没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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入国編

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数日後、一行を乗せた船がたどり着いたのはイトウェルという名前の港町だった。

エレオノアールの南の港町ザオを旅立ってから初めての町である。

「んーん! さすがに揺れない地面は気持ちいいな」

船を降りてすぐにマークはそう言ってから大きく伸びをした。

長く船に揺られていたために違和感はあったが、それでも地面が動かないという当たり前のことに安堵している。

その姿に「だらしがない」と注意を促すルイズもどこかホッとしたような表情である。

「シミエール様、本日はこの町の宿に一泊して明日は朝から馬車で聖レイテリア神聖国へ向かいます」

レオンは船を降りる前にイリファから受け取った行程表に目を通しながらシミエールに告げる。

そのイリファは船を降りてすぐに船から馬車や荷物を下ろす作業の音頭をとっている。


「ふむ、わかった。それでは早速宿に案内してもらおう」

シミエールにそう言われてレオンは地図を広げた。

そして、少しばかり頭を抱える。

宿の場所はどこだろうか、と。
思えば旅の行程も荷物の準備も全てイリファに任せていた。
正確にはイリファがレオンには何の準備もさせてくれなかってのだが、とにかくレオンは今夜泊まるはずの宿の場所を把握していない。


「えーっと……」

「レオン様」

レオンが首を傾げていると背後からイリファの声がしてレオンはビクッと肩を振るわせる。

振り返ればそこには当然のようにイリファが立っている。

「さっきまであそこで荷運び人に指示を出していたのに、いったいどうして?」

というレオンの問いが口から出る前にイリファは地図の一点を指差す。


「事前に予約した宿はこちらになります。申し訳ありません。荷物の準備にもう少し時間がかかってしまう為、私が同行するのは難しいようです。マーク様と護衛の魔法騎士団の方には事前に道順を説明しておりますので彼らと共にお進みください」


イリファは平然とそう言ってのけるとまた荷運び人の方へと戻っていく。


「ははは、随分と仕事のできる使用人を雇っているようだね」

シミエールはそう言って笑い、イリファの仕事ぶりに感心したようだった。

「レオン、行くぞ」

マークに声をかけられ、レオンとシミエールは魔法騎士団の護衛と共に宿屋まで向かう。

「港町ということもあり、荒くれ者という感じの人が多いわね」

宿に向かうまでの道中、周囲を見ながらルイズが言った。

確かに、すれ違う人達は筋骨隆々で腕っぷしには自慢があるといった感じである。

「はは、全員グラント先生みたいだな」

「……それは、なんだかちょっどだけ嫌な感じだわ」

マークが冗談を言うと、ルイズは魔法学院の恩師であるグラントの姿を想像しながら少し青ざめた顔で言う。

「見たところ、彼らの多くは漁師のようだね。この町には酒場も多いようだ。表通りの治安は悪くなさそうだが、目の届きづらい裏路地に入るのはやめた方がいいだろう」

シミエールが言う。
他国への訪問ということで、レオンは今随分と貴族っぽい格好をしている。
それは当然シミエールも同じで、ルイズも些か高そうな服だった。
マークは魔法騎士団のローブで普段と変わらないが、明らかに余所者という印象を受ける。

護衛の魔法騎士団をぞろぞろと連れていることもあり、すれ違う人達が驚いて振り向くくらいには目立っていた。

イトウェルは活気があって賑やかな町だが、それは表向きの姿だとシミエールは言う。

裏路地に入り、人の目が届きづらい方に行くと治安は一気に悪くなり、盗人や強盗と言った者達もいるらしい。

レオン達の格好はどうみても「金目の物を持っている」と言っているようなものであり、悪人に目をつけられやすい。

それらに対処するのは難しくないだろうが、自分たちはこの国では余所者。

あまり目立つような行動はしない方がいい、とシミエールは言っているのだった。
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