上 下
294 / 304
不穏な影編

466

しおりを挟む

ルッチを控室まで連れてきたレオンは彼をベンチの上に座らせると自分もその横に腰をかけた。

少し待つとルッチは回復し、ある程度の身体の自由を取り戻した。


「それで……なぜ俺じゃないと思った?」


レオンたちの試合が終わり、すぐに次の試合が始まっている。

三回戦に出場する選手として他の試合も見ておきたいだろうに、ルッチが回復するまでレオンはその場を離れなかった。

その意味を察してルッチの方から話しかける。


「あなたの魔法です。『首を飛ばせるほどの力がある』と言っていた割にあなたの魔法は本気ではないように思えました。それに、あなたが『暗殺者』で僕のことを殺すつもりだったのなら、たとえ勝利を確信するような場面だったとしても自分の能力を明かしたりはしないでしょう」


レオンの答えにルッチは「ほぉ」と感心した。

その実力は先の戦いですでに知るところではあるが、「物事を見抜く観察眼についても大したものを持っているな」と思ったのである。

一般的な魔法使いの多くが、自分の知らない魔法に対してそれを使う人物がどれほど魔力を込めているのか判断するのを苦手としている。

同じ系統の魔法ならば話は別だ。
例えば火を放出する魔法を使える魔法使いがいたとする。

その人物が他人の使う同じような魔法を見た場合、火の大きさから込められている魔力の量を把握し、どれほどの威力を持った魔法なのかを判断するのはさほど難しくない。

これは、魔法を判断する材料として自分がその魔法を使ってきた「経験」があるからだ。

ところが、初めて見る魔法に対してはこの「経験」がないために判断するのが大分難しくなる。

レオンは結局ルッチの「破裂」の魔法を一度として直接喰らわなかった。

それなのに、その威力を正確に推察していたことに感心したのである。


「お前の言う通り、俺は『暗殺者』じゃねぇ。『レオン・ハートフィリア暗殺の計画』は別のルートで偶然耳にしたものさ」


ルッチは観念したのか、あるいは魔法を見抜いたレオンへの褒美のつもりなのか容易くその事実を認める。

彼が「レオンの暗殺計画」について知ったのは大会が始まる少し前。

レオンたちが船でエレオノアールを出航した頃だった。


「聖レイテリアの新興派が他国の貴族を殺すために腕の立つ魔法使いを探している」


最初はそんな程度の噂だった。

ルッチは闇に潜む魔法使いの集団「シジマ」の幹部として元々聖レイテリア神聖国の新興派の動向に目を光らせていた。

新興派はレターネ神を崇めるレイテリア教に独自の解釈を持ち込み、魔法社会に大きな影響を与えようとしている。

たった十数年前に出てきた派閥にも関わらず、その布教の速さは異常だった。

さらには、教えを拡大的に解釈して犯罪紛いのことまで平然とやってのけるので警戒しないわけにはいかなかったのだ。


噂について調べるうちに狙われているのがエレオノアールで悪魔を倒したと噂になっているレオンであることを知った。

さらに、彼が悪魔の存在を認める発言をし一定数の悪魔たちを自国の領地に匿っていることも。


それで合点がいく。
新興派にとって「悪魔」というのはその存在すら否定しなければならないほどの「邪神」と同じ扱いをされる。


その邪神の存在を認めるような真似をした魔法使いがエレオノアールを出て視察にくることになり、慌てて暗殺計画を進めたのであろうことは想像するのも容易だった。


噂の根幹を知るに連れてルッチはレオンに興味を抱いた。

そして、レオンが魔法闘技祭に出場することを知り自分も出ることにしたのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に行ったら才能に満ち溢れていました

みずうし
ファンタジー
銀行に勤めるそこそこ頭はイイところ以外に取り柄のない23歳青山 零 は突如、自称神からの死亡宣言を受けた。そして気がついたら異世界。 異世界ではまるで別人のような体になった零だが、その体には類い稀なる才能が隠されていて....

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

モブ令嬢、奮起する ~婚約破棄されたライバル令嬢は私のパトロンです~

芽生 (メイ)
ファンタジー
これは婚約破棄から始まる異世界青春ストーリー。 ライリー・テイラーが前世の記憶を取り戻したのは8歳のときである。 そのときここが乙女ゲームの中だと知ったのだ。 だが、同時にわかったのは自分がモブであるということ。 そこで手に職をつけて、家を出ようと画策し始める。 16歳になったライリーの前で繰り広げられる断罪シーン。 王太子ルパートにヒロインであるエイミー、 婚約破棄を告げられつつも凛々しく美しいクリスティーナ嬢。 内心ではクリスティーナが間違っていないのを知りつつも モブであるとただ見つめるライリーであったが それからまもなく、学園の中庭で クリスティーナが責められる姿を見て 黙ってはいられず…… モブである貴族令嬢ライリーと 高貴な心を持つ公爵令嬢クリスティーナ 断罪されたそのあとのお話 自分の道を模索する2人の 異世界友情青春ストーリーです。 カクヨムさまにも投稿しています。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。