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2.じゅわっと五目巾着煮
月曜日はきらいじゃない
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週明けの月曜日は憂鬱になるひとが多いようだけど、私は意外と平気だ。むしろ、めちゃくちゃやる気がある。
土日にしっかりと休んで心身が元気なので「仕事よドンと来い!」とすがすがしい気持ちで月曜日を迎えている。
取引先には平日を休業日としているところもあり、出社すると問い合わせのメールや発注などがわんさか来ている。
さっそく急を要するメールに返信をする。発注分の在庫を確認したり、なければ製造してもらうよう製造部に依頼したり。納期内に商品を発送できているか、急遽休んだスタッフの補填は大丈夫なのか。事務作業もためないようしなくては。
そんなことを考えながら、ドドドドッという勢いで仕事をこなしていると、たいてい声がかかる。
「清家主任、すみませんっ! お電話なんですけど、おねがいします。たぶん、ヨーキー? って、おっしゃってるんですけど。ちょっと訛りがあって聞き取れないんです」
女性事務スタッフの竹井嶺衣奈が困った顔でこちらを見ている。
ヨーキーというのは、小型犬のヨークシャー・テリアのことだ。ブリーダーからの問い合わせだろうか、と思いながら電話に出ると、聞き慣れた声が耳に届いた。
「あ、清家さんかい? 久しぶりやねぇ」
独特のイントネーションと、しゃがれた声。
長年お世話になっている猟師の男性だった。電話の内容は簡単な近況報告だけで、特にむずかしいことではなかった。
通話を終え、受話器を置いてから嶺衣奈に「ヨーキーじゃなくて、リョーキだったよ」と伝える。
「りょーき??」
メモとペンを片手にした彼女は、目をぱちくりさせながら、私の言葉に戸惑っている。
「そう、猟期。うち、鹿肉のジャーキーを製造してるでしょう。さっきの電話は猟師さんからで、猟期以外はなかなか肉が手に入らないから、卸したくても卸せないし。どうしようもないねっていう、まぁ世間話みたいなもの」
「なるほどーー! 勉強になります!」
そう言って大きくうなずきながら、嶺衣奈がメモにペンを走らせている。
嶺衣奈は三カ月前、新卒で入社してきた社員だ。今のところ事務仕事を担当してもらっている。彼女の研修は私が受け持つことになった。素直でがんばり屋だし、順調に仕事を覚えて戦力になりつつある。
初めは電話での受け答えが苦手なようだった。緊張のあまり、受話器を取る手が震えていた。そういう場面を見てしまうと、つい「電話なんてぜんぶ私が取るから大丈夫!」とお節介気質を発揮しそうになるのだけど、ぐっとこらえた。
これは仕事なのだ。そんなことをしても彼女のためにはならない。指導係として心を鬼にした。
『私がそばにいるときは、竹井さんが電話に出てください。無理だと思ったら、すぐにかわるから』
そう言って励ますうち、少しずつ苦手意識がうすれていったらしい。受話器を取る手に怯えがなくなった。さっきだって元気よくはきはきと電話に出ていたし、不安があればすぐに頼ってくれる。
何の問題もない。彼女は、問題ない……。
私は高速でダダダダッとキーボードを叩く手を止めた。そして、じりじりと右側を向く。嶺衣奈とは逆の方向。
座っているのは、杉崎史哉。嶺衣奈と同じく新卒で入社してきた社員だ。
土日にしっかりと休んで心身が元気なので「仕事よドンと来い!」とすがすがしい気持ちで月曜日を迎えている。
取引先には平日を休業日としているところもあり、出社すると問い合わせのメールや発注などがわんさか来ている。
さっそく急を要するメールに返信をする。発注分の在庫を確認したり、なければ製造してもらうよう製造部に依頼したり。納期内に商品を発送できているか、急遽休んだスタッフの補填は大丈夫なのか。事務作業もためないようしなくては。
そんなことを考えながら、ドドドドッという勢いで仕事をこなしていると、たいてい声がかかる。
「清家主任、すみませんっ! お電話なんですけど、おねがいします。たぶん、ヨーキー? って、おっしゃってるんですけど。ちょっと訛りがあって聞き取れないんです」
女性事務スタッフの竹井嶺衣奈が困った顔でこちらを見ている。
ヨーキーというのは、小型犬のヨークシャー・テリアのことだ。ブリーダーからの問い合わせだろうか、と思いながら電話に出ると、聞き慣れた声が耳に届いた。
「あ、清家さんかい? 久しぶりやねぇ」
独特のイントネーションと、しゃがれた声。
長年お世話になっている猟師の男性だった。電話の内容は簡単な近況報告だけで、特にむずかしいことではなかった。
通話を終え、受話器を置いてから嶺衣奈に「ヨーキーじゃなくて、リョーキだったよ」と伝える。
「りょーき??」
メモとペンを片手にした彼女は、目をぱちくりさせながら、私の言葉に戸惑っている。
「そう、猟期。うち、鹿肉のジャーキーを製造してるでしょう。さっきの電話は猟師さんからで、猟期以外はなかなか肉が手に入らないから、卸したくても卸せないし。どうしようもないねっていう、まぁ世間話みたいなもの」
「なるほどーー! 勉強になります!」
そう言って大きくうなずきながら、嶺衣奈がメモにペンを走らせている。
嶺衣奈は三カ月前、新卒で入社してきた社員だ。今のところ事務仕事を担当してもらっている。彼女の研修は私が受け持つことになった。素直でがんばり屋だし、順調に仕事を覚えて戦力になりつつある。
初めは電話での受け答えが苦手なようだった。緊張のあまり、受話器を取る手が震えていた。そういう場面を見てしまうと、つい「電話なんてぜんぶ私が取るから大丈夫!」とお節介気質を発揮しそうになるのだけど、ぐっとこらえた。
これは仕事なのだ。そんなことをしても彼女のためにはならない。指導係として心を鬼にした。
『私がそばにいるときは、竹井さんが電話に出てください。無理だと思ったら、すぐにかわるから』
そう言って励ますうち、少しずつ苦手意識がうすれていったらしい。受話器を取る手に怯えがなくなった。さっきだって元気よくはきはきと電話に出ていたし、不安があればすぐに頼ってくれる。
何の問題もない。彼女は、問題ない……。
私は高速でダダダダッとキーボードを叩く手を止めた。そして、じりじりと右側を向く。嶺衣奈とは逆の方向。
座っているのは、杉崎史哉。嶺衣奈と同じく新卒で入社してきた社員だ。
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