没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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入国編

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数分後、レオン達を捲し立て箒を振り回した店員の少女は床の上に正座して俯いていた。

その横には盛り上がった筋肉と綺麗に剃り上げた丸い頭を持ちながら不思議とよく似合う地味目のエプロンをつけた屈強そうな男がしかめ面で立っている。

「悪りぃなお客さん。こいつは子供の頃からやんちゃでな、接客の態度も悪けりゃ口も悪い。よく言って聞かせてるんだが……」

呆れ顔でレオン達に謝罪するその男はこの魔法具店の店主であった。

レオン達は店主が店員の少女を叱る様子を見ていてが、それによれば二人は店長と店員という関係だけでなく実の親子でもあるらしい。

少女の頭を店長が叩き

「何してんだこのバカ」

と叱ると少女は涙目で

「父ちゃん……」

と呟いてすぐに大人しくなったのである。

「いえ、まぁ怪我もなかったのでいいんですが……。エレオノアールの人間はこの国では恨まれているのでしょうか」

レオンは店主にそう尋ねた。
これから聖レイテリア神聖国に外交に向かうのにエレオノアールの評判が悪いとなれば重要な問題である。

少女の反応を見るにエレオノアールは相当恨まれているらしい。

レオンにその心当たりはなかったが、その理由は聞いておかなければいけないと思ったのだ。

「いや、そんなことはないんだが……ちょっとな」

と店主はバツが悪そうな顔をする。
何か思うところはあるが、それをエレオノアールの人間に伝えていいものか迷っているといった様子である。

レオンはずいっと自分の身を乗り出すと店主の顔をジッと覗き込んでから

「話してください。どんなことだろうとしっかりと聞きますから」

と頼み込んだ。
店主は少し困ったような顔をした後でレオンの圧に負けたのか小さくため息をつく。

そして、

「別にあんた達に話すような内容でもないんだが」

と前置きをしてからことの次第を説明し出した。

レオン達が訪れたこの港町は聖レイテリア神聖国と陸続きの小国、「クライオリス王国」の端にある。

もちろん聖レイテリア神聖国とは完全なる別国なのだが、このクライオリスの国王は熱心なレイテリア教徒であった。

その信仰心は聖レイテリア神聖国そのものを崇めるまでに達しており、彼の政治によってクライオリスは聖レイテリア神聖国と強く国交を結んでいる。

教育論や魔法技術の発展法などを真似し、魔法具の流通なども頻繁に行われるために実際には聖レイテリア神聖国の属国に近い立ち位置にいるのである。

そして、聖レイテリア神聖国はその魔法使いの多さから魔法具に対しても一際の発展を見せる国。

その余波のためか、クライオリスにも魔法具師や魔法具店は多い。
そして、この港町には他国からの観光客も多く訪れるために聖レイテリア神聖国を含めた国の玄関口として魔法具を特産品のように扱っているのだった。

当然それを作る自国の魔法具師は貴重な存在で、各魔法具店にそれぞれお抱えの魔法具師が数人はいるような状態が何年か続いていた。

しかし、その状態に変化が起こったのである。
それはここ数年で起きた異変である。

新人の魔法具師達が魔法具店からの就職勧誘を断るようになったのである。

優秀な魔法具師には当然それを欲する魔法具店が多く現れる。
それまでも一人の魔法具師を巡って魔法具店同士が勧誘を争うことはあったが、それとはどうも様子が違っていた。

勧誘を断った新人の魔法具師達は他のどこかの店に勤めるわけでもなかったのだ。

そのくせ、何故かやたらと羽振りが良くなっていく。

多くの魔法具店がそれを不思議に思っていたが、あまり深くは考えなかった。

働く気のないものを無理矢理に勧誘しても意味はない。

たまたまそんな年もあるだろうと半ば諦めにも近い気持ちで見過ごしていたのだ。

しかし、そんな年が二年、三年と続くとさすがに不信感を持つようになる。

魔法具店同士が協力して何故新人の魔法具師達が魔法具店に雇用されるのを拒むのかを調べだすと驚きの事実が発覚したのだった。
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