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樫野 珠代

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番外編(side舞)

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「舞・・・。おまえが今抱え込んでる悩みや不安を全部吐き出せ。全て俺が応えてやる。それにお前が欲しがってる言葉もくれてやるから。」
私の耳元で優しく囁くように促してくる。
彼の胸からは鼓動が聞こえ、体全体は彼のぬくもりに包まれていた。
そんな中で、素直になれないはずがなかった。
「私・・・ずっと楓との距離を感じてきたの。でもね、それは私自身のせいであって、楓が悪いわけじゃないの。それは自分でも自覚してるよ。」
楓は何も言わずに頭を撫でながらそっと私の言葉に耳を傾けていた。
「自覚はしてるんだけど・・・それから先に進めないの、一歩も。だから昨日、奈緒や健ちゃんに電話して相談したんだ。でも、結局は私と楓の問題だから私達二人で解決しなきゃいけない、ってことに気が付いたの。だから・・・楓と話し合おうと思った。昨日もギリギリまで起きてたんだけど・・・結局、寝ちゃった。」
今更だけど、睡魔にすら勝てなかった自分がはずかしくなった。
ちらっと楓を見上げると彼と目が合い、つい逸らしてしまった。
「おい・・・今、目を逸らしただろ・・・。」
「う・・・だって・・・。」
「まぁいいや。話、続けて。」
「あ、うん。」
問題はここからなんだよね・・・
言いたくないような、でも言わなきゃ前に進まない・・・複雑な気分。
3回呼吸をして自分を落ち着けながら、これから話すことをゆっくりと頭の中でまとめていく。
「今朝、楓にメールを入れたのは、楓とどうしても今日、話をしたかったから。帰ってくる時間がわかれば、意地でも起きてようと思って。でも、メールをしてるうちに少しでも早く楓に会いたくなって、会社の前で待とう、って決めた。それで私、夕方から会社の前のカフェにいたの。」
「言ってくれればよかったのに・・・。」
「うん。でもね、ちょっと驚かしてやろうって思って・・・。」
「さっき見事に驚いたよ。」
「そう?おかげでその後の事で私も驚かされたけど・・・。楓からいつもの時間にメールが届いた時、すでに会社の前にいたんだよ?内容は・・・楓が送ったからわかるよね?」
「あぁ、遅くなるってメールだろ?」
「うん。そのメールがきた後すぐに楓が会社から出てきて・・・。」
「声、かけてくれればよかったのに・・・。」
「かけようと思ったら、タクシーでどこかに行っちゃったんだもん。」
「まぁ、あの時は結構、慌ててたからな~。」
「そう、慌ててたから・・・仕事だと思ったの。それで直帰かどうかわからなかったから誰かに聞こうかと思ってたところに・・・。」
「俺の知り合いが出てきたわけだ・・・。」
「そう。前にコンパを一緒にやってた人達・・・。」
「・・・聡達だな・・・。」
小さく舌打ちをしながら楓は呟いた。
楓の腕の中から少し距離を取って、楓と向き合った。
「声をかけようとしたら、ちょうど楓の話題で・・・聞くつもりじゃなかった。でも、聞いた言葉が気になって。楓は私と別れたがってる、この家に帰るのが嫌だ、今日は別の女と会ってる、その彼女に電話で好きだって言ってた、・・・って、次々と知りたくない事ばかり聞こえてきたの。それがすごくショックで・・・そこからの記憶ははっきり言って・・・ないの。気が付いたらあの公園にいて・・・楓が公園に迎えに来てくれた。」
何をどう話していいのかわからず、結局、ありのままを話した。
全てを話した後、ゆっくりと楓の目に視線を向けた。
楓は、私のおでこをこつんと軽くはじき、小さい声でバカだな、と私に言った。
そしてはーっと息を吐き、頭を掻きながらどこかやるせない顔をしていた。
「舞は、そいつらの言ってたことを信じたわけだ・・・。」
「それは・・・。」
「あー、いや。ごめん。今のは忘れて。・・・俺も、今日お前の事信じてやれなかったから・・・。」
「・・・え?」
私を信じてなかった?
彼の言葉が意外で、顔が強張っていたと思う。
「何から話せばいいんだろうな。」
楓はしばらく頭を抱えて何かを考えていた。
その間も、私の手を取って、ぎゅっと握り締めていてくれた。
「なんかさ、舞の話聞いてて・・・俺の話するのって、やなんだけど・・・。」
「へ?」
「なんか、マジ恥ずかしいわ、俺。」
そう言って、口を押さえていた。
恥ずかしい??
その先を聞きたくて、声には出さず、ひたすら彼の目を見つめ、瞳で訴えてみた。
「はぁ~。あのな・・・夕方、奈緒から電話があったんだよ。ちょうど舞にメールを送った後。」
「は?奈緒から?」
「そ。おまえが昨日相談したって言う“あの”奈緒から。」
「じゃあ・・・。」
「いきなり電話かけてきて、第一声、なんて言ったと思う?」
なんだか聞くのが怖かった。
だって、あの奈緒のことだもん・・・
「『まだやってないんだって?』だぜ?いきなり意味不明の言葉投げかけられて、何言ってんだ?って思ったよ。そしたら、奈緒が気味悪く笑い始めやがって・・・。」
その時の楓の目が怖かった。
う・・・奈緒・・・楓に言わないでよぉ、相談した事・・・。
「しかも!だ。奈緒の横にはなぜか健がいた。」
う・・・本当に聞きたくない。
あの二人が揃うと、絶対にいいことは起きないもん。
昨日だって、電話中なのに・・・ごにょごにょ始めちゃうし・・・。
「最初はふざけて電話してきたのかと思って、すぐに切ろうとしたんだよ。そしたら、ごちゃごちゃ言い始めて挙句に今すぐ来い!だと。仕事もあったから突っぱねたよ。そしたら・・・『舞を取られてもいいの?』なんて意味深発言しはじめるし。聞き出そうとしても『話は会ってから』の一点張り。それで・・・慌てて仕事そっちのけで二人の所に行ったわけ。」
つ、つまり今日、楓は浮気をしてたわけじゃなく・・・私の事が気になって奈緒達に会いに行ったってことぉ!?
や、やだ私・・・勘違いしちゃって・・・
思わず俯き、赤くなった顔を隠そうとした。
あ、でも電話で楓は言ってたんだよね・・・『好きだ』とか・・・
ぱっと顔を上げたとき、楓は私の表情で何かを読み取ったらしく拗ねた様な顔をしながらぷいっと横を向いて口を開いた。
「舞が勘違いした一番の理由は、俺が好きだっつったことだろ?あれは!・・・健に聞かれたんだよ。『舞のこと、嫌いなのか?』って。それで俺、そんなわけないって言ったらさ・・・健の奴、『はっきり言えよ』ってしつこくて。それで『好きに決まってるだろ?』って答えたんだ!」
私は、唖然としてしまった。
健ちゃん・・・紛らわしいよ・・・。
しかも電話口で言わせるなんて・・・。
でも、すごく嬉しい。
楓の気持ちを今、改めて聞けて。
じっと楓を見てると・・・あれ?照れてる?
うっすらと顔が赤らんできた。
「舞、そんなに見るんじゃねーよ。」
彼は自分の顔を見えないように私の頭を抱え、また抱きしめてきた。
心なしか、楓の鼓動も早い。
いつもにはない楓の言動一つ一つが私を喜ばせてくれる。
少しずつ楓との距離が近くなっている気がする。
でももっと・・・もっと近づきたい。
今日は、全部楓にぶつけると決めた。
楓もぶつけて欲しいと言ってくれた。
だから心に引っかかることも全部聞こう・・・
「楓・・・どうして家に帰りたくない・・・の?」
聞くのが、とても気まずかった。
なんだか自滅してるみたいで・・・。
私のいる家が嫌なの?って聞いてるみたいで・・・。
楓からの返事は・・・ない。
ただ聞いた瞬間、一瞬だけ体に緊張が走ったように思えた。
そんなに言い辛いのかな・・・やっぱり。
しばらくして楓の諦めに近い声が聞こえてきた。
「それって・・・やっぱり答えなきゃ・・・駄目?」
「・・・できれば・・・やっぱり聞きたい。」
「あ、そう・・・。」
それでも楓は言おうとしない。
無理に顔だけを上げて、楓の顔色を窺った。
楓はぱっと私から体を引き離し、片手で顔を覆った。
な、何?
私が不安な顔をしていたのか、彼は慌てて否定した。
「舞、違うぞ。変な誤解するなよ!」
「誤解?私は別に・・・」
「そ、それならいいけど。」
「・・・楓?ちゃんと答えるって言ったじゃない!楓の考えてる事、私も知りたい。私だってさっき言ったんだよ?ね?」
「・・・はぁ。ちゃんと真面目に聞けよ?」
「うん。聞く。」
「・・・だから、家に帰ると・・・おまえがいるだろ?」
「うん。いる。」
「しかも普通に帰る時間って大抵・・・おまえ、風呂上りで寛いでるだろ?」
「うん。そだね。」
「・・・だから帰りたくないんだ。」
「うん・・・ん?は?意味わかんない!」
「わかれよ~、そのくらい・・・。」
「わかんないよ。どうして私が寛いでたら『帰りたくない』になるのよ!?」
勢いで楓に詰め寄った。
楓は、そんな私を腕で制しながらぼそっと呟いた。
「・・・抱きたくなるからに決まってるだろ・・・。」
え・・・・・・・・・・・・・・・。
固まった私を元の位置に座らせ、顔を背けて続けた。
「だから・・・無防備なおまえを見てると抱きたくなる、襲ってしまいそうになる。だからそれを避ける為に、仕事に没頭した。なるべくおまえと顔を合わせない様にした。おまえにこんな薄汚い考えを持ってる俺を見せたくもなかったし・・・な。おまえ・・・俺が近づくと身を硬くして、全身で怖がってるの知ってたから・・・これ以上、怖がらせたくなかった。その為には、俺といる時間を少し減らした方がお互いの為なんじゃないかと思った。そうしていればそのうち、舞も俺のこと受け入れてくれるだろうって・・・。」
楓は・・・苦しんでた。
それは彼の表情を見てればわかる。
なのに私は・・・自分勝手だ。
「楓・・・私もね、同じ事思ってた。時間が解決してくれるって。・・・でもね、昨日奈緒達と話しててそれは間違いだって気が付いたの。お互いに努力しなきゃ駄目なんだって。そしたらほら・・・今はこんなに近くにいるのに、楓のこと受け入れてるよ。楓の温もりがすごく嬉しいの。楓が近くにいるって感じられるから。」
「あぁ・・・そうだな。」
楓はそう言って私の方を向いて微笑んでいた。
それは優しい微笑だった。
なんだか私にまで移ってしまって、一緒に笑ってしまった。
「・・・舞・・・そんな顔、すんなよ。」
「へ?」
やだ・・・変な顔してたのかな・・・
「違うから・・・。」
私の考えを見透かしたように楓は即座に答えた。
「舞があまりにも可愛い顔してたから・・・。」
「可愛い顔って・・・。」
「してたんだよ!・・・だから、そんな顔してたら・・・襲いたくなるんだって!さっき、言ったばかりだろ?これでも今、必至に我慢してんだからな!ちょっとは気を遣え!」
「そ、そんな・・・。」
気を遣えと言われても・・・。
無理に決まってるじゃん。
すると楓が急に噴出した。
「ぷっ!膨れんなよ。だからさ・・・舞さん。襲われたくなかったら用心して、俺に近づかない事!」
「う・・・。」
つい条件反射で楓と距離を取ってしまった。
「舞、おまえ・・・。はぁ、まあいいや。で、他には?気になった事や疑問に思ったこととか、ないか?どんなことでもこうなったら答えてやる。もうここまで自分をさらけ出してるんだ、こうなったらとことん自分を追い詰めてやる!」
なんだか自暴自棄気味なのは、気のせい?
楓のそんな姿を初めて見た気がする。
いつもは余裕があって、きちんと後先を考えて行動するのに・・・。
今日は、いろんな楓が見れて嬉しいな。
こうなったら私もとことん質問攻めするしかない!
もっといろんな楓が見たいから。
そんな私の中には、さっきまで渦巻いていた不安が不思議と消えていた。
たぶん・・・楓の気持ちをはっきり聞いたから。
「ね、楓・・・さっき楓が言ってたよね?私を信じてやれなかったって・・・。」
「あぁ。」
「それってどういう意味?」
「・・・まぁ罠に嵌った俺も悪いんだけどさ・・・。」
「罠?」
「ん。奈緒達の・・・ね。」
・・・またあの二人が絡んでるの・・・?
つくづく私達で遊んでる気がするんだけど・・・。
「今日、あの二人に呼び出されたって言ったろ?」
「うん。慌てて行った時でしょ?」
「そう。その時、話の中で・・・言われた。『このままじゃ、舞が他の男に奪われるぞ』って。」
「私が?」
「あぁ。最初は馬鹿げた話だと思って聞き流してたんだ。そしたらあいつ等、曖昧なニュアンスでいろいろ言ってきてさ・・・舞が言い寄られてるとか、俺の帰りが遅い時は他の奴と会ってるとか。」
「な、何それ!!ひどっ!私がいつそんな・・・。」
「まぁ、落ち着けって。俺の話、まだ終わってないから・・・。」
すごくムカついた、奈緒と健に対して。
どうしてそこまでひどい嘘が付けるの!?
言ってもいい嘘といけない嘘ってあるでしょ?
抑え切れないくらいの怒りが込み上げてきていた。
楓は怒りに震える私に苦笑いをしながら肩をぽんぽんと叩いた。
「そういうこと聞いててさ・・・なんとなく俺の中で舞に対して不信感みたいなもんが出てきた。たぶん、今日の舞の行動もその一因になってて・・・。」
「私・・・楓に何かした?」
少なくとも楓と公園で会うまでは、楓に対して不信感を持たせるようなことをしてない・・・はず。
だって、メールだって普通だったし。
「考えても見ろよ。いつも俺の仕事中に舞からメールなんてしないのに、今日に限ってメール入れてくるし。しかもその内容が、俺の帰る時間気にしてるみたいだっただろ?変だな・・・って思ってたんだ。そんな時に健や奈緒に誰かと会ってるって言われたんだ。だんだんと自信がなくなって来て、舞に電話しようとした・・・。その時点でおまえを疑ってる自分に気がついた。俺は・・・舞をどこかで信じるてなかったんだ。」
「ううん。そんなことない!」
思わず、叫んでいた。
そうだ・・・言われてみれば、今日の私っていつもと違った。
何も知らない楓から見れば、怪しがるのも無理はない。
もし、私だったら・・・やっぱり同じことを考えてしまうと思う。
「楓は、悪くないよ?たまたま偶然が重なった結果だと思う。私だって、楓と同じ立場だったらきっと・・・。楓が悪いって言うなら、私だって同罪。でしょ?」
そう言って楓の腕を掴んで必死に言い諭していた。
あまりに必死に言い寄ってくる私を見て、楓は参ったなぁ、と頭を掻いて顔を歪めた。
「おまえ、可愛すぎ。そんなこと言われるとこれ以上、何も言えなくなるだろ?」
「・・・え、まだ何かあるの・・・?」
「あ、いや大した事じゃない・・・と思うんだ。つーか、話の続き。」
楓は慌ててフォローを入れていたが、舞にとってはその行動の方に疑問を持った。
とりあえず、眉を寄せながら楓の顔を少しだけ見据えながら言葉を続けさせた。
「実際はさ、俺からの電話って、あの公園でかかってくるまでなかっただろ?」
「うん・・・なかったよ。」
「携帯を取り上げられて、健に言われたんだ。『ちょうどいいチャンスだ。今から家に帰るだろ?もし、舞が家に居ればそれでよし。もし居なければ・・・男と会ってるな。だから電話をかけずに帰れよ~。電話をかけたら舞がおまえより先に家に帰って証拠隠滅してるかもしれないからな。』ってな。それで俺、家に帰ったよ。言われたとおりに実行する自分が情けなかったけどな・・・。でも帰ったらどうだ・・・舞、居ないし!」
け、健ちゃん!なんてことを!!
「あげくに連絡もない!その時、おまえをはっきりと疑ってた。俺を騙してたのか?って。だから俺と寝れないのか?って・・・。そしたら怒りが湧き上がってきた。すぐに舞に電話した。それがあの公園での電話。」
あぁ、そう言えば・・・楓、かなり怒ってるみたいだった。
そうか、そういうことか・・・。
「電話をかけた時、おまえなんかうろたえてただろ?しかもなかなか返事もしないしさ。さらに声が聞こえたと思ったら、震えてるし。余計に俺、おまえを怪しんだ。ひょっとして男と一緒か?って。だから・・・『誰かと一緒か?』って聞いた。あれは・・・そういう意味で聞いてたんだよ」
あの時は、楓からかかってくるなんて思わなかったし、楓の声を聞いたとたん、一気に感情がこみ上げてきたから・・・。
楓がなぜか怒ってたのも不安の一つになってたし。
楓に別れを持ち出されるかもっていう不安もあったから・・・。
実は、気が動転してて電話の内容をあまり覚えてない。
とりあえず自分を落ち着けなきゃって思って・・・。
「それにおまえ、自分の居場所、言おうとしなかったじゃん?俺のことばかりなんか気にかけてさ。おまえの行動一つ一つに疑問を持ち始めた。ようやく場所が聞けたと思って安心しかけた。そしたら一人で公園にいるだと?それでさらに不快に思ったよ。こんなに遅い時間に公園!?危ないにも程があるだろ!?って。迎えに行く車の中でずっと腹が立って仕方なかった。舞の警戒心のなさに。」
フッと楓は嘲笑した。
それと同時にソファの背凭れに重心を移動して、深く腰掛け直した。
私と楓の間に少しの距離が生じた。
それが目に見えない今の私達の距離に感じて、私はそれを埋めるように楓の隣に身を寄せた。
そんな私の肩を抱き、私の髪を弄りながら、楓はどこか遠くを見ていた。
「おまえの顔・・・いや姿を見た瞬間、さらに俺の怒りが増大したよ。なんでだと思う?」
「え・・・そんなの、わかんないよ・・・。」
私の方をちらっと目を向けて、私の顔を捉える。
彼の視線があまりの鋭さを伴っていて、それを退くのは不可能だった。
「おまえ、やけにお洒落してただろ?見たことのない服着てさ。それを誰に見せたんだ?誰に見せようとしたんだ?って嫉妬に狂ったよ。誰かもわからない相手に嫉妬した。でも一方で、舞は最初から俺を見ていなかったんじゃないか?っていう考えが頭に浮かんだ。もしそうなら俺は道化師だなって・・・自分の馬鹿さ加減にうんざりした。それが、さっき舞と口論しはじめた時の俺。で、しまいには舞から『浅野君』だろ?あぁ、もう舞の中では俺は彼氏ではないんだって思ったよ。」
「服は・・・楓に会うと思ったらなんだか嬉しくて今日、買っちゃったものだよ。楓にちょっとでも気に入ってもらえるようにって・・・」
「ははは・・・今考えたら笑っちゃうよな?つまり俺は俺自身に嫉妬してたってことだろ?なんか・・・情けね~、俺って。」
「私は嬉しいよ。本当に心配してくれて、本当に好きでいてくれてる楓の気持ち、話聞いててすごくわかったし。」
「そう?」
「うん。楓のこと、さらに好きになりました。」
「そう言って頂けて光栄です・・・。」
二人でぷっと噴き出して笑い合った。
こんな時間が私達の距離を縮めてくれるんだ・・・。
楓と心が通じ合えたことで、私の中にあったモヤモヤはもう跡形もなく消えていた。
すると何か思い出したのか、そう言えば・・・と言って、楓の顔が近づき、おでこを合わせてきた。
「舞にはもう一つ、腹が立つことあったんだ。」
「え・・・まだあるの?」
僅かに眉間に皺が寄る。
「そう。たぶんこれが一番の原因。」
一番の原因・・・はて、なんだろう・・・
私が何かしたってこと?
話したこと意外はないと思うんだけど・・・
それ意外に考えられることって・・・
もしかして・・・エッチのこと?
思わず、顔が赤くなった。
体温も心なしか上がった気がする。
私の反応を見て、楓は怪訝そうな顔をした。
「舞・・・どうした?」
「え?あ、ううん。何も。それで?一番の原因って?」
「おまえが・・・奈緒達に相談したこと。」
「・・・へ?」
「おまえが奈緒達に変な相談をしたことから始まったんだろうが・・・。あいつ等に相談相手なんて務まるわけないだろ?相談以上の被害を受ける!」
そうだった・・・あの二人が元凶なんだ。
そりゃ、相談しなければ私達は今までみたいに距離を感じたままだったかもしれない。
でも、結局自分を奮い立たしたのはやはり自分であって・・・と同時に彼らの愛の再確認・・・の手伝いをしただけのような・・・。
相談をしなければ、楓の浮気騒動へ繋がる事もなかったし、楓が私に不信感を抱く事もなかった。
そうよ!あの二人じゃない!
「楓、ごめんね。」
「ったく。あと相談するにしても内容には気をつけろよ・・・」
「内容?」
「そう!おまえ、俺達が『まだなんもない』って言っただろ?」
「何もないって・・・・・・アレのこと、だよね?」
「それ以外になんかあるのか?」
「・・・いえ、ないです。」
「あいつ等に言ったらどうなるか、ぐらい考えろよ。おかげで今日はそのことで何度あいつ等にからかわれたことか・・・。」
「そ、そうなんだ・・・。」
なんだか居た堪れず、おでこを引っ付けたまま目線を下に向けるしかなかった。
あ、あれはそういう意味だったんだ。
楓が言ってた奈緒の電話のやり取りを思い浮かべた。
奈緒の第一声が『まだやってないんだって?』だったと・・・
う・・・奈緒・・・オブラートに包んでよ、せめて。
しかも楓、何度も言われたみたいだし・・・
自分が同じ立場だったら、恥ずかしいわ・・・
「これからはあいつ等に相談なんてするなよ?相談する前にまず、俺に直接言え!自分の中に溜めるな。いいか?」
「うん・・・。ホントにごめんなさい。反省してます。」
「ホントに反省してる?」
「う・・・してるってば!」
そこまで言って、目線を楓の元へ戻した。
楓は・・・・・・イヤな笑みを浮かべていた。
「あ、のぉ~・・・なんだかその笑みが恐いんですけどォ・・・。」
楓の笑みは消えない。
本当に・・・何かやな予感・・・
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