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番外編
いろんな気持ち
しおりを挟む「ばか!」
その言葉と同時に私の体が暖かいものに包まれた。
ずっと音信不通状態だった親友との再会は、そんな一コマから始まった。
真紀とは会社を辞めて以来だ。
空との約束とは言え、ずっと連絡を断っていた私とこうして会ってくれただけでも有難いことだと思う。
普通なら、ある日を境に連絡が取れなくなった薄情な人間を簡単に許してくれる人間なんていないだろうから。
「ホントに心配してたんだからね!連絡は一切ないし、携帯だって繋がらないし!」
「ご、ごめん。」
「会社の子にも色々聞いたけど、誰も連絡先とか聞いてないっていうし。みづの家に行ったら引っ越した後で、もぬけの殻。茫然としたわ。」
今まで溜まっていた事をぶちまける様に真紀は次々と言葉を浴びせていく。
「一番は・・・何かあったんじゃないかって思ってすごく恐かった。」
「真紀。」
「あーもう!ホントに生きた心地がしなかったんだから!このバカモノ!」
そう言ってコツンと頭を軽く殴られた。
居た堪れないながらも聞いていた真紀の言葉が胸に突き刺さる。
真紀の気持ちがすごく伝わってきて、どれだけ心配をかけたのかわかったから。
だから自然と涙が溢れるのも当然だと思うの。
「わっ、ちょ、ちょっと!ごめん、みづ。キツすぎた!?」
「う、ううん。違うの。嬉しくて・・・真紀が私を見捨ててなかったことが。」
「~~~ばかっ!見捨てるわけないでしょ~!!!!」
そう怒鳴りながら真紀もまた私と同じ涙を流し始めた。
再会の喜びを分かち合って落ち着いた頃、真紀は改めて私の新居を見渡し、はぁ~と感嘆の声をあげている。
夏の日差しがバルコニーから差し込み、リビングの照明と化している。
家具もあまり増えず・・・というか、ほとんど空の部屋(しかも寝室)で生活しているため、リビングは最低限のものしかない。
だから余計に広く見える。
「それにしてもすごく良い所ね。というか、良すぎよ。一体、何がどうしたらこんな所に住めるのよ。」
「え、えっと・・・」
返答に困り、引き攣りながら笑顔を返す。
何からどう話せばいいのか整理すらついてない状態だし。
第一に、葵のファンである真紀に彼との関係をどう話していいものか。
そんな途方に暮れている私の耳に真紀の声が入ってきた。
「ま、みづに会ってわかったことは、ようやくみづにも春が来たってことか。だってすごく綺麗になってるんだもの。こりゃ男が出来たなってピンときたわ。しかもかなり上玉でしょ、こんな所に住めるくらいだし。」
そう言うと真紀はソファに座っていた私の隣りにしゃがみこんだ。
「さぁ、話してもらいましょうか。その為に今日は呼んだんでしょう?」
満面の笑みでそう促され、もうどうにでもなれ半ば投げやりで、ようやく腹をくくる事にした。
「幼馴染なの。高校卒業以来、会ってなくて。会社を辞めたのも彼の所で色々・・・手伝うためだったの。あまりに忙しくて、昼夜逆転してたりして。連絡できなくて本当にごめん。」
「もうそれはいいよ。それよりも相手の事をもっと聞きたい。何をしてる人?写真はないの?」
「しゃ、写真?」
彼の写真ならきっと私よりも真紀の方が持ってると思う。
私が持ってるのって・・・・・・あれ?そう言えば私・・・・・・持ってない、とか?
「はは・・・持ってない気がする。」
「はぁ?持ってない?!ケータイとかで撮ってたりしないの?」
「う、うん。ほら、私ってあまり携帯を活用する人間じゃなかったでしょ?」
「そりゃそうだけど・・・。」
「それに見たらショックを受けるくらいの人・・・だと思う。」
「え・・・・・あ、ま、まぁ、人は外見じゃないしね。大事なのは中身よね!」
そう言う真紀の表情は明らかに勘違いをしてる。
真逆に受け取らないで…
余計に言い辛くなってしまった。
「で?どんな人?もちろんみづを大事にしてくれてるのよね?」
「うん。すごく大事に・・・というか、過保護?いや、違うな。ほぼ軟禁状態?」
「なにそれ。」
だって空に抱かれた次の日は必ず一日中家の中。
動けないし、動きたくなくなるくらい気力も持っていかれるから。
おかげで今まで何度、仕事を休まざるを得なくなった事か。
しかも空は私の仕事が休みの日は、ほんの少しでも時間が空くと家に戻ってくるし。
そしてスキンシップが始まって、それからはごにょごにょ・・・。
で、結局その日も動けなくなるのよね。
「で、でもねそれも仕方ないの。忙しい人で会う時間も限られてるし、外で会う事も無理だから。唯一ここが彼と会える場所なの。」
「それって・・・。」
「そ、それにすごく優しいの。というか、私に甘くて。仕事もしなくていいよって。さすがにそれは嫌だなって思って仕事はしてるんだけど。生活費も彼が気遣って渡してくるんだけど、額が桁違いでね、」
「ストーップ!」
「真紀?」
急に声を荒げて私の言葉を遮った真紀を不思議に思いながら見ると、彼女はとても恐ろしい顔をしていた。
「ど、どうかした?」
「みづ・・・今すぐそんな男とは別れなさい!そしてここも今すぐ出てくの!いい?わかった?」
「え?え?」
「目を覚まして!あんたは言い様に騙されてるのよ!いいえ、ひょっとしたら何か暗示にかけられてるのかも。早くしなきゃ手遅れになってしまうわ。」
「落ち着いて、真紀。」
「私は十分に落ち着いてるわ!むしろみづがなんでそんなにも冷静なのかがわからない!今の話を聞いたら、誰だって私と同じ反応をするわよ!ショックを受けるくらいの顔で、外で会えない、会う時間も限られてる?おまけに軟禁した上に働くな、金はやるですって?どう考えてもまともな人間じゃないでしょう?!良くて愛人、悪くて・・・ああ、ヤバイ人間よ!みづ、早く出ていく準備するのよ!暫くうちにいていいから!」
そう言って立ち上がり、私の腕を引っ張り出す始末。
「ま、待って。真紀、勘違いしてるんだってば!彼はそういう人じゃなくて!」
「みづこそ勘違いしてるのよ!ほら、急いで!気付かれる前にいなくなるの!」
「だから真紀・・・。」
「みづは黙って支度をする!急いで!」
必死な真紀への説得をしようとするが、話の余地を与えてくれない。
どうしよう・・・
窮地に陥ったその時、
「くくっ、あはははは。」
いきなりの笑い声。
しかも男性のもの。
ま、まさか・・・
ゆっくりとその方向を見ると、予想通りの人物がリビングのドア横でお腹を抱えて笑っていた。
「空・・・。」
なんでいるの?とは訊かない。
なんとなく想像できるから。
だって今日は私、休みの日だし。
「くくっ・・・駄目だ。我慢してたんだけど、無理。」
そう言ってまだ笑っている。
すると、
「みづ・・・私、幻覚を見てるみたい。だって目の前に葵がいるんだもの。しかも思いっきり3Dよ。」
「あ・・・。」
力ない声が隣りから聞こえてきて、真紀の存在とそして現状を理解した。
空も石のように固まった真紀に視線を向け、ようやく笑いを引っ込めた。
そして改めて、
「初めまして。ヤバイ人間の青井 空です。」
そう言ってにこりと微笑みながら握手を求める。
真紀はというと・・・・・・・・まだ固まっていた。
「ま、真紀?大丈夫?」
両肩に手を置いてブンブンと体を揺すってみると、我に返ったらしい真紀がいきなり、
「ほ、ほ・・・ホンモノォォォ?!」
「ちょ、ちょっと!真紀!」
慌てて真紀の口を手で塞ぎ、彼女を黙らせた。
その後、真紀からの質問攻めが延々と続いたのは言うまでもない。
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