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聖レイテリア神聖国編
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クライオリスの港町を出立した一行は、そこから馬車の一団をさらに西へと走らせて国境を目指す。
国境を越えればそこはもう聖レイテリア神聖国の国門であるが、そこまでの道のりはおよそ五日とまだ長い。
その理由の一つとして挙げられるのがクライオリス国内の曲がりくねった街道である。
森林を突っ切ったり、山々を越えるわけでもなくそれらの障害物をなるべく避けるために作られた街道は酷くうねり、数キロ進むだけでも相当の時間を要するのだった。
クライオリスは決して貧しい国土の国ではないが、豊かとも言い難い。
その理由の一つがこの複雑な街道である。
何十年も前から存在するこの街道は当時の技術を使って作られたものである。
当時の技術力の限界だったのか、それとも単純な国力の差のせいか、エレオノアールとは違い街道は山や森をなるべく迂回するように作られていた。
港町の活気からも分かる通り漁業の盛んなこの国において交通の便が良くないのは大きな問題であろうとレオンは思うのだが、未だこの街道が改善されないのも国の問題点の一つであるらしい。
「こう揺れると中々読書もできないもんだね」
馬車に揺られながらレオンはポツリと呟いた。
「馬車は揺れるもの」それ自体はレオンもわかっているのだが、お世辞にも丁寧に舗装されているとは言い難い砂利道は進むたびにガタンと大きく揺れる。
不平を漏らしたつもりはなかったが、やることのない道中ゆえに飽きもきていたし、馬車に同乗したイリファは不満と受け取ったらしい。
「レオン様、もうしばらくご辛抱ください。目の前に見える山を迂回すればもう少し道は良くなるはずですので」
と座席に座ったまま頭を下げた。
「あ、うん」
と曖昧な返事をしてからレオンはイリファの言った山を見る。
緑豊かな山だ。それほど大きくはない。
少なくとも、エレオノアールでレオンが領地として任されたクルザナシュに比べれば随分と小さく見える。
いっそのこと自分がこの山を突っ切る道を魔法で敷いてしまおうかと考えてからレオンは首を横に振った。
いけない、と自分を制する。
どうにも最近魔法に頼りすぎている節がある。
悪魔の力を手に入れて、若さに見合わぬ実力を身につけているという自負がある分少し傲慢になってしまっているような気がした。
他国の街道を本気で作り変えてしまおうと思ったわけではないが、その発想が出てくること自体があまり良くないよなとレオンは自分を戒めた。
レオンの乗る馬車は一団のちょうど中央付近。
先頭にはシミエールが、後方にはルイズが乗る馬車がある。
つまり、中央の馬車にはレオンとイリファの二人のみ。
最初のうちはこれを機に少しでも関係を深めようとイリファに話しかけるレオンだったが、イリファはそのどれもに事務的な返事をするばかりで会話は弾まなかった。
諦めて荷物から魔導書を一冊取り出して読み始めたレオンだが、前述の通り揺れが激しくてそれもすぐに断念した。
要は暇なのである。
じっくりと魔法の勉強ができるわけでもなく、領地に富をもたらそうとあくせくと働けるわけでもない。
ただ馬車に揺られながらジッとしているのはレオンの性に合わなかった。
いっそのこと馬車から飛び出して聖レイテリア神聖国まで「飛行」魔法で飛んでいってしまおうか、と馬車の小窓から空を見上げながらレオンは考える。
そしてまた自分が魔法を行使して傲慢な行動をしようと空想していることに気がついて小さくため息をついた。
平民であったかつての自分とは違い、今の自分には貴族としての責任が伴っている。
やることなすこと全てにエレオノアールという国の人間であるという自覚が必要で、それがどうにも窮屈に感じられた。
望んで貴族になったのは間違いない。
ただ、それは自分を拾い育ててくれた両親のためだったはずだ。
その両親を置いて遠い他国に遠征に来ているこの状況をレオンは歯痒く思うのだった。
国境を越えればそこはもう聖レイテリア神聖国の国門であるが、そこまでの道のりはおよそ五日とまだ長い。
その理由の一つとして挙げられるのがクライオリス国内の曲がりくねった街道である。
森林を突っ切ったり、山々を越えるわけでもなくそれらの障害物をなるべく避けるために作られた街道は酷くうねり、数キロ進むだけでも相当の時間を要するのだった。
クライオリスは決して貧しい国土の国ではないが、豊かとも言い難い。
その理由の一つがこの複雑な街道である。
何十年も前から存在するこの街道は当時の技術を使って作られたものである。
当時の技術力の限界だったのか、それとも単純な国力の差のせいか、エレオノアールとは違い街道は山や森をなるべく迂回するように作られていた。
港町の活気からも分かる通り漁業の盛んなこの国において交通の便が良くないのは大きな問題であろうとレオンは思うのだが、未だこの街道が改善されないのも国の問題点の一つであるらしい。
「こう揺れると中々読書もできないもんだね」
馬車に揺られながらレオンはポツリと呟いた。
「馬車は揺れるもの」それ自体はレオンもわかっているのだが、お世辞にも丁寧に舗装されているとは言い難い砂利道は進むたびにガタンと大きく揺れる。
不平を漏らしたつもりはなかったが、やることのない道中ゆえに飽きもきていたし、馬車に同乗したイリファは不満と受け取ったらしい。
「レオン様、もうしばらくご辛抱ください。目の前に見える山を迂回すればもう少し道は良くなるはずですので」
と座席に座ったまま頭を下げた。
「あ、うん」
と曖昧な返事をしてからレオンはイリファの言った山を見る。
緑豊かな山だ。それほど大きくはない。
少なくとも、エレオノアールでレオンが領地として任されたクルザナシュに比べれば随分と小さく見える。
いっそのこと自分がこの山を突っ切る道を魔法で敷いてしまおうかと考えてからレオンは首を横に振った。
いけない、と自分を制する。
どうにも最近魔法に頼りすぎている節がある。
悪魔の力を手に入れて、若さに見合わぬ実力を身につけているという自負がある分少し傲慢になってしまっているような気がした。
他国の街道を本気で作り変えてしまおうと思ったわけではないが、その発想が出てくること自体があまり良くないよなとレオンは自分を戒めた。
レオンの乗る馬車は一団のちょうど中央付近。
先頭にはシミエールが、後方にはルイズが乗る馬車がある。
つまり、中央の馬車にはレオンとイリファの二人のみ。
最初のうちはこれを機に少しでも関係を深めようとイリファに話しかけるレオンだったが、イリファはそのどれもに事務的な返事をするばかりで会話は弾まなかった。
諦めて荷物から魔導書を一冊取り出して読み始めたレオンだが、前述の通り揺れが激しくてそれもすぐに断念した。
要は暇なのである。
じっくりと魔法の勉強ができるわけでもなく、領地に富をもたらそうとあくせくと働けるわけでもない。
ただ馬車に揺られながらジッとしているのはレオンの性に合わなかった。
いっそのこと馬車から飛び出して聖レイテリア神聖国まで「飛行」魔法で飛んでいってしまおうか、と馬車の小窓から空を見上げながらレオンは考える。
そしてまた自分が魔法を行使して傲慢な行動をしようと空想していることに気がついて小さくため息をついた。
平民であったかつての自分とは違い、今の自分には貴族としての責任が伴っている。
やることなすこと全てにエレオノアールという国の人間であるという自覚が必要で、それがどうにも窮屈に感じられた。
望んで貴族になったのは間違いない。
ただ、それは自分を拾い育ててくれた両親のためだったはずだ。
その両親を置いて遠い他国に遠征に来ているこの状況をレオンは歯痒く思うのだった。
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