243 / 277
聖レイテリア神聖国編
443
しおりを挟む
車窓を流れる景色を眺めながらレオンはふと昔のことを思い出した。
じっと座っているとどうしてと余計なことを考えてしまうため、意図的に何も考えないようにしてぼーっとしていたのだが、目に入ってくる映像に既視感があったのだ。
レオンがクライオリスに来たのはこれが初めて。
当然その景色を知っているはずもない。
覚えがあったのは馬車の窓から景色を眺める行為そのものだった。
数年前。
レオンがまだ、自分が悪魔によって造られた存在だとは知らずにいた頃。
魔法学院に入学するときに、故郷の町から王都の学院までの道も馬車の中だった。
あの時はどうやって時間を潰したのだったか。
レオンは思いついたように右の掌を上に向けると、そこに魔法を集中させた。
レオンの掌の上で小さい火の塊が人形となってくるくると踊り出す。
火精霊をイメージして作り出した人形だったが、レオンの掌の上で本当に意思を持っているかのように動き出す。
突然目の前で火の人形が踊り始めて、イリファは少し目を見開いた。
レオンは少しでも反応があったことがうれしくて、今度は水と土、それから風と次々に精霊を模した魔法人形を作り出した。
「……すごい」
ポツリと、イリファが呟く。
そしてすぐにハッとしたように口元を両手で押さえる。
思わず漏れてしまった感情を無かったことにしたいのか、イリファは俯いてしまう。
「ありがとう」
レオンはニコリと笑って、今度は自身の影の中から「テト」を呼び出す。
テトはレオンの足元をするりと抜けて、向かいに座るイリファの足元までたどり着くとその細い足に頬擦りをした。
突然黒猫が現れてイリファはさらに驚いたが、すぐにそれがレオンの魔法だと気づく。
「ほら、顔をあげてよイリファ。君は確かに命じられて僕のとこに来たのかもしれないけど、これから共に過ごしていく以上家族みたいな存在になるんだ。僕は、この旅を君にも楽しんで欲しいんだよ」
レオンがそう言っている間、テトはもうすでに我が物顔でイリファの膝の上に陣取ると本物の猫のように気持ちよさそうに丸くなっている。
その背中をそっと撫でながら、イリファは思わずふふっと笑った。
「レオン様はすごいですね。魔法に疎い私でもこれがどれだけ高等な技術なのかわかります。それなのに、決して横柄な態度は取らず平民である私にもそんな優しい言葉をかけてくださる。貴方は、尊敬に値すべき人です」
イリファはそう言うとテトを優しく抱え上げてそっと足元に下ろす。
テトは一瞬残念そうにした後で、すぐに諦めたのかレオンの足元に戻りその場で大きく伸びをした。
イリファの代わりにレオンがテトを拾い上げて膝の上に乗せ、その頭を優しく撫でる。
「猫は嫌い?」
レオンが尋ねるとイリファは首を横に振った。
「いいえ、動物は好きです。魔法で造られた存在とはいえ、その黒猫はとても愛らしく見えます」
イリファはそう言ったが、その後で
「ただ、主人の猫であれば話は別です。使用人である私にとってその黒猫は主人と同等か、それに近い存在ですから。滅多に触れることは許されません」
イリファはやはり使用人としての立場を崩す気はないようだった。
ただ、この時イリファの見せた堅い表情はレオンにはどことなく造られたもののように見えたのである。
僅かに感情が溢れ出しそうになり、それを必死で隠すかのように懸命に表情を造っている、とでもいうように。
「私にも……こんな力があれば……」
「え?」
イリファがポツリと呟き、レオンが聞き返す。
しかし、顔を上げたイリファはその言葉には反応しなかった。
「レオン様、まもなく本日の野営地に着くようです。シミエール様がいらっしゃいますので粗野な野営は控えたく、お手を煩わせますが魔法のご用意をお願いします」
そう言うイリファはもうすでに普段の冷静沈着な彼女の表情に戻っていた。
じっと座っているとどうしてと余計なことを考えてしまうため、意図的に何も考えないようにしてぼーっとしていたのだが、目に入ってくる映像に既視感があったのだ。
レオンがクライオリスに来たのはこれが初めて。
当然その景色を知っているはずもない。
覚えがあったのは馬車の窓から景色を眺める行為そのものだった。
数年前。
レオンがまだ、自分が悪魔によって造られた存在だとは知らずにいた頃。
魔法学院に入学するときに、故郷の町から王都の学院までの道も馬車の中だった。
あの時はどうやって時間を潰したのだったか。
レオンは思いついたように右の掌を上に向けると、そこに魔法を集中させた。
レオンの掌の上で小さい火の塊が人形となってくるくると踊り出す。
火精霊をイメージして作り出した人形だったが、レオンの掌の上で本当に意思を持っているかのように動き出す。
突然目の前で火の人形が踊り始めて、イリファは少し目を見開いた。
レオンは少しでも反応があったことがうれしくて、今度は水と土、それから風と次々に精霊を模した魔法人形を作り出した。
「……すごい」
ポツリと、イリファが呟く。
そしてすぐにハッとしたように口元を両手で押さえる。
思わず漏れてしまった感情を無かったことにしたいのか、イリファは俯いてしまう。
「ありがとう」
レオンはニコリと笑って、今度は自身の影の中から「テト」を呼び出す。
テトはレオンの足元をするりと抜けて、向かいに座るイリファの足元までたどり着くとその細い足に頬擦りをした。
突然黒猫が現れてイリファはさらに驚いたが、すぐにそれがレオンの魔法だと気づく。
「ほら、顔をあげてよイリファ。君は確かに命じられて僕のとこに来たのかもしれないけど、これから共に過ごしていく以上家族みたいな存在になるんだ。僕は、この旅を君にも楽しんで欲しいんだよ」
レオンがそう言っている間、テトはもうすでに我が物顔でイリファの膝の上に陣取ると本物の猫のように気持ちよさそうに丸くなっている。
その背中をそっと撫でながら、イリファは思わずふふっと笑った。
「レオン様はすごいですね。魔法に疎い私でもこれがどれだけ高等な技術なのかわかります。それなのに、決して横柄な態度は取らず平民である私にもそんな優しい言葉をかけてくださる。貴方は、尊敬に値すべき人です」
イリファはそう言うとテトを優しく抱え上げてそっと足元に下ろす。
テトは一瞬残念そうにした後で、すぐに諦めたのかレオンの足元に戻りその場で大きく伸びをした。
イリファの代わりにレオンがテトを拾い上げて膝の上に乗せ、その頭を優しく撫でる。
「猫は嫌い?」
レオンが尋ねるとイリファは首を横に振った。
「いいえ、動物は好きです。魔法で造られた存在とはいえ、その黒猫はとても愛らしく見えます」
イリファはそう言ったが、その後で
「ただ、主人の猫であれば話は別です。使用人である私にとってその黒猫は主人と同等か、それに近い存在ですから。滅多に触れることは許されません」
イリファはやはり使用人としての立場を崩す気はないようだった。
ただ、この時イリファの見せた堅い表情はレオンにはどことなく造られたもののように見えたのである。
僅かに感情が溢れ出しそうになり、それを必死で隠すかのように懸命に表情を造っている、とでもいうように。
「私にも……こんな力があれば……」
「え?」
イリファがポツリと呟き、レオンが聞き返す。
しかし、顔を上げたイリファはその言葉には反応しなかった。
「レオン様、まもなく本日の野営地に着くようです。シミエール様がいらっしゃいますので粗野な野営は控えたく、お手を煩わせますが魔法のご用意をお願いします」
そう言うイリファはもうすでに普段の冷静沈着な彼女の表情に戻っていた。
92
お気に入りに追加
7,502
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!
小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。
しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。
チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。
研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。
ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。
新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。
しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。
もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。
実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。
結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。
すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。
主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。
没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。
亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。
さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。
南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。
ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。