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不穏な影編
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「重力を操っているのか……」
ロアはレオンの使った魔法の特性をすぐに見抜いた。
彼女の言うとおり、「魔法剣」はロアの剣と打ち合った瞬間にその性質を変化させた。
硬質化していた魔力は剣にまとわりついた瞬間に重力を増す魔法に変わる。
その結果、ロアは自分の剣が重くなったように感じた。
その性質を悟った瞬間にロアが二本の剣をすぐに手放していれば結果は変わっていただろう。
魔剣士とはいえ一人の魔法使い。剣がなくとも魔法で戦う術もある。
しかし彼女は自身の剣を手放すことができなかった。
剣士としての誇りが判断を鈍らせた。
レオンは杖でをロアに向ける。
魔力を瞬時に練り上げてそれを放出する。
レオンの魔力が今度はロアの剣ではなく彼女自身を包み込んだ。
魔力は硬質化する。魔力剣の応用だ。
それによりロアは身体の動きを魔法で制限された状態になる。
「う……く、くそ……」
ロアは逃れようとするが、その大きな隙をレオンが見逃すはずもなく。
流れるような動きで繰り出されるレオンの風の魔法でそのまま場外まで吹き飛ばされてしまった。
「おおっと! ここで決着。ロア選手の高い身体能力を魔法で制限し、レオン選手が勝利!」
司会が声高々にそう宣言し、観客歓声を上げて盛り上がる。
レオンは杖をローブの中にしまい、それから場外に倒れたロアのもとに向かう。
戦いとはいえ、怪我をさせていないか気になったのだ。
この戦いの最中、レオンはロアが「暗殺者」なのかどうか見極めるつもりで動いていた。
その結果、レオンの感覚だけで言えば彼女は「白」である。
ロアは純粋に決闘を楽しんでいる節があった。
暗殺を企んでいるというよりも純粋に勝利を目指しているという印象だった。
「大丈夫ですか?」
レオンが声をかけて右手を差し出すととロアは悔しそうにしながらもその手を握った。レオンは彼女を助け起こす。
「甘いというか……優しい男だな。完敗だったよ」
ロアの目には戦いが始まる前の鋭さはもうない。
勝敗が決まり、闘争心はもう消えているようだ。
その上で彼女はレオンの多彩な魔法と、勝ち筋を見極める目を褒めた。
単純に魔力の差で負けた、というよりも近接戦闘に持ち込み圧倒するという自分の戦い方を逆手に取られた結果だと彼女は理解していた。
それはつまり自分の情報を相手がつかんでいたというこを示していて、単純に事前の準備の段階で後れを取っていたのだ、と彼女を納得させた。
それだけではなく、ロアはレオンが本気を出していなかったことにも直感的に気づいていた。
戦っている最中、ずっとレオンには余裕があった。
ロアがどんなふうに責めても常に冷静に対応した。
その余裕を生み出しているのがレオンの隠している実力なのだろうと推測した。
これはロアにとってはかなり屈辱的なことではあった。
自国では魔剣士として他に類を見ないほどの実力者として知られている。
手の内を隠されるというのはそれだけ侮られているということになり、そんな経験は彼女にはなかった。
しかし、それはレオンに対する怒りというわけではなくどちらかといえばレオンの実力を完全に引き出すに至らなかった自分へのものだった。
「まだまだだな、私は。もっと精進しよう」
そう言ってロアはレオンにもう一度手を差し伸べた。
レオンはその手を握り返し
「機会が合えばまた戦いましょう」
と返す。
この時点で、レオンの中で直感的だった彼女が「白」だという感覚はほぼ確実なものに変わっていた。
勝敗がついた後の二人のやり取りは観客たちも目にしていた。
声は聞こえていなかったが、互いに握手をかわすその姿は観客を大いに沸かせた。
ただ、その中には純粋に「魔法闘技祭」を楽しむことができない者もいたのである。
ロアはレオンの使った魔法の特性をすぐに見抜いた。
彼女の言うとおり、「魔法剣」はロアの剣と打ち合った瞬間にその性質を変化させた。
硬質化していた魔力は剣にまとわりついた瞬間に重力を増す魔法に変わる。
その結果、ロアは自分の剣が重くなったように感じた。
その性質を悟った瞬間にロアが二本の剣をすぐに手放していれば結果は変わっていただろう。
魔剣士とはいえ一人の魔法使い。剣がなくとも魔法で戦う術もある。
しかし彼女は自身の剣を手放すことができなかった。
剣士としての誇りが判断を鈍らせた。
レオンは杖でをロアに向ける。
魔力を瞬時に練り上げてそれを放出する。
レオンの魔力が今度はロアの剣ではなく彼女自身を包み込んだ。
魔力は硬質化する。魔力剣の応用だ。
それによりロアは身体の動きを魔法で制限された状態になる。
「う……く、くそ……」
ロアは逃れようとするが、その大きな隙をレオンが見逃すはずもなく。
流れるような動きで繰り出されるレオンの風の魔法でそのまま場外まで吹き飛ばされてしまった。
「おおっと! ここで決着。ロア選手の高い身体能力を魔法で制限し、レオン選手が勝利!」
司会が声高々にそう宣言し、観客歓声を上げて盛り上がる。
レオンは杖をローブの中にしまい、それから場外に倒れたロアのもとに向かう。
戦いとはいえ、怪我をさせていないか気になったのだ。
この戦いの最中、レオンはロアが「暗殺者」なのかどうか見極めるつもりで動いていた。
その結果、レオンの感覚だけで言えば彼女は「白」である。
ロアは純粋に決闘を楽しんでいる節があった。
暗殺を企んでいるというよりも純粋に勝利を目指しているという印象だった。
「大丈夫ですか?」
レオンが声をかけて右手を差し出すととロアは悔しそうにしながらもその手を握った。レオンは彼女を助け起こす。
「甘いというか……優しい男だな。完敗だったよ」
ロアの目には戦いが始まる前の鋭さはもうない。
勝敗が決まり、闘争心はもう消えているようだ。
その上で彼女はレオンの多彩な魔法と、勝ち筋を見極める目を褒めた。
単純に魔力の差で負けた、というよりも近接戦闘に持ち込み圧倒するという自分の戦い方を逆手に取られた結果だと彼女は理解していた。
それはつまり自分の情報を相手がつかんでいたというこを示していて、単純に事前の準備の段階で後れを取っていたのだ、と彼女を納得させた。
それだけではなく、ロアはレオンが本気を出していなかったことにも直感的に気づいていた。
戦っている最中、ずっとレオンには余裕があった。
ロアがどんなふうに責めても常に冷静に対応した。
その余裕を生み出しているのがレオンの隠している実力なのだろうと推測した。
これはロアにとってはかなり屈辱的なことではあった。
自国では魔剣士として他に類を見ないほどの実力者として知られている。
手の内を隠されるというのはそれだけ侮られているということになり、そんな経験は彼女にはなかった。
しかし、それはレオンに対する怒りというわけではなくどちらかといえばレオンの実力を完全に引き出すに至らなかった自分へのものだった。
「まだまだだな、私は。もっと精進しよう」
そう言ってロアはレオンにもう一度手を差し伸べた。
レオンはその手を握り返し
「機会が合えばまた戦いましょう」
と返す。
この時点で、レオンの中で直感的だった彼女が「白」だという感覚はほぼ確実なものに変わっていた。
勝敗がついた後の二人のやり取りは観客たちも目にしていた。
声は聞こえていなかったが、互いに握手をかわすその姿は観客を大いに沸かせた。
ただ、その中には純粋に「魔法闘技祭」を楽しむことができない者もいたのである。
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