没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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聖レイテリア神聖国編

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車窓を流れる景色を眺めながらレオンはふと昔のことを思い出した。

じっと座っているとどうしてと余計なことを考えてしまうため、意図的に何も考えないようにしてぼーっとしていたのだが、目に入ってくる映像に既視感があったのだ。

レオンがクライオリスに来たのはこれが初めて。
当然その景色を知っているはずもない。

覚えがあったのは馬車の窓から景色を眺める行為そのものだった。

数年前。
レオンがまだ、自分が悪魔によって造られた存在だとは知らずにいた頃。

魔法学院に入学するときに、故郷の町から王都の学院までの道も馬車の中だった。

あの時はどうやって時間を潰したのだったか。

レオンは思いついたように右の掌を上に向けると、そこに魔法を集中させた。

レオンの掌の上で小さい火の塊が人形となってくるくると踊り出す。

火精霊をイメージして作り出した人形だったが、レオンの掌の上で本当に意思を持っているかのように動き出す。

突然目の前で火の人形が踊り始めて、イリファは少し目を見開いた。

レオンは少しでも反応があったことがうれしくて、今度は水と土、それから風と次々に精霊を模した魔法人形を作り出した。


「……すごい」

ポツリと、イリファが呟く。
そしてすぐにハッとしたように口元を両手で押さえる。

思わず漏れてしまった感情を無かったことにしたいのか、イリファは俯いてしまう。


「ありがとう」

レオンはニコリと笑って、今度は自身の影の中から「テト」を呼び出す。

テトはレオンの足元をするりと抜けて、向かいに座るイリファの足元までたどり着くとその細い足に頬擦りをした。

突然黒猫が現れてイリファはさらに驚いたが、すぐにそれがレオンの魔法だと気づく。

「ほら、顔をあげてよイリファ。君は確かに命じられて僕のとこに来たのかもしれないけど、これから共に過ごしていく以上家族みたいな存在になるんだ。僕は、この旅を君にも楽しんで欲しいんだよ」

レオンがそう言っている間、テトはもうすでに我が物顔でイリファの膝の上に陣取ると本物の猫のように気持ちよさそうに丸くなっている。

その背中をそっと撫でながら、イリファは思わずふふっと笑った。


「レオン様はすごいですね。魔法に疎い私でもこれがどれだけ高等な技術なのかわかります。それなのに、決して横柄な態度は取らず平民である私にもそんな優しい言葉をかけてくださる。貴方は、尊敬に値すべき人です」

イリファはそう言うとテトを優しく抱え上げてそっと足元に下ろす。

テトは一瞬残念そうにした後で、すぐに諦めたのかレオンの足元に戻りその場で大きく伸びをした。

イリファの代わりにレオンがテトを拾い上げて膝の上に乗せ、その頭を優しく撫でる。


「猫は嫌い?」

レオンが尋ねるとイリファは首を横に振った。

「いいえ、動物は好きです。魔法で造られた存在とはいえ、その黒猫はとても愛らしく見えます」

イリファはそう言ったが、その後で


「ただ、主人の猫であれば話は別です。使用人である私にとってその黒猫は主人と同等か、それに近い存在ですから。滅多に触れることは許されません」

イリファはやはり使用人としての立場を崩す気はないようだった。

ただ、この時イリファの見せた堅い表情はレオンにはどことなく造られたもののように見えたのである。

僅かに感情が溢れ出しそうになり、それを必死で隠すかのように懸命に表情を造っている、とでもいうように。


「私にも……こんな力があれば……」

「え?」

イリファがポツリと呟き、レオンが聞き返す。

しかし、顔を上げたイリファはその言葉には反応しなかった。


「レオン様、まもなく本日の野営地に着くようです。シミエール様がいらっしゃいますので粗野な野営は控えたく、お手を煩わせますが魔法のご用意をお願いします」


そう言うイリファはもうすでに普段の冷静沈着な彼女の表情に戻っていた。


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