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魔法闘技祭編

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観客達の賭けも終わり、三回戦が始まる。
レオンはシード選手にはならなかった。

一番人気だったのは六十年前からこの大会に参加しているというボーラー国の宮廷魔術師、テリー・ミラーという老齢の魔法使いである。

シード選手となった彼は三回戦を免除されたが、そうではないレオンはまた戦わなくてはならない。

これまで通り、対戦相手が「暗殺者なのかどうか」を見極めるつもりでレオンは舞台へと上がった。


「やれやれ……まさか、話題の英雄様と戦えるとはね。光栄だ」


舞台の反対側に立ち、ペコリと頭を下げる男には見覚えがあった。

鮮やかな民族衣装を着た青年で、名前はユーラン。

イラリアの町で魔法を披露していた男だ。

レオンの記憶では確か「複合魔法」という故郷に伝わる技術を使っていたはずである。

彼はレオンのことは知っているようだったが、ルッチのように「暗殺されそうになっている」ことまでは知らない様子だった。

もちろん、彼が暗殺者であれば自ら正体を明かすような真似はしないだろうからレオンは気を抜かずに杖を構えた。

ユーランも杖を抜き、構える。

司会の合図で両者が一斉に動き出す。

レオンは炎の竜を三体生み出してユーランを襲わせる。

一体一体はそれほど大きくないが、その分密度が高くなるようにイメージし、威力よりも速さを重視した牽制の魔法だった。

より高密度に練り上げた魔力によって炎は高温になっていて、水の魔法を使われようとそう簡単には消せないように工夫してあった。

三体の竜がそれぞれ違う方向からユーランを襲う。

彼は焦った素振りも見せずに右手で杖を一振りした。

左手は腰の裏に回し、凛として立つその姿には余裕すら感じる。

ユーランの前方右側に水の魔法が出現した。

水は渦を巻き、盾のようになる。その盾が一体の竜のいく手を阻み足止めをする。

レオンの思惑通りすぐに竜がかき消されるようなことはなかったが、ユーランの水の魔法もなかなかに魔力が練られていて突破するのに時間がかかっている。

その間に違う方向から二体の竜が襲いかかる。

しかし、今度は彼の左側に大量の砂が舞い、二体の竜を飲み込んでしまう。

砂はユーランの魔法で生み出したというわけではなく、石で作られた舞台を削って砂に変えそれを魔力で操っているようだ。

その証拠にユーランの足元付近の床に穴が空いている。


「今のは……」

レオンはそのユーランの魔法に少し違和感を覚えた。

彼は一度しか杖を振っていないように見えた。
それなのに、別の系統の魔法が同時に発動している。

どんな凄腕の魔法使いだろうと魔法を使えばそれは動作に現れる。

「杖を振る」だとか「指を鳴らす」といった具合に。

全く動かずに魔法を発動するのは不可能なのだ。

レオンは町で見かけたユーランのことを思い出した。

あの時、彼は「複合魔法」というとものを実演してみせていた。

丸い球体の魔力の中に別の魔法が入り込んでいる不思議な魔法だ。


「なるほど、あれも一度に二つの魔法を使ってたことになるのか」


その光景を思い出して少し納得する。
原理はまだわからないが、ユーランの「複合魔法」というのは同時に二つの魔法を掛け合わせているのだ、というのは想像できる。

今目の前で彼がやって見せたのはその応用というか、基礎ともいえるようなもので本来掛け合わせる二つの魔法をあえて別々にして、同時に発動したのだと理解ができた。


魔法には「イメージ」する力が重要なのだ。

それはつまり、魔法を発動する時にはその魔法のことを頭の中で思い浮かべているわけである。

それを同時に二つ発動するのは「違う二つのイメージを同時に頭の中に構築する」ようなものだろう。

ユーランの使っている技術はレオンが一朝一夕で真似できるような代物ではなさそうだった。
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