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本編
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しおりを挟む人は変わる。
そして環境も。
この世に変わらないものなんて存在しないのかもしれない。
「じょ、冗談はよしてよ。」
「冗談だと思う?」
大地は私の腕を取り、自分の方へと引き寄せた。
「ちょ、ちょっと!大地には今、アプローチしてる人がいるんでしょ!」
「いるよ。だから?」
「だから・・・って・・・。」
大地の顔がわずか数センチのところにあり、じっと私を見つめている。
それに耐えられなくて視線を逸らし、必死の抵抗を見せた。
が、全くびくともしない。
隙があったのかもしれない。
警戒心を解いていたのは事実だ。
今はそれが悔やまれる。
すると、
「ばーか。」
「へ?」
急に大地が私の腕は放し、額を人差し指で突いてきた。
「くくっ、おもしれー。みーはからかい甲斐があるな。この前もそうだけどな。」
「この前?」
「ああ。空とくっついて幸せオーラを振りまいてんだろうと思ってちょっとフザけてみたら、おまえマジ死にそうな顔するんだもんな。」
「な・・・。」
「あのな、今さらおまえをどうこうしたところで俺にはなんもプラスになんねーし。つーか、むしろマイナスだな。」
「なによ、それ。」
「そのまんまの意味。もしおまえに手を出したら、絶対に空の報復が待ってるだろう?わが弟らしい実に陰湿な仕返しをしてくるのは目に見えてる。」
「・・・・・・しないわよ、空は。」
そんなことをする意味がないもの。
私がどうなろうと空はきっと他人事のようにさらっと流すはずだわ。
「あのさ、この前から気になってたんだけどよ、おまえと空って・・・どうなってんの?」
「大地には関係ないでしょ。」
「まぁ、そうだけどよ。なんつーか・・・・。」
大地は言いながら、部屋を見まわしている。
何が言いたいのか、予想はつく。
それに気付かないふりをして、大地の視線を避けた。
けれど大地は納得しなかったらしく、さらに追及してきて私を追い詰める。
「おまえら一緒に住んでんだろ?なのに、付き合ってないっておまえ言ってたし。おまけにこの部屋、生活感が全くないし。普通さ、キッチンとかにそういうのが出るじゃん。それすらないってどうよ。」
そう思うのも当然だろうな。
本当に最低限のものしか置いてないもの。
いつか出て行く時のことを考えて。
持ちこむものは少ない方が良い。
そう思って増やさずに今までやってきていた。
以前、一人暮らしをしていた時に使用していたものはこの部屋に移る時、段ボールに入れて実家に送った。
また一人暮らしをするときに必要になるだろうから。
「みー?」
「・・・え?」
気が付いたらぼーっとしてて、大地の呼びかけを一瞬、無視するところだった。
「ホント、大丈夫か?なんか空の話になるとおまえ、無口になるな。」
「そう?」
「ああ。」
探るような視線を感じた。
けれど私が何も話さないという拒絶のオーラを出してるのがわかったのか、聞こえてきたのは諦めの溜息だった。
「まぁ、二人の問題だし。俺が口出すことじゃねーけど。なんかあったら、いつでも言えよ。」
「・・・・・・・何よ、急に。大地こそおかしいよ、今日。」
「そうか?」
すごくそう感じた。
本当に目の前にいる男性は大地だろうか。
そう思うくらい、今日はやけに私に気を使っている気がする。
「だってやけに優しいっていうか・・・何か企んでるみたい。」
それを聞いた大地は、一瞬目を見開き、すぐに噴き出した。
「ははっ、なんだそれ。俺ってそこまで信用できねーわけ?」
「当たり前でしょ?過去に何をしたと思ってるのよ。これでも・・・・・・・本当に大地の事、好きだったんだから。そんな女心をあんたはボロボロに傷つけたのよ。おかげであれから人を疑う事を覚えたわ。」
「良かったじゃん。騙されなくて済んだってことだろ?」
「違うわよ!あー、もういい!ほら、用は済んだんでしょ?もう帰ってよ。私は忙しいの。」
「嘘つけ。暇すぎて一人で悶々としてたくせに。」
「はいはい。そう言う事にしとくわ。ほら、帰って。」
急かすように大地の腕を取り、立ち上がらせると玄関まで背中を押した。
大地も特に反抗せずに大人しく、靴を履いている。
「とにかくお金は直接、空に渡すこと。いい?」
「おまえは俺のお袋かよ。」
「なんとでも言って。」
大地は肩をすくめ、ドアノブに手を置いた。
しかし、ふいに私を振り返り、じっと見つめてきて、
「みー。」
「な、なに?」
「・・・・・・・いや、なんでもない。せいぜい空と仲良くな。」
そう言って手を挙げて、ドアの外へと消えていった。
結局、大地は何しに来たの?
お金を渡すだけなら、それこそ空にメールをすればいいだけの話じゃない。
それなのにわざわざここまでやってきて。
でも・・・・・・・
大地は変わった
そう痛感した。
この前会った時とは別人で。
ううん、この前だって大地は私をからかったって言ってたから、たぶんその前から大地は変わったんだと思う。
それを変えたのは、おそらく話に出てた女性だろう。
なんだろう。
ちょっとだけ胸がきゅっとする。
それは好きとかそういう気持ちじゃなくて、たぶん交流がなかったとはいえ幼馴染という関係であった大地がだんだんと知らない人間へと変わってしまう事への寂しさからくるものだと思う。
だって遠い昔に味わった痛みとはかけ離れてるから。
それに今の私の心は…
ふと浮かび上がってきた人物に思わず苦笑した。
こんな時にもすぐに思い出すなんて・・・
リビングへと戻り、気を取り直して先程中断していた部屋の掃除を再開した。
なんだかやる気になってきた。
そう思ってソファを少し動かし掃除機をかけていると、テーブルの下に何か落ちていることに気付く。
あれ?これ・・・・
手に取ってみると、それはジッポーだった。
大地のだ。
さっき煙草を出した時、一緒に手にしていたもの。
どうしようか迷ったが、必要ならばどうせまた来るだろうと思い、そのまま普段使っているバッグの脇のポケットへと入れた。
大地が帰ってからわずか1時間後。
空が帰ってきた。
ドアの開く音が聞こえて、思わず顔が綻ぶ。
しかしそれを無理やり押し込め、空を出迎えようと玄関へ体の向きを変えるのとリビングに入ってきた空と視線が絡むのが同時だった。
空はその瞬間、手にしていた鞄をその場に投げ出した。
そして、
「さっきまで一体何をしてた。」
やけに低い空の声が私に突き刺さった。
「空?」
「答えろ、ここで何をしてたんだよ。」
「掃除・・・してたけど。」
空の怒りが何から来るのかわからず戸惑っていると、空は苛立ちをさらに増し、私に近づいてきた。
「はっ、それで誤魔化したつもり?ここに居ただろ、さっきまで。美月以外にもう一人。」
そう言われて、ようやく何を言いたいのかを理解した。
「あ・・・。」
ふいに零れた声に空の表情が怒りに変わった。
「最初に言ったよな。全てを捨てて俺に尽くせって。美月はその道を自ら選んでここにいる。なのに・・・・・・あっさりとそれを裏切るわけだ。」
言いながら冷淡な笑みを浮かべ、それでも瞳の奥に見える怒りや憎しみに似た感情は消えていない。
空は私の腕を掴み、強い力でそのままソファまで連れて行くとそこに投げ捨てるように私を放った。
そしてそのまま私の上に覆いかぶさり、両手の自由を奪う。
その時、一瞬空の顔が歪んだことに気付き、言葉を投げかけようと口を開けたがその前に空の言葉が降ってきた。
「俺のいない間に何度、大地に抱かれた?」
「何を言ってるの?そんなことしてない!」
「今さらとぼけなくていいよ。いつからだ?大地といつから関係が戻った?」
「も、どってなんか・・・。」
反論しようとすると空は拘束していた私の両手を片手で掴み直すと空いた手で私のブラウスを掴んで言った。
「じゃあ、どうして美月のこの服にたばこの香りが付いてるんだ?説明してみろよ。」
たばこ?
嘘。
だってこの部屋で大地はたばこなんて吸わなかった。
でも、もし大地についていた香りが私に移ったとしたら・・・・あの時だ。
悪ふざけで大地が私に接近してきた時。
それ以外に考えられない。
何もしゃべらない私を空は肯定したと見なして、舌打ちをした。
「まさかこんなにも早く契約違反を犯すとは思ってみなかったよ。さすが美月だな。10年前と言い、今回といいどれだけ俺を馬鹿にすれば気が済むんだよ。」
「ちがう!ちゃんと聞いてよ!私はっ」
「何を聞けって?咄嗟に考えた嘘を最後まで聞けって言うのか?はっ、そんなの時間の無駄だろ。」
「空!」
「はっきり言えよ。男が欲しかったって。男なら誰でもいいんだろ?最近、ずっと俺が抱いてやらなかったから我慢が出来なかったんだよな。それともやっぱり俺じゃ満足させてやれなかったってことか?だから大地に抱いてもらったのか?」
驚愕して何も言えなかった。
空がそんな風に思ってたなんて。
悔しかった。
悲しかった。
だれでもいいはずないじゃない。
この生活を始めたきっかけがそう思われても仕方のない状況だったのは認める。
だけど、どうしてそこに大地の名前を出すの?
もう大地とは何でもないのに。
泣きそう。
でも絶対に泣かない。
それでまた空に冷めた目で見られたらそれこそ惨めだから。
「なんとか言えよ!」
「言っても信じてくれないくせに!」
キッと空を見上げて睨み、思わずそう叫んでいた。
目を逸らしたら負けだ。
それこそ空の言う事が真実だと思われてしまう。
そう思って、気持ちを奮い立たせた。
一瞬、空が驚きの表情を見せたが、それは本当に一瞬で、次の瞬間には元の表情に戻っていた。
「信じられるかよ・・・・・・・この状況で、どう信じろって言うんだよ!俺のいない間にこの部屋に男を入れる事自体、あり得ないだろ?!しかもそれが・・・大地だって?は、なんだそれ。」
「だからそれは・・・。」
「今日だけじゃないよな?大地と会うのは。」
「それは・・・。」
「俺の目を掠めて大地と会ってる時点で、怪しいだろ。」
「それはたまたま・・・。」
「言い訳なんてたくさんなんだよ!」
怒りで高ぶった声でそう放つと、空は空いてる手でいきなりビリっとブラウスを引きちぎり、その中に手を侵入させてきた。
「空!やめて!」
「黙れ!」
空はそう言って私の唇を塞いだ。
荒々しいキスは閉じていた私の唇を無理やり開こうとする。
それでも私は必死に口を閉ざし続けた。
すると空はさらに苛立ちを露にし、いきなり私の唇を噛んだ。
「いっ・・・。」
痛みのあまり、思わず口が開くとその隙に空の舌が入り込んで私の口を犯していく。
口の中は血の味が広がっていく。
それでも空は止めない。
「んんっ!やっ・・・!」
空の攻撃はさらに身体全体に及んでいく。
破かれたブラウスはすぐに身体から取り外され、遠くに投げられた。
さらにその下に身に着けていたブラジャーのホックも外され、難なく胸の上部に追いやられる。
そして乱暴に揉み上げた。
やだ!
こんなの、間違ってるよ!
口さえも拘束された今、何度もそう心で叫んでいた。
けれど、当然それは空に届くはずもなく。
空の動きはさらにエスカレートしていった。
フレアスカートも邪魔だといわんばかりに力だけで取り去られ、ショーツさえも引きちぎるように取り払われた。
そして容易に花弁を指でなぞってきた。
ビクンっ
身体が反応する。
あぁ・・・無理。
到底かなわない。
今までもそうだった。
結局は、空に良い様に弄ばれる。
「さっき大地とやったばかりなのに、まだ物足りないわけ?」
「何を言って・・・」
「もう濡れ始めてる。まだ少ししか触れてないのに。どうしてだろうな、美月。」
「っ・・・。」
嘘だ。
そんなわけない。
そう思ったけれど、身体は気持ちとは別物で。
空に触れられた事に喜びを覚えている。
数週間、その温もりから遠ざかっていた分、こんな状況でも関係なく空を欲しているんだ。
「大地さえも満足できないわけだ。どんだけ淫乱なんだよ、美月。」
見下すような笑みを湛え、空は突起をスッと撫でた。
「っぁ・・・・。」
「その声も大地に聞かせたのか?その表情も、その潤んだ目もっ・・・・くそっ」
悪態をつき、空は濡れ始めたばかりのそこに指を侵入させてきた。
指は執拗に中を弄り、1本から2本へと数を増やす。
「っ・・あ、・・・いやっ・・・あぁっ」
「心にもないことを言うなよ!さっきまでここは別の物を咥えさせたくせに!」
その言葉と同時に空の指はさらに奥まで入り込んでいく。
「やぁ・・!・・・あぁっ!」
太ももには自分のものだとわかる水滴が飛びついてくる。
空の指はこれでもかと肉壁をなぞり、私を追いこんでいく。
ヒクヒクしているのが自分でもわかるほど、すぐにも達しそうだった。
空は勝手知ったる私の身体なだけに、それがわかっているようでフッと指を抜き取り、私を侮辱の眼差しで見下ろした。
「こんなことなら・・・・・・・最初から壊しておけば良かったよ。そうすれば・・・」
「そ・・・ら・・・?」
その呟きを最後に空は、何かにとり憑かれたように表情をなくし、力のみで私を押さえつけると一気に私の中に入り込んできた。
「いやーーーっ!」
どんなに叫んでも、どんなに足掻いても空にそれは届かなくて。
途中からもう拒む力も出なくなって。
ただ涙を流すだけの抵抗で。
そんな私を空は言葉通り壊すまで抱き続けた。
そして最後には、とうとう気を失った。
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