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聖レイテリア神聖国編
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部屋の中にはレオンとシミエール、そしてライナスの三人しかいない。
だからだろうか、レオンにはライナスの口調が前回会った時よりも幾分やわらかいものになった気がしていた。
「さて、早速だがあまり時間は無い。どうぞかけてくれ」
ライナスは二人にそう促し、二人はそれに従って椅子に座った。
話の発端はライナスがエレオノアールを視察し、帰国した後にその報告をしたことから始まる。
元々彼が視察に赴いた理由は「悪魔を語るレオン・ハートフィリアとその人物が統治する土地の実態調査」のためだった。
その報告についてはライナスがしっかりと行っている。
レオン・ハートフィリアの人柄や、クルザナシュという土地について自分で見たものをできる限り報告した。
そこに彼がクルザナシュで受けた感銘の分、主観的な評価が含まれていたがそれは客観的に見て決して悪い印象を与えるようなものではなかった。
しかし、その報告を受けた相手。教皇に限り、話は違ったようだ。
ライナスは初め国に対して虚偽の報告をするつもりでいた。
聖レイテリア教会の実態が「昔からの信仰を遵守する保守派」と「独自の解釈を広めようとする新興派」に別れていることは既に把握していたし、保守派のライナスにとってレオンの行動は支持すべきものだと思えた。
そして新興派はそうは思わないだろうとも予想していたのである。
しかし、虚偽の報告をするという考えはすぐに改めた。
教皇は聖レイテリア神聖国におけるトップである。その権限や有する力の大きさは他国の王に等しい。
当然、独自の情報網を持っていると考えるべきでレオンやクルザナシュに関してライナスの他にも調べる手段を持っているはず。
ここ虚偽の報告をすればそれがバレた時に教皇のライナスに対する心象は完全に悪くなるだろう。
それらを加味した上で今教皇と対立するのは得策ではないと判断したのだ。
その代わりに、ライナスは自分の持っている全ての権力を使って秘密裏に教皇の動向を探ることにした。
教皇がレオン達に対して行動を起こそうとした時にいち早く察知できるように。
その対策が功を奏したのはレオン達が聖レイテリアに視察に来るという話が決まってすぐだった。
他国にいる人間には手が出しづらかったのか、それまでなんの動きも見せなかった教皇が突然暗殺の命令を下したのである。
♢
「つまり、僕を殺したがっているのは教皇何ですね?」
話を聞いたレオンの問いにライナスは頷いた。
「教皇自身、君たちにそのことを隠す意思はあまりないようだ。さっきの式典の様子を見ればわかる」
レオンやシミエールが感じていたことをライナスも感じていた。
「ただ、自国に君たちがやって来て手が出しやすくなった反面、国民の目という制限もできた。表立っての攻撃は控えてくるだろうと予想できる」
「襲撃される可能性は低くなったと考えて良さそうですね。毒物を使った暗殺などでしょうか」
レオンは食事に毒を混ぜられるのではないかと懸念した。旅に際して、その道中の食材は全てイリファが用意した。しかし、流石に聖レイテリア神聖国に到着した後までの量はない。
当然その分の食材はレイテリアで販売されているものを購入するしかなく、教皇であればそれらに毒を盛ることも可能なのではないかと思ったのである。
しかし、それはシミエールによって否定される。
「魔法使いに対して毒殺の線は薄いと思うな。君たちは魔法で危機を感知して毒を事前に避けるだろう? それにレオン君ほどの腕前ならば毒を飲んでしまったとしても魔法で取り除くことは可能だろう。教皇の実力は知らないが、仮にも魔法使いだ。その辺りを考慮すると毒殺を選ぶとは考えづらいね」
その言葉にライナスも頷く。
「私もそう思っている。そして、もしも教皇が何かを仕掛けてくるのならばおそらくこれだろう」
そう言ってライナスは一枚の紙切れを二人の前に差し出した。
だからだろうか、レオンにはライナスの口調が前回会った時よりも幾分やわらかいものになった気がしていた。
「さて、早速だがあまり時間は無い。どうぞかけてくれ」
ライナスは二人にそう促し、二人はそれに従って椅子に座った。
話の発端はライナスがエレオノアールを視察し、帰国した後にその報告をしたことから始まる。
元々彼が視察に赴いた理由は「悪魔を語るレオン・ハートフィリアとその人物が統治する土地の実態調査」のためだった。
その報告についてはライナスがしっかりと行っている。
レオン・ハートフィリアの人柄や、クルザナシュという土地について自分で見たものをできる限り報告した。
そこに彼がクルザナシュで受けた感銘の分、主観的な評価が含まれていたがそれは客観的に見て決して悪い印象を与えるようなものではなかった。
しかし、その報告を受けた相手。教皇に限り、話は違ったようだ。
ライナスは初め国に対して虚偽の報告をするつもりでいた。
聖レイテリア教会の実態が「昔からの信仰を遵守する保守派」と「独自の解釈を広めようとする新興派」に別れていることは既に把握していたし、保守派のライナスにとってレオンの行動は支持すべきものだと思えた。
そして新興派はそうは思わないだろうとも予想していたのである。
しかし、虚偽の報告をするという考えはすぐに改めた。
教皇は聖レイテリア神聖国におけるトップである。その権限や有する力の大きさは他国の王に等しい。
当然、独自の情報網を持っていると考えるべきでレオンやクルザナシュに関してライナスの他にも調べる手段を持っているはず。
ここ虚偽の報告をすればそれがバレた時に教皇のライナスに対する心象は完全に悪くなるだろう。
それらを加味した上で今教皇と対立するのは得策ではないと判断したのだ。
その代わりに、ライナスは自分の持っている全ての権力を使って秘密裏に教皇の動向を探ることにした。
教皇がレオン達に対して行動を起こそうとした時にいち早く察知できるように。
その対策が功を奏したのはレオン達が聖レイテリアに視察に来るという話が決まってすぐだった。
他国にいる人間には手が出しづらかったのか、それまでなんの動きも見せなかった教皇が突然暗殺の命令を下したのである。
♢
「つまり、僕を殺したがっているのは教皇何ですね?」
話を聞いたレオンの問いにライナスは頷いた。
「教皇自身、君たちにそのことを隠す意思はあまりないようだ。さっきの式典の様子を見ればわかる」
レオンやシミエールが感じていたことをライナスも感じていた。
「ただ、自国に君たちがやって来て手が出しやすくなった反面、国民の目という制限もできた。表立っての攻撃は控えてくるだろうと予想できる」
「襲撃される可能性は低くなったと考えて良さそうですね。毒物を使った暗殺などでしょうか」
レオンは食事に毒を混ぜられるのではないかと懸念した。旅に際して、その道中の食材は全てイリファが用意した。しかし、流石に聖レイテリア神聖国に到着した後までの量はない。
当然その分の食材はレイテリアで販売されているものを購入するしかなく、教皇であればそれらに毒を盛ることも可能なのではないかと思ったのである。
しかし、それはシミエールによって否定される。
「魔法使いに対して毒殺の線は薄いと思うな。君たちは魔法で危機を感知して毒を事前に避けるだろう? それにレオン君ほどの腕前ならば毒を飲んでしまったとしても魔法で取り除くことは可能だろう。教皇の実力は知らないが、仮にも魔法使いだ。その辺りを考慮すると毒殺を選ぶとは考えづらいね」
その言葉にライナスも頷く。
「私もそう思っている。そして、もしも教皇が何かを仕掛けてくるのならばおそらくこれだろう」
そう言ってライナスは一枚の紙切れを二人の前に差し出した。
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