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魔法闘技祭編
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しおりを挟む飛び立ったアイルトンとレオンの背中を単調な攻撃魔法が捉える。
アイルトンは振り向かずに気配だけでその魔法を読み、杖を振って攻撃を退ける。
広報を確認せずともそれが今のいままで戦っていたティマではないとわかる。
アイルトンは自分が言った言葉の通り、対峙したティマの見せたわずかな「隙」をついて飛んだのだ。
ここまで速い反撃を彼女ができないようにあらゆる種類の幻影魔法と普通攻撃魔法で撹乱したつもりだった。
アイルトンはそのまま振り向かず、ただ前だけを見てこの場から去ろうと考えていたが、そういうわけにも行かなかった。
杖を振るだけで簡単に退けられる程度の攻撃魔法だったが、その魔法は留まるところを知らずにアイルトンがどれだけ防ごうともまるで「防がれることが当たり前」とでも考えているかのように執拗に攻撃を続けているのだ。
「ちっ……しつけぇ。ハートフィリア、お前はあの女が作ったこの幻影の結界を抜けるまで絶対に魔法を使うな。教皇連中の狙いはお前を『悪魔』に仕立て上げることだ。下手なことをすれば向こうの都合が良いように民衆に伝わるぞ」
アイルトンのその言葉にレオンは頷いた。
心の中で「本当にやばくなったらどんな状況でも魔法を使う」とレオンは思っていたが、アイルトンはそれすらも見透かしていたのだ。
レオンには何もさせないようにレオンのローブの襟を鷲掴みにし、自分の「飛行」の魔法でほぼ二人分の重量を浮かし敵の猛追を避けながら闘技場の周囲に施された幻影魔法の範囲外に逃げようとする。
その姿は学生時代の面影もない卓越した技術を持つ魔法使いだった。
しかし、正直なところアイルトンに勝算はほとんどない。
元々レオンと戦っていたティマを足止めすればギリギリのところで逃げ切れる算段だった。
それが、未だ姿のわからない第三者からの攻撃によって狂う。
振り向いてその姿だけでも確かめようかと思ったが、その余裕すらない。
攻撃は依然として変わらず、不自然なほどに単調な攻撃魔法のみだったがアイルトンが幻影魔法の範囲外に出ようとするのを阻むように展開されている。
「……まずいな」
アイルトンは呟いた。
単調な攻撃の中に一撃で命を奪うような強い攻撃魔法が混じり始めた。
目眩しで足止めしたティマが復活したのだ。
「アイルトン、僕も戦うよ」
レオンはそう言って杖を構えようとした。
その頭をアイルトンが殴る。
強い痛みではなかったが、言葉はなくともアイルトンが制止したのだとレオンには伝わった。
「任せとけ、バカ。今はまだお前を悪役にするわけにいかねぇんだよ。……少しだけ待ってろ」
アイルトンには秘策があった。
彼の得意とする魔法は「幻影魔法」である。
それは基本的には相手を惑わし、隙を作るための魔法で直接敵な攻撃力はない。
そして、この場において対峙しているティマという魔女はアイルトンよりも優秀な魔法使いだった。
その彼女にはアイルトンの魔法はほとんど通じない。
大抵の幻影魔法は見破られるし、攻撃魔法も簡単に躱される。
一人でも苦戦すると見越して逃げ出したのに、もう一人敵がいる。
その状況でも使えるアイルトンの秘策というのは大したものではなかった。
アイルトンは地面に向かって急降下し、闘技場の少し横に向けて乱雑に魔法を放つ。
放たれた魔法は土煙を捲し立て、レオンとアイルトンはその煙の中に突入した。
その煙はただの目眩し。
ほんの一秒だけでも時間を稼ぎたかったアイルトンの苦肉の策だ。
彼は地面に着地すると杖を空に向けて構えた。
狙いをつける必要はない。
凝った魔法も、高威力の魔法もいらない。
「さぁ、お前の出番を作ってやるよ」
アイルトンはレオンに向けてそう言うと無数の魔法を空に向けて放つのだった。
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