没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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魔法闘技祭編

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ユーランはレオンの魔法を全て防ぐと攻撃の魔法に転じる。

「次はこっちから行かせてもらおう!」

そう言いながらもう一度杖を一回だけ振る。

目に見えるほど濃く練りこまれた彼の魔力が風と炎、それぞれ別々に渦巻いてレオンに向かう。

レオンはその場から高く跳躍した。
バシッという音と共にレオンの体が高く舞い上がる。

身体強化の魔法で跳躍したのではない。
足元に衝撃波の魔法を発動させてその衝撃を利用したのだ。

二回戦で戦ったルッチの魔法をレオンなりに解釈して真似してみたのである。

レオンの思った通り、彼ほど繊細に何度も魔法を発動し高速で移動するのは難しそうだったが、一回で高く飛ぶ分には十分に再現可能だった。

レオンはユーランの魔法を簡単に交わしたように観客達には見えた。

しかし、魔法はまだ終わりではなかった。

空中に飛び上がったレオンのことを追うように風の魔法が曲がったのである。

そこに真っ直ぐに突き進む炎の渦がぶつかって、風が炎を巻き上げる。


「うっ……くっ」


その変則的な魔法の動きにレオンは一瞬避けるのが遅れ、炎が頬をかすめる。


「『混合魔法』の応用そのニ。『掛け合わせる』ってやつだ。魔法で生み出した性質は組み合わせ次第でより多角的に読まれづらい魔法に組み替えることができる」


と、ユーランは得意げだった。
レオンは空中で落下しながら再び擬似「破裂」の魔法で姿勢を変える。

「飛行」の魔法でも良かったが、飛行していると「浮かぶ」「移動する」など順序よく魔法を使わなければならないため、攻撃に使える脳のリソースが奪われてしまう。

普段ならば近接系統の魔法で補っていくが、中・遠距離魔法が豊富なユーラン相手にそれをすると悪手になりそうだとレオンは判断した。

空中で姿勢を変えたレオンはそのまま自由落下。

落ちていくスピードを使って、尚も追ってくる風と火と距離を取る。

そのまま落ちながらレオンは杖をユーランに向けた。

杖先から「水」の魔法が放たれる。
空中で生まれた水は広範囲に拡散してユーランを襲う。

不意を突かれただけではなく、広い範囲でもはや雨のように降りかかるその魔法を避けるのは難しかった。


「なんだこれは? 何の意味がある?」


ユーランは困惑した。
水はユーランの体を濡らしただけ。

水圧で吹き飛ばされるほどのものではなく、体を貫かれるほど高密度の魔力ではない。


「魔法の『掛け合わせ』ね。勉強になったよ」


レオンはそう言って笑うと、今度は杖から「雷」の魔法を放出した。


「ほう……なるほどな」


その魔法を見て、ユーランは何をしようとしているのか理解した。

それなのに避けるような真似はせず素直にレオンの雷の魔法を体で受け止める。

バチバチと凄まじい音を立てながら雷はユーランに当たる。

しかし、彼は倒れなかった。


「少しビリッとしたが……倒れるほどではねぇな」


ユーランはレオンに向かってニヤリと笑う。

レオンは自分の思惑が外れたことに少し困惑した。


「種明かしをしてやるよ。『水』の魔法で俺を濡らし、『雷』で感電させようとしたんただろう? いい発想だ。別に『混合魔法』を使えなくても順番に魔法を発動すれば『掛け合わせ』はできるもんな。あんたは頭がいい。ただ、ちょっとだけ勉強不足だったな」


魔法で生み出される「水」というのは基本的に不純物を一切含んでいない。
レオンもそうだったが、一般的な魔法使いのイメージの中に「水」の中に無数の不純物が混ざっているという発想がないからだ。

レオンは「雨の日に雷が落ちると雨に電気が伝わって広範囲が感電する」という自分の知る現象からこの「掛け合わせ」を思いついたが、大きな間違いがあった。

雨などの不純物を含んでいる水とは違い、純粋な水は電気を通しづらいのだ。

その結果、レオンの思い通りにはならずユーランはほんの少し魔法で防御する程度でレオンの「雷」を防いでしまった。
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