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4.うなぎのちらし寿司

元気になるレシピ

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 週末の夜、ごはんを作りに来た郡司に「もっと写真ないの?」と、さらなるもふもふ画像を要求してみた。

「今、忙しいから。後な」

「後ならある?」

 うきうきして聞くと、菜箸を持った郡司にぎろりと睨まれた。どうやら邪魔らしい。

 私は大人しくダイニングテーブルに着席して、ごはんが出来るのを待った。献立のメモに「うなぎ」の文字を見つけて思わずテンションがあがる。

「そういえば、土用の丑の日だね」

「だな」

 夏の暑さを乗り切るためにも、栄養たっぷりのうなぎはうれしい。

「疲労回復に良いって聞くよね」

「そうか?」

「もしかして、私が忙しいって言ったから、うなぎ?」

 ただ待っているのはヒマなので、鬱陶しがられるだろうと思いながらも話を振る。

「どうだろ」

 郡司は背中を向けたまま、手を動かしている。

 ちらりと献立のメモを確認する。どれもこれもおいしそうで、思わず頬がゆるんだ。

------------------------------------
【今日の献立】

・うなぎのちらし寿司
・ゴーヤの酢の物
・夏野菜の天ぷら
・焼きとうもろこしの味噌汁
------------------------------------

 ゴーヤを酢の物としていただくのは初めてだった。薄切りにされたゴーヤはシャキシャキとした食感で、ほどよい苦味が感じられた。

「苦いけど、甘さもあるような……?」

 ほんのりやさしい甘さだ。

「砂糖も入ってる」

「ほえ~~」

 ぱくぱくとゴーヤを口に運んでいると、郡司が目の前に天ぷらが盛られた皿を置いた。

「おいしそーーー!」

 さくさくに揚がった夏野菜は、なす、オクラ、かぼちゃ、ズッキーニ。

 初めは塩で食べて、次におろし天つゆでも味わった。かぼちゃはほくほくして甘い。なすもズッキーニもおいしかったのだけど、いちばん感動したのはオクラだった。

 もともとオクラは苦手だった。表面のうぶ毛のようなものが好きになれなかった。でもこれは、衣のおかげなのか気にならないし、塩にもおろし天つゆにも合っておいしい。

「うぶ毛は取れるんだよ」

「そうなの?」

 知らなかった。

「簡単」

「へぇ」

 そうなのか。ぜんぜん知らない。料理偏差値が低くて恥ずかしい。

「教えて?」

「いやだ」

 けちだな。

 私は気を取り直して、味噌汁をずずーーっとすすった。

 とうもろこしは輪切りにしたあと、軽く炙っているという。こんがりと焦げめがついて、その香ばしさが味噌汁に溶け出している。

 私は我慢できなくなって、とうもろこしにかぶりついた。ぎっしりと粒が詰まっている。ぐっと歯を押し込むようにして粒を剥す。香ばしさと、とうもろこし本来の甘さが口の中いっぱいに広がった。

 もう満足してしまいそうなくらいだけど、メインはここからだ。

「うなぎ!」

 それも、ちらし寿司とうなぎ。なんて豪華な組み合わせなのだろう。平たく盛られた酢飯の上に、錦糸卵がたっぷりと乗っている。それから、大葉とごま。

 主役のうなぎは食べやすい大きさにカットされ、どどーんと散りばめられている。

 酢飯と具材をお箸ですくうように持ち上げ、ぱくりと口に放り込む。

「んぐっ……! んぅ……!」

 おいしいものを食べると、体が反応してジタバタしてしまう。妙な動き(おいしい踊り)をする私を、訝しむように郡司が見る。

 喉が詰まったと勘違いしたのか、郡司がグラスにミネラルウォーターを注いで手渡してくれた。

 私は首を振って受取を拒否する。もともと喉は詰まっていないし、こんなにおいしいものを水で流し込むなんて出来ない。

 味わえるだけ味わって飲み込んだあと、「おいしい!」と言うと、こちらの勢いに若干引いたように「よかったな」と郡司が返事をした。

 次からは少しずつ口に運び、ゆっくりじっくり味わうようにちらし寿司をいただいた。

 もっちりつやつやとした酢飯と、大葉のさっぱりした感じ。ごまの風味。錦糸卵は本物の糸みたいに細くて口当たりがほわほわとやさしかった。

 うなぎは肉厚でジューシーで、こってりとしたタレと絡んで最高においしい。嚙みしめる度にほっぺたが落ちそうになる。

 どんどん疲労回復している気がする。やっぱりうなぎは偉大だ。そう思いながら、私はもぐもぐを繰り返していた。
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