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本編
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しおりを挟む俺の弱点は今も昔も変わらない
それに気付いた時、愕然とした
変わったはずなのに
結局、中身は変わっていないということなのか
「おはようございます、三沢さん。」
「おはよう・・・って、顔色悪いわよ?」
マンションの地下に止めてあった三沢さんの車に乗り込むと、彼女は目敏く俺の不調に気付いた。
さすがだよ。
感心しながらも、
「どうってことないよ。ちょっと寝不足なだけだから。」
「だったらいいけど。」
そう言って車を発進させた。
するとすぐに、
「それで?無事に済んだの?例の事。」
やはり三沢さんも気になっていたのか。
そりゃそうだよな。
もう10年以上俺のマネージャーやってくれてるし。
だからこそ、今回の結果を報告することを余計に躊躇う。
信頼している三沢さんを少しだけ裏切るような結果になってしまったから。
けれど隠すべきではない。
あの時、約束したから。
全てを話すと。
だから、
「ごめん、三沢さん。予定が狂った。」
「え?」
「今、俺の部屋にいるんだ、彼女。」
「ちょ、ちょっと!それ、どういう事?!」
僅かに車がブレる。
三沢さんにとっては動揺するほどの事だったみたいだ。
そう思いながら苦笑して言った。
「賭けに勝って負けたってとこ。」
「なによそれ。今すぐ聞きたいところだけど、運転中だし危ないわ。仕事が終わった後にしっかり聞くから覚悟しとくのよ。」
そう言ってそこでは、それ以上の追及はなかった。
演技中はまだいい。
集中してその人物になっているから。
でも合間の休憩中はすぐに彼女を思い出す。
本当は手を出す気なんてなかった。
彼女はあの賭けに乗らずに帰っていくと思ってたから。
でも彼女は戻ってきた。
その瞬間、全てが180度変わってしまったんだ。
決別すると決めた気持ちや行動が全部消え、変わりに信頼したかった彼女に対する怒りや悔しさが身体を蝕んできて。
無意識に彼女を抱き寄せてキスしていた。
唇が離れ、彼女が俺に凭れてきて、ようやく自分と彼女の行動を思い返す理性が戻ってきた。
何をやってんだ、俺は。
騙されないと誓っただろう。
これは罠だ。
その罠にこうもあっさりと引っかかるなんて。
だけど後悔してももう遅い。
今やるべきことはただ一つ。
俺も徹底的にやろう。
そして俺と同じように後悔させてやる。
あの賭けに乗らなければ良かったと。
俺を惑わせなければ良かったと。
けれど予想外の事は起こってしまった。
嬉しくもあり、悔しくもある出来事が。
反応してしまったんだ、俺の身体が。
彼女のストリップショーなんてものを見た瞬間、すぐに。
女性の身体なんて何度も見てきた。
それこそ数え切れないほど。
仕事でも、プライベートでも。
けれど身体が反応するなんて事はなくて。
それなのに美月の身体のライン、ふくらみを見た瞬間、今まで全く死んでいた俺のものは震え、そして下半身が熱くなっていくのを感じた。
その時の感情をなんて言えばいいのだろう。
言葉になんて出来ない。
ただ・・・
なぜ今なんだよ。
皮肉にも程があるだろう?
その苛立ちは全て美月に向けていた。
冷たい言葉、冷たい視線、冷たい態度。
でも最終的には、身体には逆らえず。
彼女が涙を流しても、それでも俺の感情をぶつけて。
彼女を何度もイかせて、何度も意識を飛ばせて。
我慢が出来ず、俺は彼女の中に自分自身を押し込めた。
そしてまた、意識を失った彼女を起こして抱くだけ抱いた。
これまでの辛い日々の分だけ、その全てを彼女へと。
身体の熱がようやく冷めていったのは、朝日が昇る頃。
それでも手は自然と彼女の身体を這い回る。
そんな自分が怖かった。
だからすぐに起き上がって、軋む身体を奮い立たせバスルームへと向かった。
ボロボロにするはずだった。
いや、ボロボロにしたのは確かだ。
けれど、同時に俺の身体が彼女を覚えてしまった。
彼女を抱く快感を。
「ミイラ取りが・・・か。」
シャワーを全身に浴びながら、思わず呟いていた。
身体は正直だ。
どんなに憎んでも、身体は彼女を欲している。
このまま、彼女に溺れてしまいそうになる。
それだけは駄目だ。
ギュッと握りしめた手をドンと壁に押し付けた。
「今すぐ彼女とは手を切るべきよ。」
仕事後、三沢さんに事務所の奥にあるミーティングスペースに連れて来られ、彼女との事を話す事になった。
かなり要約して話したけれど、それだけでもこの反応。
「ねぇ、葵。この業界じゃ、ほんの些細なスキャンダルでも命取りになるのよ。それはあなたが一番よくわかってるでしょ?」
「もちろん。でも今回はもう少し見守っていてくれないかな。きちんと決着をつけたいんだ。彼女とのこれまでの事、そしてこれからの事も。」
「本当に出来るの?なんなら、また私や社長が・・・。」
「それはいい。それに、社長にはまだ話さないでくれるかな。大丈夫、問題が起こるような事はしないから。」
それだけは言える。
もし彼女が金のために近づいたのなら、今は俺の機嫌を損ねない様にするはず。
それに・・・すでに後悔して俺の前から消えてるかもしれないし。
未だにどこかで美月を信じてる自分がいる。
それがあまりにも可笑しくて、悔しくて。
言葉なんてものを一切交わさず、彼女を抱くだけ抱いたんだ。
ただ、さすがにリビングにそのまま放置は出来ず、ベッドまで運んだ。
一応、軽く毛布も掛けて。
優しさなんてその程度で、ほとんどが最悪の扱い。
普通なら、この時点で嫌になるだろう。
以前の美月なら絶対にあの部屋にはもう居ない。
けれど、今の美月はどうだろう。
俺さえも金づるの対象にした事を後悔して、そして帰っていてほしい。
だから鍵を置いて出てきたんだ。
最後のチャンスを与える為に。
けれど。
「お、おかえり。」
その言葉とその人物を見た瞬間、俺の中で儚くも願っていた夢は消え去った。
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