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聖レイテリア神聖国編
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しおりを挟む「これは?」
ライラが差し出した杖を受け取りつつマークが問う。
ライラはそれに答えるよりも先に、自らの服の襟元に両手を添えて胸元を曝け出した。
突然のことだったが、レオンとマークは反射的に顔を背けようとした。
しかし、それよりも先に彼女の胸に刻まれた見慣れない紋様が目に入った。
「それは……?」
恐らく魔法が関係しているその紋様に思わずレオンが問いかける。
すると、ライラは恥ずかしがることもなく淡々と説明するのだった。
「魔法紋と言います。魔力で対象を縛り、対で作られる特別性の杖にのみ反応する紋様です」
それは、聖レイテリアでは割と一般的な魔法であった。
胸に刻み込まれた魔法の紋様に、ライラが先程手渡した杖から魔力を送ると胸を焦がすような痛みが紋様の持ち主に伝わるのである。
聖レイテリアではこれを犯罪を犯した者や、奴隷に身を落とした者に刻みその行動を制限するのである。
エレオノアールにも奴隷はいる。
似たような魔法も存在していた。
だからこそ、彼女がその杖を渡した意味をマークは即座に理解した。
「どうぞお試しください」
これから起こることに何の感情も持っていないかのように冷たくライラは言った。
普段のマークであればその誘いに乗ることはなかっただろう。
ただ、今の自分の立場を思えばやらざるを得なかった。
なにしろ心優しいレオンにはそんなことはできないだろうし、ルイズにもさせられない。
護衛隊の隊長を任された自分しか適任はいないのだから。
「……」
マークは唾を飲み込み、覚悟を決めて受け取った杖に魔力を込める。
杖にマークの魔力が浸透し、その魔力はライラの胸元の紋様に流れ込む。
「う……ぐっ……がは」
苦しみ出すライラはその場に跪き、地面に頭を擦りつけて悶える。
その様子はさながら誰かに無理やり頭を押さえつけられて平伏させられているようで、見ていて気分のいいものではない。
彼女の胸元から首にかけて青白い血管が浮き上がり、まるで毒が侵攻するのように魔力が彼女を苦しめている。
マークが杖に魔力を込めたのはほんの一瞬である。
それでも、ライラは数秒間苦しみ続けていた。
「ハァ……ハァ……これで、確証は得られましたか」
苦しみ終えたライラは服装を正しながらマークに問う。
マークは少し青ざめた顔をしていたが
「ああ」
と短く彼女の同行を許可したのである。
その一部始終を見ていたレオンとルイズは何よりもマークのことが心配だった。
突然現れたライラという魔法使い。
彼女が自分たちに敵対するものではないという確証を掴むためにマークは進んで犠牲になってくれたのだ。
レオンやルイズが優しすぎて他者を苦しめる魔法を好まないのと同じように、彼もまた類い稀なる優しさを持ち合わせているのだから。
ライラを苦しめた魔法の感触は渡された杖を通してマークの手にしっかりと残っていた。
今まで感じたことがないほどに不快な感触。
恐らく、マークはその感触を忘れることはできないだろう。
そのことがレオンもルイズも心配だったのだ。
ライラは既に先程のことなどなかったかのように淡々と侵入者の男達を縛り上げている。
「あまり時間がありません。追ってはまだいるはずですので、今夜の野営地は変えた方がいいでしょう。近くに人目につかない場所がありますのでご案内します」
ライラにそう言われてレオン達は深く寝入っていたシミエールを起こし、それから魔法騎士団の団員達に一層の警戒をしてもらいながら移動するのだった。
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