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不穏な影編
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しおりを挟むルッチを控室まで連れてきたレオンは彼をベンチの上に座らせると自分もその横に腰をかけた。
少し待つとルッチは回復し、ある程度の身体の自由を取り戻した。
「それで……なぜ俺じゃないと思った?」
レオンたちの試合が終わり、すぐに次の試合が始まっている。
三回戦に出場する選手として他の試合も見ておきたいだろうに、ルッチが回復するまでレオンはその場を離れなかった。
その意味を察してルッチの方から話しかける。
「あなたの魔法です。『首を飛ばせるほどの力がある』と言っていた割にあなたの魔法は本気ではないように思えました。それに、あなたが『暗殺者』で僕のことを殺すつもりだったのなら、たとえ勝利を確信するような場面だったとしても自分の能力を明かしたりはしないでしょう」
レオンの答えにルッチは「ほぉ」と感心した。
その実力は先の戦いですでに知るところではあるが、「物事を見抜く観察眼についても大したものを持っているな」と思ったのである。
一般的な魔法使いの多くが、自分の知らない魔法に対してそれを使う人物がどれほど魔力を込めているのか判断するのを苦手としている。
同じ系統の魔法ならば話は別だ。
例えば火を放出する魔法を使える魔法使いがいたとする。
その人物が他人の使う同じような魔法を見た場合、火の大きさから込められている魔力の量を把握し、どれほどの威力を持った魔法なのかを判断するのはさほど難しくない。
これは、魔法を判断する材料として自分がその魔法を使ってきた「経験」があるからだ。
ところが、初めて見る魔法に対してはこの「経験」がないために判断するのが大分難しくなる。
レオンは結局ルッチの「破裂」の魔法を一度として直接喰らわなかった。
それなのに、その威力を正確に推察していたことに感心したのである。
「お前の言う通り、俺は『暗殺者』じゃねぇ。『レオン・ハートフィリア暗殺の計画』は別のルートで偶然耳にしたものさ」
ルッチは観念したのか、あるいは魔法を見抜いたレオンへの褒美のつもりなのか容易くその事実を認める。
彼が「レオンの暗殺計画」について知ったのは大会が始まる少し前。
レオンたちが船でエレオノアールを出航した頃だった。
「聖レイテリアの新興派が他国の貴族を殺すために腕の立つ魔法使いを探している」
最初はそんな程度の噂だった。
ルッチは闇に潜む魔法使いの集団「シジマ」の幹部として元々聖レイテリア神聖国の新興派の動向に目を光らせていた。
新興派はレターネ神を崇めるレイテリア教に独自の解釈を持ち込み、魔法社会に大きな影響を与えようとしている。
たった十数年前に出てきた派閥にも関わらず、その布教の速さは異常だった。
さらには、教えを拡大的に解釈して犯罪紛いのことまで平然とやってのけるので警戒しないわけにはいかなかったのだ。
噂について調べるうちに狙われているのがエレオノアールで悪魔を倒したと噂になっているレオンであることを知った。
さらに、彼が悪魔の存在を認める発言をし一定数の悪魔たちを自国の領地に匿っていることも。
それで合点がいく。
新興派にとって「悪魔」というのはその存在すら否定しなければならないほどの「邪神」と同じ扱いをされる。
その邪神の存在を認めるような真似をした魔法使いがエレオノアールを出て視察にくることになり、慌てて暗殺計画を進めたのであろうことは想像するのも容易だった。
噂の根幹を知るに連れてルッチはレオンに興味を抱いた。
そして、レオンが魔法闘技祭に出場することを知り自分も出ることにしたのである。
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