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どのくらい経っただろう・・・
舞と昔の話や、今の仕事の話、最近のハマり事など何気ない会話をしているうちに、舞の目がとろんとしてきていた。
「おい、舞。眠いんだろ?布団で寝ろよ。ここで寝たら風邪引くぞ!」
「ん~、大丈夫だよ」
「いや明らかに大丈夫じゃなさそうなんだけど?」
「でも意識は・・・あるから」
舞は、目を押さえながら必死に目を覚まそうと頑張っている。
「舞・・・無理するな」
「だって楓は、ど~するの?私が寝ちゃったら・・・」
「俺はココで飲んどくから。今さら俺に気を使うなよ」
「わかった・・・けど実は・・・すでに立てなかったり?」
「は?」
「ははは・・・飲みすぎ?フラフラなんだよね・・・だからココで雑魚寝。楓も眠くなったら寝ていいよ。暖房も入れてあるし、風邪は引かないと思うんだ」
「そんなになるまでホントに飲むなよ~。」
立てないってそんなに飲んだのか?
ふと気が付けば、二人の周りには買ってきた酒の残骸があり、明らかにかなりの量を飲んでいることは間違いなかった。
コレだけ飲めばそりゃ立てなくもなるか・・・
さすがにそれだけ飲ませたのは自分だとわかっている。
ソファから立ち上がり、舞の脇の下と膝の下に手を入れる
「え?何?ちょっと!!・・楓?」
「いいから。寝室まで運んでやるから大人しくしてろ・・・トイレとか大丈夫か?」
「あ・・・と。うん・・・あ、やっぱり行く・・・ごめんね、迷惑かけちゃって・・・」
「それ・・・いまさらなんだけど?」
ニヤリと笑って舞を見下ろす。
トイレの前まで行き、舞にドアを開けさせ、中へ押し込んだ
「さすがに中までは手伝えないぞ・・・」
「わかってます!!もう!変態!!」
舞は、そう言ってバタン!っとドアを閉めた。
彼女がトイレに行っている間、ソファの周りの残骸を片付けていると、トイレの方でガタガタッドン!という音が聞こえてきた。
気になるが、さすがに開けることは出来ないし。
しばらく様子を見ることにしたが、なかなか出てこない。
「舞?・・・大丈夫か?」
トイレに向かって声をかけた。
少しして中から、小さい声が聞こえた
「なんとか」
ほっとして、グラスをキッチンへ運び、片付けも終わる頃、ゴトっという音と共にトイレのドアが開いた。
ようやく出てきた・・・とトイレの方を振り向くと、舞が這いながらトイレからゆっくり出てきた。
慌てて舞に近づき、舞を抱え上げる。
「お、おい。大丈夫か?」
舞の体はすでに力が入らないのか、楓に体全体を預けていた。
「トイレで頑張って立とうとしたら無理だった。はは、さっきそれで倒れちゃって・・・大きな音したでしょ?」
「あぁ、かなりの音だったな。あんまりむちゃするなよ。怪我するだろ?」
「うん。ちょっと反省」
視線を下げ、声のトーンもなんとなく下がっていた。
寝室のドアを舞に開けさせ、ベッドの端に座らせ、掛布団を捲り、舞をもう一度抱き上げ布団へ寝かせた。
「ありがとう、楓」
そう言ってベッドから見上げられ、お酒で潤った目のまま上目遣いで謝ってきた。
そんな目で俺を見るなよ・・・
身体がじんわりと熱くなるのがわかる。
「好きなだけ寝てろ」
そう言って寝室を出ようと方向を変えた。
「あ、待って」
舞が慌てたように早口で声をかけてきた。
「楓、迷惑ついでにもう一個お願いしてもいい?」
「何?」
もう一度舞の傍によると、舞は申し訳なさそうに手を合わせていた。
「たぶん私、すぐに眠っちゃうと思うんだけど・・・それまでココで一緒に話してくれないかな・・・」
ココって寝室だぜ・・・
蛇の生殺し状態かよ・・・俺。
「すぐに寝るんなら話すことないんじゃないか?」
「う・・・でもちょっとでも話したい、駄目?」
そう言われると・・・断れないよなぁ・・・
俺ってつくづく舞に弱いよなぁ・・・
「わーかったよ!」
そう言って枕もとに肩肘をつき、床にどかっと腰掛けた。
それを見て舞はくすっと笑った。
「なんだよ・・・」
「いや、楓って本当に優しいなぁと思って」
「あ、そう。」
「ねぇ、楓は彼女いないの?」
「ぁあ?なんだいきなり」
「だってさ、こうやって誰にでも優しいのは素晴らしいとは思うけど、逆に彼女とかは嫌だろうなぁと思って。ほら、自分以外にも優しいわけじゃない?心配になると思うなぁ」
「別に誰にでも優しいわけじゃないし、それ以前に俺はそんなに優しいとは思わないけど?まぁ、知り合いが困ってたら助けてしまうだろうけどな。でもそれって優しいとかじゃなくて普通のことだろ。ま、彼女なんていないし、気にすることでもないがな」
言った後に、気が付いた・・・
誰にでも優しいわけじゃないって・・・これって遠回しに告ってねぇか?
飲んで思考が鈍っていたのか、考えるよりも先に言葉を発してる今の自分が居る。
気付かれたか?と冷や冷やしながら、ちらっと舞を見ると、天井を見つめていた。
その顔はなんだか悲しそうだった。
なんで?
「楓・・・ってさぁ。やっぱり変わってない」
「ん?」
「大学の時と全然変わってない・・・」
そう言って、舞は目を瞑った。
「私、ずっと楓と一緒にいたじゃない?いろんな楓を見てきて、その中で楓のいい所いっぱい見てきた。私に対する何気ない優しさも充分伝わってきたし。その優しさを、私は勘違いしたの。私のこと好きなのかな?って。だから優しくしてくれるんじゃないか?って。もちろん皆にも優しかったけど、私に一番優しい気がしてて。でも考えてみたら、私と楓って一緒にいる時間が長かったから優しくしてくれる回数というか、そう思えることも増えるのは当たり前なわけで・・・。でもあの時はそんなに冷静じゃなかったみたい。まぁ、要するに楓の優しさは罪作り!で、そういうのがまだ治ってないってとこが変わらないなぁと思ったの」
ふふっと笑って、舞は腕を額に乗せた。
「なんだ、冷たくして欲しいのか?だったら最初から言えよ。遠慮なく、極悪人のような態度取ってやるから」
「え~、それもやだな」
舞は眉を寄せながら頬を軽く膨らませた。
冗談を言いながらもなんだか居た堪れなくなって、気を紛らわせたくなった。
「舞、ココでタバコ吸ってもいいか?」
「あ、うん。いいよ。」
「ちょっと灰皿、持ってくる」
そう言って立ち上がり、リビングのテーブルへ取りに行った。
タバコに火をつけ、思いっきり一吸いして、舞の元へ戻った。
「わりぃな、寝てるところで吸って」
「ううん。大丈夫だよ」
そう言って微笑む舞は、とても可愛い。
タバコを吸いながら天井を見つつ、俺は大学の頃を思い出していた。
おそらく・・・舞の言っていることは本当だろう・・・
舞とは本当になんでも言い合って、笑い合って、助け合って。
だから自分も自然と全てをさらけ出せた。
舞も全てをさらけ出してくれた。
だから舞の弱い部分とか、困った瞬間とか誰よりも判ってやれた。そして手を差し伸べてやれた。
長く一緒に居れば、自然とそういった場面も多くなる。
でも、それだけじゃない。
その時は無意識だったし、慣れというのもあって気付かなかった。
でも今ならわかる。あの時すでに舞にハマっていたんだと。
現に今、舞にするように、相手を理解して手を差し伸べてしまうような奴はいないし、そう気持ちにもならない。
まず俺が自分をさらけ出すこと自体、本当はありえない。
つまり、俺は舞にしかそういう気持ちにはならなかったんだ。
だから舞という人間は俺にとって貴重な存在で、かけがえのない存在だった。
あの時、そんなことにも気付かず、舞を傷つけて、そして失った。
我ながらどうしようもない阿呆だな・・・
今、目の前にいる女性はそんな俺をどう見てるのだろう・・・
しばらくの沈黙が流れた。
ふとこの前、疑問に思ったことを思い出した。
「なぁ、舞。おまえ卒業してからどうしてたんだ?」
「え?」
「だって、就職先って彼氏と同じ遠方に決まったって聞いてたのに。実際は彼氏の存在なんてなかっただろ?」
「あぁ、そっか。そう言えば楓には話してなかったんだよね。私、海外に行ってたの」
「は?海外?」
「そ、留学ってほどでもないんだけど、社会勉強がてらに」
「それっていつ決まった?」
「それは・・・楓に告白した次の日・・・かな」
「なんだそれ・・・じゃあ、就職が決まったって言ったのも嘘か?」
「嘘ではないよ。嘘なのは彼氏の部分だけ」
「じゃあ、就職をあの後、蹴ったってことか?」
「う~ん、そうなるかなぁ」
それを聞いた瞬間、俺はひどいショックを受けた。
俺の軽率な態度が、舞の人生を大きく変えてしまったと実感したから。
なおさら・・・今頃になっておまえが好きだなんて言えね~・・・
「あ、でもね後悔はしてないよ!」
彼女は俺の気持ちを察したのか、慌てて言葉を続けた。
「そりゃ、楓に振られたのはショックだったけど。でもね、その前から考えてたことだから。日本を離れてみたいっていうのは前々からあって、でも楓を好きになって離れたくないって気持ちもあった。曖昧な自分に決着をつけたくて・・・。だから楓にはっきり言われて決心がついたの。海外に行こう!って」
「いつ戻ってきたんだ?」
「実は最近。というか、あの飲み会の数週間前。戻ってきてからちょっとバタバタしてて。落ち着いた頃、奈緒と『飲みに行きたいね』って話したら、じゃあ皆を集めよう!ってことになって・・・であの飲み会に至る」
「それであんなに急な日程だったわけだ・・・」
「そうそう。私もびっくり。でも、そのおかげで楓と再会できた」
舞は俺を嬉しそうに見つめていた。
飲み会で会った時、俺もびっくりした・・・舞がいるとは思わなかったし。
目が合った瞬間、止まってたもんな、俺。
実際、告白されて以来初めてまともに顔を見た瞬間であり、いろんな感情が混ざっててわけわかんなかった状態だった。
よく考えたら、舞ってすげ~よな~。
『嫌いだ』って言われた相手と普通にしゃべってるんだから。
しかも今、寝室に二人きりでいるし・・・。
これってどうなんだ?
俺的には・・・嫌い所か、逆に好き過ぎて・・・この密室では会話してる分、気が紛れて理性は保たれてて・・・
でも舞は・・・どうなんだろう
『嫌い』って言われたのに・・・俺のこと嫌いになってないのか?
でも今、会話してるのも事実で・・・。
あぁ~、わけわかんね!
いや、それ以前に舞は彼氏もちだ・・・何期待してんだ俺・・・・
思いっきり頭を抱え、塞ぎ込んだ。
「どうしたの?頭が痛いの?」
「あ、いや。ちょっと考え事」
慌てて顔を上げると、目の前わずか数10センチのところに舞の顔があった。
舞はちょうどベッドから上半身を起こして、心配そうな顔で俺を見ていた・・・ようだ。
「うわ!なんで・・・」
思わず、叫びながらおもいきり後ずさった。
「うわ!って何よ?しかもなんでそんなに離れてるのよ~。いきなり頭を抱えながら俯かれたら、いくらなんでも気になるじゃない!」
「あぁ・・・悪い。」
そりゃ、おどろくさ・・・
あの距離はヤバイだろ・・・
もう少し近かったら・・・してたな、キス・・・
背中は冷や汗でしっとりとシャツが湿っている。
舞は布団に潜り、目線だけをこちらに向けて思いっきり睨んでいる。
「悪かったって!悪気はなかったんだから、機嫌直せよ」
両手を合わせて舞を伺うと、舞は睨んでいた視線を元の状態に戻した。
さっき後ろに下がった分また元の位置まで戻ると、舞は布団で顔半分を隠し、視線を下げた。
どことなく重い雰囲気を背負って・・・。
舞と昔の話や、今の仕事の話、最近のハマり事など何気ない会話をしているうちに、舞の目がとろんとしてきていた。
「おい、舞。眠いんだろ?布団で寝ろよ。ここで寝たら風邪引くぞ!」
「ん~、大丈夫だよ」
「いや明らかに大丈夫じゃなさそうなんだけど?」
「でも意識は・・・あるから」
舞は、目を押さえながら必死に目を覚まそうと頑張っている。
「舞・・・無理するな」
「だって楓は、ど~するの?私が寝ちゃったら・・・」
「俺はココで飲んどくから。今さら俺に気を使うなよ」
「わかった・・・けど実は・・・すでに立てなかったり?」
「は?」
「ははは・・・飲みすぎ?フラフラなんだよね・・・だからココで雑魚寝。楓も眠くなったら寝ていいよ。暖房も入れてあるし、風邪は引かないと思うんだ」
「そんなになるまでホントに飲むなよ~。」
立てないってそんなに飲んだのか?
ふと気が付けば、二人の周りには買ってきた酒の残骸があり、明らかにかなりの量を飲んでいることは間違いなかった。
コレだけ飲めばそりゃ立てなくもなるか・・・
さすがにそれだけ飲ませたのは自分だとわかっている。
ソファから立ち上がり、舞の脇の下と膝の下に手を入れる
「え?何?ちょっと!!・・楓?」
「いいから。寝室まで運んでやるから大人しくしてろ・・・トイレとか大丈夫か?」
「あ・・・と。うん・・・あ、やっぱり行く・・・ごめんね、迷惑かけちゃって・・・」
「それ・・・いまさらなんだけど?」
ニヤリと笑って舞を見下ろす。
トイレの前まで行き、舞にドアを開けさせ、中へ押し込んだ
「さすがに中までは手伝えないぞ・・・」
「わかってます!!もう!変態!!」
舞は、そう言ってバタン!っとドアを閉めた。
彼女がトイレに行っている間、ソファの周りの残骸を片付けていると、トイレの方でガタガタッドン!という音が聞こえてきた。
気になるが、さすがに開けることは出来ないし。
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「舞?・・・大丈夫か?」
トイレに向かって声をかけた。
少しして中から、小さい声が聞こえた
「なんとか」
ほっとして、グラスをキッチンへ運び、片付けも終わる頃、ゴトっという音と共にトイレのドアが開いた。
ようやく出てきた・・・とトイレの方を振り向くと、舞が這いながらトイレからゆっくり出てきた。
慌てて舞に近づき、舞を抱え上げる。
「お、おい。大丈夫か?」
舞の体はすでに力が入らないのか、楓に体全体を預けていた。
「トイレで頑張って立とうとしたら無理だった。はは、さっきそれで倒れちゃって・・・大きな音したでしょ?」
「あぁ、かなりの音だったな。あんまりむちゃするなよ。怪我するだろ?」
「うん。ちょっと反省」
視線を下げ、声のトーンもなんとなく下がっていた。
寝室のドアを舞に開けさせ、ベッドの端に座らせ、掛布団を捲り、舞をもう一度抱き上げ布団へ寝かせた。
「ありがとう、楓」
そう言ってベッドから見上げられ、お酒で潤った目のまま上目遣いで謝ってきた。
そんな目で俺を見るなよ・・・
身体がじんわりと熱くなるのがわかる。
「好きなだけ寝てろ」
そう言って寝室を出ようと方向を変えた。
「あ、待って」
舞が慌てたように早口で声をかけてきた。
「楓、迷惑ついでにもう一個お願いしてもいい?」
「何?」
もう一度舞の傍によると、舞は申し訳なさそうに手を合わせていた。
「たぶん私、すぐに眠っちゃうと思うんだけど・・・それまでココで一緒に話してくれないかな・・・」
ココって寝室だぜ・・・
蛇の生殺し状態かよ・・・俺。
「すぐに寝るんなら話すことないんじゃないか?」
「う・・・でもちょっとでも話したい、駄目?」
そう言われると・・・断れないよなぁ・・・
俺ってつくづく舞に弱いよなぁ・・・
「わーかったよ!」
そう言って枕もとに肩肘をつき、床にどかっと腰掛けた。
それを見て舞はくすっと笑った。
「なんだよ・・・」
「いや、楓って本当に優しいなぁと思って」
「あ、そう。」
「ねぇ、楓は彼女いないの?」
「ぁあ?なんだいきなり」
「だってさ、こうやって誰にでも優しいのは素晴らしいとは思うけど、逆に彼女とかは嫌だろうなぁと思って。ほら、自分以外にも優しいわけじゃない?心配になると思うなぁ」
「別に誰にでも優しいわけじゃないし、それ以前に俺はそんなに優しいとは思わないけど?まぁ、知り合いが困ってたら助けてしまうだろうけどな。でもそれって優しいとかじゃなくて普通のことだろ。ま、彼女なんていないし、気にすることでもないがな」
言った後に、気が付いた・・・
誰にでも優しいわけじゃないって・・・これって遠回しに告ってねぇか?
飲んで思考が鈍っていたのか、考えるよりも先に言葉を発してる今の自分が居る。
気付かれたか?と冷や冷やしながら、ちらっと舞を見ると、天井を見つめていた。
その顔はなんだか悲しそうだった。
なんで?
「楓・・・ってさぁ。やっぱり変わってない」
「ん?」
「大学の時と全然変わってない・・・」
そう言って、舞は目を瞑った。
「私、ずっと楓と一緒にいたじゃない?いろんな楓を見てきて、その中で楓のいい所いっぱい見てきた。私に対する何気ない優しさも充分伝わってきたし。その優しさを、私は勘違いしたの。私のこと好きなのかな?って。だから優しくしてくれるんじゃないか?って。もちろん皆にも優しかったけど、私に一番優しい気がしてて。でも考えてみたら、私と楓って一緒にいる時間が長かったから優しくしてくれる回数というか、そう思えることも増えるのは当たり前なわけで・・・。でもあの時はそんなに冷静じゃなかったみたい。まぁ、要するに楓の優しさは罪作り!で、そういうのがまだ治ってないってとこが変わらないなぁと思ったの」
ふふっと笑って、舞は腕を額に乗せた。
「なんだ、冷たくして欲しいのか?だったら最初から言えよ。遠慮なく、極悪人のような態度取ってやるから」
「え~、それもやだな」
舞は眉を寄せながら頬を軽く膨らませた。
冗談を言いながらもなんだか居た堪れなくなって、気を紛らわせたくなった。
「舞、ココでタバコ吸ってもいいか?」
「あ、うん。いいよ。」
「ちょっと灰皿、持ってくる」
そう言って立ち上がり、リビングのテーブルへ取りに行った。
タバコに火をつけ、思いっきり一吸いして、舞の元へ戻った。
「わりぃな、寝てるところで吸って」
「ううん。大丈夫だよ」
そう言って微笑む舞は、とても可愛い。
タバコを吸いながら天井を見つつ、俺は大学の頃を思い出していた。
おそらく・・・舞の言っていることは本当だろう・・・
舞とは本当になんでも言い合って、笑い合って、助け合って。
だから自分も自然と全てをさらけ出せた。
舞も全てをさらけ出してくれた。
だから舞の弱い部分とか、困った瞬間とか誰よりも判ってやれた。そして手を差し伸べてやれた。
長く一緒に居れば、自然とそういった場面も多くなる。
でも、それだけじゃない。
その時は無意識だったし、慣れというのもあって気付かなかった。
でも今ならわかる。あの時すでに舞にハマっていたんだと。
現に今、舞にするように、相手を理解して手を差し伸べてしまうような奴はいないし、そう気持ちにもならない。
まず俺が自分をさらけ出すこと自体、本当はありえない。
つまり、俺は舞にしかそういう気持ちにはならなかったんだ。
だから舞という人間は俺にとって貴重な存在で、かけがえのない存在だった。
あの時、そんなことにも気付かず、舞を傷つけて、そして失った。
我ながらどうしようもない阿呆だな・・・
今、目の前にいる女性はそんな俺をどう見てるのだろう・・・
しばらくの沈黙が流れた。
ふとこの前、疑問に思ったことを思い出した。
「なぁ、舞。おまえ卒業してからどうしてたんだ?」
「え?」
「だって、就職先って彼氏と同じ遠方に決まったって聞いてたのに。実際は彼氏の存在なんてなかっただろ?」
「あぁ、そっか。そう言えば楓には話してなかったんだよね。私、海外に行ってたの」
「は?海外?」
「そ、留学ってほどでもないんだけど、社会勉強がてらに」
「それっていつ決まった?」
「それは・・・楓に告白した次の日・・・かな」
「なんだそれ・・・じゃあ、就職が決まったって言ったのも嘘か?」
「嘘ではないよ。嘘なのは彼氏の部分だけ」
「じゃあ、就職をあの後、蹴ったってことか?」
「う~ん、そうなるかなぁ」
それを聞いた瞬間、俺はひどいショックを受けた。
俺の軽率な態度が、舞の人生を大きく変えてしまったと実感したから。
なおさら・・・今頃になっておまえが好きだなんて言えね~・・・
「あ、でもね後悔はしてないよ!」
彼女は俺の気持ちを察したのか、慌てて言葉を続けた。
「そりゃ、楓に振られたのはショックだったけど。でもね、その前から考えてたことだから。日本を離れてみたいっていうのは前々からあって、でも楓を好きになって離れたくないって気持ちもあった。曖昧な自分に決着をつけたくて・・・。だから楓にはっきり言われて決心がついたの。海外に行こう!って」
「いつ戻ってきたんだ?」
「実は最近。というか、あの飲み会の数週間前。戻ってきてからちょっとバタバタしてて。落ち着いた頃、奈緒と『飲みに行きたいね』って話したら、じゃあ皆を集めよう!ってことになって・・・であの飲み会に至る」
「それであんなに急な日程だったわけだ・・・」
「そうそう。私もびっくり。でも、そのおかげで楓と再会できた」
舞は俺を嬉しそうに見つめていた。
飲み会で会った時、俺もびっくりした・・・舞がいるとは思わなかったし。
目が合った瞬間、止まってたもんな、俺。
実際、告白されて以来初めてまともに顔を見た瞬間であり、いろんな感情が混ざっててわけわかんなかった状態だった。
よく考えたら、舞ってすげ~よな~。
『嫌いだ』って言われた相手と普通にしゃべってるんだから。
しかも今、寝室に二人きりでいるし・・・。
これってどうなんだ?
俺的には・・・嫌い所か、逆に好き過ぎて・・・この密室では会話してる分、気が紛れて理性は保たれてて・・・
でも舞は・・・どうなんだろう
『嫌い』って言われたのに・・・俺のこと嫌いになってないのか?
でも今、会話してるのも事実で・・・。
あぁ~、わけわかんね!
いや、それ以前に舞は彼氏もちだ・・・何期待してんだ俺・・・・
思いっきり頭を抱え、塞ぎ込んだ。
「どうしたの?頭が痛いの?」
「あ、いや。ちょっと考え事」
慌てて顔を上げると、目の前わずか数10センチのところに舞の顔があった。
舞はちょうどベッドから上半身を起こして、心配そうな顔で俺を見ていた・・・ようだ。
「うわ!なんで・・・」
思わず、叫びながらおもいきり後ずさった。
「うわ!って何よ?しかもなんでそんなに離れてるのよ~。いきなり頭を抱えながら俯かれたら、いくらなんでも気になるじゃない!」
「あぁ・・・悪い。」
そりゃ、おどろくさ・・・
あの距離はヤバイだろ・・・
もう少し近かったら・・・してたな、キス・・・
背中は冷や汗でしっとりとシャツが湿っている。
舞は布団に潜り、目線だけをこちらに向けて思いっきり睨んでいる。
「悪かったって!悪気はなかったんだから、機嫌直せよ」
両手を合わせて舞を伺うと、舞は睨んでいた視線を元の状態に戻した。
さっき後ろに下がった分また元の位置まで戻ると、舞は布団で顔半分を隠し、視線を下げた。
どことなく重い雰囲気を背負って・・・。
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