没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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入国編

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「すげぇ! 海だぜ。レオン、ルイズ、見ろよ!」

少年のように目を輝かせながらマークが言う。
船の手すりから身を乗り出して今にも飛び込んでしまいそうな勢いである。

「危ないわよマーク。海なんて別に珍しいものでもないでしょ? あなたの故郷の街からも見えるでしょう」

とルイズはため息混じりにマークを眺めているが、その心は確かにいつもよりも弾んでいた。

表には出さないだけで彼女も少し浮かれているのだ。

一行が乗り込んだ船「リオべロス号」はまだ日の高いうちに南部の港町ザオから出港した。

目的地は聖レイテリア神聖国である。

マークとルイズが浮き足立つのも無理はない。なにしろ二人は生まれてから今日まで国を離れたことがないのだから。

それも大きな船に乗って海を渡るなど考えたこともなかった。

三人の中で唯一アルガンドという他国に足を運んだことのあるレオンでさえその光景には絶句した。

船は瞬く間に街を小さくし、やがて見える景色は水面だけへと変わったがその水面でさえ美しい。

広大でキラキラと輝く海の姿にレオンは自然の大きさを感じていた。


「レオン様、マーク様、ルイズ様。お茶が入りました。」


甲板でお茶の準備をしていたイリファが三人に声をかける。

頼んだわけではないが、三人ともはしゃぎすぎて少し疲れたのか素直にその言葉に従ってテーブルの席についた。


「潮風の中で食べるクッキーってなんだか不思議な味ね」

とルイズはお茶の共に出された菓子をつまみながら呟く。


レオンも一口菓子をつまんでみると、甘さの中にほのかに塩気を感じる気がした。


「美味しい。ありがとう、イリファ」


レオンがそう言うとイリファはお辞儀をして一歩下がる。

そこに一人の男性がやってきた。


「やぁ、諸君。初めての船旅はどうかね」

その男性の登場にレオン達はすぐに席を立とうとした。

「いや、いい。そういう堅苦しいのは苦手でね。いらないよ」


男性はレオン達にそう言い、身振りで席に座り直すようにと伝える。

「しかし、そういうわけには……」


レオンは困惑しつつと食い下がろうとしたが、男性は頑なに譲らなかった。

その様子にレオンはヒースクリフの言葉を思い出す。


「叔父は国政には興味関心のない人でね。僕がいうのもなんだが、世界中で最も王族らしくない王族だと断言できる」


出立が決まる前の最後の会話で確かにヒースクリフはそんなことを言っていた。

その言葉を思い出してからもう一度目の前の男性、先代国王の弟シミエール・デュエンを見ると「なるほど、確かに」と納得できるのだった。

シミエールは淡い臙脂えんじ色のコートを身につけているのだが、そのコートはところどころ擦れて傷んでいた。

見たところ生地自体はとても高級なものを使っているようなのだが、随分と使い古されているのである。

他にも、茶色よりも少し明るい髪の毛は櫛をしばらくいれていないことがわかるくらいにはボサボサで、申し訳程度に整えたヒゲも僅かに剃り残しが見える。

なんの情報もなく人が彼を見れば抱く印象は王族ではなく、旅の商人がいいところだろう。


「いやー、まさかヒースが国王になるとは思わなかった。それも兄上を他国に追放するなんてなぁ」

ハッハッハと気品のかけらもない大きな声でシミエールは笑う。

長い間他国に行っていたとはいえ、王族である彼にとってそれは簡単に笑い飛ばせる話ではないはず。

それなのにシミエールは微塵も気にしていないと言った様子である。

レオンはその豪快さに戸惑いつつも、少しホッとするのだった。

それは、シミエールがヒースクリフのことを「ヒース」と呼んだからである。

レオンとヒースクリフがそうであるように、ヒースクリフとシミエールの間にも確かに絆がある。

たかが呼び方一つ。たったそれだけだったがレオンは確かにそのことを確信できたのである。
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