画像 自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる