上 下
300 / 304
魔法闘技祭編

472

しおりを挟む

魔法闘技祭。四年に一度行われるこの聖レイテリアの名物的な大会は観客の熱狂と共に終盤に近づいている。

決勝戦。
本戦を勝ち抜いてきた強者達がその頂点を決める。

三回戦を勝ち抜いたレオン、小柄な少女ティマ。そして観客からの一番人気でシード勝ちとなったボーラー国の宮廷魔術師テリー・ミラーの三人が決勝戦へと進んだ。

決勝戦はそれまでの一対一の戦いではなく、三人が同時に舞台の上に上がった三つ巴戦になる。

「本当に戦えるとは思わなかったよ。本当に強いんだね」

舞台の上でニコニコと笑う少女ティマ。
レオンに各選手のことを教えてくれたあの少女だ。

同じく舞台上に立つテリーは手に身の丈ほどもある大きな杖を握っている。

彼は寡黙で、老齢ゆえの佇まいと雰囲気から只者ではないことが伝わる。


観客の歓声が一際大きくなり、決勝戦が始まった。

特別席でそれを見守るのはルイズとシミエール。それから後方で立つマークである。

試合は拮抗した状態だった。

三人とも相手の出方を見極めるために牽制程度の魔法で様子を見ている。

踏み込み過ぎれば、すぐに反撃を喰らうとわかっているのだ。

一対一の戦いよりも三つ巴の戦いは相手の出方と仕掛けるタイミングが重要だった。


ルイズ達の隣に教皇の姿はなくなっている。

決勝戦が始まる直前、彼は

「失礼」

と一声かけてから席を外した。
明らかに「何かを企んでいる」様子だったが、表向きその行動を静止する術をルイズ達は持ち合わせていなかった。

何もできないもどかしさを抱えながらレオンの戦いを見ているだけだ。


「あの中に暗殺者が……でも、心配はいらなさそうね」


ルイズは戦うレオンの背中を見ながらそう言った。
もう大丈夫だと安心したわけではない。
ただ、十中八九は大丈夫だろうと思っていた。

その理由はシミエールにはよくわからなかったが、その後ろで同じくレオンを見守るマークにはよくわかった。

決勝戦に参加した三人のうち、レオンの実力が飛び抜けて高いのだ。

手強さでいえば三回戦目で戦っていた民族衣装のユーランという男の方が上だ、とマークは対戦相手の二人を見て思った。

まず、ティマという少女。
確かに才能は十分で戦いにセンスが光る。

ただ、その幼さ故か攻撃の手段が短調で傍目から見ても随分と戦いやすい相手のようにマークには思えた。

レオンが今まで戦ってきた敵に比べると工夫が少なく、攻撃を読みやすいのだ。

もちろん彼女が手の内を隠している可能性もあったが、レオンとは違ってマーク達は全ての選手の試合を見ていた。

その結果、彼女が決勝戦まで勝ち抜いた理由は高い技術というよりもくじ運に恵まれていたということの方が大きそうだった。

もう一人の対戦者、テリー。
彼に対しては正直万全な状態だったならばレオンにも勝ち目はないかもしれないというのがマークとルイズ二人の共通した見解だった。

歳を重ねるというのはそれだけ経験を重ねるということ。

その経験に基づく彼の戦い方は多角的で読みづらく、魔法の種類も方はな上に防ぐのも難しそうである。

ただ、それは万全な状態だったらの話だ。

テリーが何歳なのかレオンも含めマーク達は誰も知らない。

ただ、六十年も前からこの魔法闘技祭に参加していることからかなりの老齢であることはわかる。

魔法の技術は年齢と共に修練を重ねればその分だけ積み重ねられていくだろう。

しかし、魔力量の方はそうはいかない。

身体機能に起因する魔力量は幼少時の魔法訓練で大きく上昇するが、一定の年齢を超えるとそれ以上は増加しない。

むしろ、歳を重ねれば重ねるほど減少していく。

それは体力と同じようなもので、高齢のテリーには何戦も試合を重ねるほどの体力も魔力も残っていなかったのだ。

一回戦の頃に比べ、明らかに動きが鈍くなり息切れし始めているテリー。

その様子を見る限り、レオンを倒せるほどの余力はなさそうだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

娘の命を救うために生贄として殺されました・・・でも、娘が蔑ろにされたら地獄からでも参上します

古里@電子書籍化『王子に婚約破棄された』
ファンタジー
第11回ネット小説大賞一次選考通過作品。 「愛するアデラの代わりに生贄になってくれ」愛した婚約者の皇太子の口からは思いもしなかった言葉が飛び出してクローディアは絶望の淵に叩き落された。 元々18年前クローディアの義母コニーが祖国ダレル王国に侵攻してきた蛮族を倒すために魔導爆弾の生贄になるのを、クローディアの実の母シャラがその対価に病気のクローディアに高価な薬を与えて命に代えても大切に育てるとの申し出を、信用して自ら生贄となって蛮族を消滅させていたのだ。しかし、その伯爵夫妻には実の娘アデラも生まれてクローディアは肩身の狭い思いで生活していた。唯一の救いは婚約者となった皇太子がクローディアに優しくしてくれたことだった。そんな時に隣国の大国マーマ王国が大軍をもって攻めてきて・・・・ しかし地獄に落とされていたシャラがそのような事を許す訳はなく、「おのれ、コニー!ヘボ国王!もう許さん!」怒り狂ったシャラは・・・ 怒涛の逆襲が始まります!史上最強の「ざまー」が展開。 そして、第二章 幸せに暮らしていたシャラとクローディアを新たな敵が襲います。「娘の幸せを邪魔するやつは許さん❢」 シャラの怒りが爆発して国が次々と制圧されます。 下記の話の1000年前のシャラザール帝国建国記 皇太子に婚約破棄されましたーでもただでは済ませません! https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/129494952 小説家になろう カクヨムでも記載中です

制作スキル持ちのリビングマスター ~異世界覇者への道~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
俺は海城 一二三(カイジョウ ヒフミ) いつも通り、登校したらテセリウスとかいう神が現れてクラス全員を変な空間に閉じ込めてきた 俺たちを全員別世界に行くとかいう話になった。   俺と親友の金田一 一(キンダイチ ハジメ) はこういった話の小説をバイブルにしているのでそれほど困惑はしなかったがハジメが最低レアをひいてしまったんだ。  ハジメは俺と違って体育的なものは苦手、生き残る能力は皆無だろう。仕方なくハジメと条件を交換した。ハジメが生きられるならそれでいいかと軽い気持ちだったんだが。    どうやら、最低レアというのは現状の話でスキルは最高のスキルがついていたようだ。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。