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不穏な影編
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しおりを挟む言われてみれば、仮面の男の言う通り町のいたるところで魔法使いが魔法を披露しているのが見て取れた。
それがこの町の特色なのだとレオンは勝手に思っていたが、どうやらそういうわけでもないらしい。
「あの……あなたは?」
レオンは目の前の不審な仮面の男に問いかける。
男は陽気に笑う。
「名乗るほどのものじゃないさ。君と同じ……いや、また会おう」
男はそう言うとレオンたちが止める間もなく去っていく。
「出場者か?」
その背中を見ながらマークが首をかしげる。
「わからない。けど相当な実力者なのは間違いないよ」
彼が魔法使いなのかどうかもレオンたちは知らない。しかし気配も感じさせずに突然現れたことといいその実力は相当高いものだと思えた。
彼が「魔法闘技祭」に出場する選手ならば大会はレオンが思っていたよりも激戦になるだろう。
「レオン、いこうぜ」
マークに声をかけられてレオンはハッとした。
いつの間にか二人はもう歩き出していて、随分と前にいた。
大会のことを心配しているうちにぼーっとしていたらしい。
レオンはあわてて二人の後を追いかける。
♢
「あれがレオン・ハートフィリアか。思っていたより小さいな」
町を歩くレオンたちの様子を建物の影に隠れて観察している者たちがいた。
短髪の筋肉質の男がそう言うと、その隣にいた小柄な少女が頷く。
「成人しているとは思えないくらい童顔っすね。正直かわいいっす」
「あほが。顔がいいからって油断すんじゃねえぞ。俺らは失敗するわけにはいかねぇんだぞ」
男にしかられて少女は涙目になる。
それからもう一度建物の影からレオンのことを覗き見て、その姿を目に焼きうつすのだった。
同じ時刻。イラリアの町の貧民街で少し騒ぎがあった。
貧民街といっても聖レイテリアは貧富の差が少ないことで有名な国だ。その首都であるイラリアともなれば他の地区よりも多少治安が悪いというくらいで店の数や人通りなどは大差がない。
騒ぎが起こった時、その場にいた者たちは一瞬何が起こったのか理解できなかった。
「おいおい。よそ者だからってあまく見たらだめだろうがよ。特にこの時期はな」
つばの広い帽子をかぶった男はその手に掴んだ町のチンピラに諭すように言う。
しかし、その言葉がチンピラに届いているかはわからない。チンピラはすでに気を失っていて、体からは焦げ臭いにおいと煙が上がっている。
貧民街の酒場でチンピラにからまれた帽子の男が魔法で撃退したというだけの話なのだが、この町ではその程度の揉め事すら珍しい。
関係のない人たちは目の前で起こった争いに悲鳴を上げて怯え、酒場からはすぐに人がいなくなってしまう。
たった一人の客を除いて皆逃げ出してしまったのだ。
「困ったのう。おかわりを頼みたいのに、店主まで逃げてしまったわい。まったく、この町の人間は情けない」
唯一残っていたのは白髪の老人だけだった。
老人は酒場のカウンターに座っていて、勝手にカウンターから酒をとってグラスにつぎなおす。
帽子の男が老人に興味を惹かれたようにそちらを見た。
「肝が据わってんなじいさん。逃げなかったのかい」
男が問いかけると老人は酒を一息に飲み干して大きく息を吐き出す。
「お前さんの魔法が周りに被害を与えるようなものじゃないのは見ればわかろうて。それに、この老体じゃ逃げるのも難しいからの」
その明らかな老人の「余裕」に男は冷や汗をかく。
帽子を深くかぶり直し、ため息をつく。
「よく言うぜ……まったく。とにかく詫び代だ。とっときな」
男はそう言ってチンピラの懐から財布を取り出すとそれを老人に投げて渡し、貧民街の奥に消えていくのだった。
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