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不穏な影編
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しおりを挟む予選が終わり、町の期待感も高まりつつ本戦の対戦表が選手全員に配られた。
「一試合目は……ロア・ラグナロ。シューエン国の魔剣士ね」
イラリアに用意された宿泊用の屋敷で対戦表に目を通したルイズが対戦相手の名前を読み上げる。
「あー覚えてるぞ。予選で相手を全員峰打ちにしてた二刀流のやつだ」
同じ剣使いというだけあってマークは鮮明に記憶していたらしい。
レオンは明るい色の髪を後ろでひとつ結びにした少女剣士というくらいの印象しか思い出せなかったが、マークがその戦い方を詳細に語る。
「多分あの人俺と似た戦い方をするぜ。魔法を剣と体に纏わせての近接戦闘。遠距離がどの程度やれるのかはわからないけど近づかれたら一度距離を取ってもいいかもな」
マークはそう忠告する。
一応、レオンも近接戦闘が苦手なわけではない。
影の使い魔、テトを呼び出せばその変身能力で強力な武器を作り出し戦うことができる。
ただ、その戦い方は誰かに教わったものではなくレオンの運動能力とエレノアの記憶から呼び起こされた戦闘技法である。
対するロアは同じ魔剣士のマークから見ても相当な使い手。
相手の土俵で勝負するよりも、レオンの魔力量を活かした中遠距離での戦いの方がいいという判断だろう。
「確認だけど、『魔法闘技祭』は本当に勝ちを狙うってことでいいのね?」
ルイズのその言葉にレオンは深く頷いた。
「本戦に出場したら一回戦目で負けてしまえばいい」
そんな提案を最初にしたのはルイズだった。
教皇が率いる新興派の目的は「魔法闘技祭」で事故に見せかけてレオンを殺すこと。
選手に紛れた暗殺者が一回戦に送り込まれる可能性は高いというのがルイズの考えだった。
それをふまえて試合が始まってすぐに降参すれば「事故に見せかけて殺す」という相手の思惑を退けられるのではないか、というのがルイズの提案だった。
しかし、これにレオンとマークは異をとなえる。
「大会に出るからには優勝を狙うに決まってるだろ!」
というマークの勝気な考え方をルイズは無視したかったが、それに出場者のレオンまで賛成しては何も言えない。
もちろん、レオンには「せっかく世界中から魔法使いが集まるのだから戦って勝ちたい」という思いの他にも考えがあった。
「新興派がどうして僕を殺したがっているのか、なぜこのタイミングでこんな強行手段に出たのかはわからないけど、それならいっそ真正面からその策を打ち破った方がいいと思うんだ」
レオンは新興派の思惑にまんまと乗り、暗殺者と対峙し倒すことで向こうに自分たちの強さを示し、手を出しづらくさせらないかと考えていた。
ルイズの言う通りに一回戦が始まってすぐに降参すれば「魔法闘技祭で事故に見せかけて暗殺する」という策を防ぐことはできるだろう。
しかし、それはただの時間稼ぎに過ぎない。
新興派がすぐに他のなんらかの方法でレオンの命を狙ってくることは目に見えている。
それがレオン達にもどうすることもできないような、今回よりも酷い手段だった場合、最悪なす術がなくなることも考えられた。
それならばいっそ、「魔法闘技祭」という手段だけでもわかっているこの状況で迎え討とうとしているのだ。
レオンの実力は十分に知っているが、万が一ということもある。
それを加味するとルイズはまだレオンのこの作戦に難色を示していたが、シミエールがそれを後押しする。
「私にひとつ考えがある。これが成功すれば教皇はレオン君に相当手を出しづらくなるだろう。だが、そのためにはレオン君に『魔法闘技祭』の中で暗殺者が誰なのかを見極めて貰わなければならない」
シミエールはそう言って自分の考えを話し、それによってようやく「魔法闘技祭では優勝を目指し、その中で誰が暗殺者かを見極める」という方針に全員の意見が一致したのである。
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