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消えた盗賊達編
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しおりを挟む聖レイテリア教会はエレオノアールにも支部を持つこの世界で最も大きな組織である。
人々が唯一神として崇める神レターネを信仰し、その教えは主に魔法に基づいて広められている。
それ故なのか噂も絶えず、魔法に関する様々な憶測が人々の間で飛び交っているのも事実であった。
「あの謎の人物が教会の人間だとして、俺たちから探りを入れて簡単に正体を掴ませてくれるものか?」
とマークが尋ねる。
まだ謎の人物が教会の者だと決まったわけではないが、どこの誰であろうと盗賊達を逃した黒幕の正体を聞かれて簡単に答える団体はないだろう。
マークの疑問に同意するようにダレンが頷き、それからルイズも頷いた。
「まぁ、無理だろうね。正面から聞いてもはぐらかされて終わるだけさ。でも、幸い最近になってできたコネがあるじゃないか」
とヒースクリフは揚々と語る。
その仕草は一国の王というよりも友人と楽しく会話を楽しむ一般人のようである。
「コネ?」
マークは検討もつかないといったようにきょとんとするが、それをレオンが補足する。
「聖レイテリア神聖国のライナス副神官様だね」
レオンに言われてマークも思い出したようだ。
ライナスは少し前にクルザナシュを訪れて魔法を利用した文明の発達度合いに感銘を受けた様子を見せた。
そのライナスであれば今回の件を悪いようには扱わないだろうとレオンもヒースクリフも思ったのである。
「いや、あの人副神官だぞ? 今回の件に教会が関わってるなら知らないはずはないだろうけど、いくらなんでも簡単に教えてはくれないだろ」
マークの言葉に答えたのはヒースクリフである。
マークの問いに対してレオンとヒースクリフが順番に回答しているような状態だ。
「そりゃそんなことしないさ。ただ、こっちには向こうの頼みを無理してきいたっていう実績があるからね。今度はこっちの頼みを聞いてもらう番かな」
と笑うヒースクリフはマークの目にはどことなく悪巧みをしているように見えた。
つまるところ、ヒースクリスはエレオノアールに聖レイテリア神聖国の視察団体を受け入れたことを逆手に取り、今度はエレオノアールから視察の団体を送り込もうと考えているのだった。
表向きの目的は「外交とレターネ神へ感謝の意を捧げる式典のため」とするつもりのようだが、その裏で今回クルザナシュに起こったことと教会が繋がっているのかを調べようというつもりのようだ。
「なるほどな、それで誰が行くんだ?」
マークは尋ねるが、内心では自分も行くことになるのだろうなと思っていた。
魔法騎士団に入団している上に、国王であるヒースクリフとも親しい間柄。
他国を調べるというスパイ活動にも似たこの任務の適役はそう多くない。
そしてその思惑通りマークは選ばれた。
それから後二人。
「紅一点でルイズと、それから当然レオンにも行ってもらうからね」
ヒースクリフのその言葉に名指しされた二人は「え?」と声を合わせて驚く。
「ちょっと待ってよ。私ただの田舎の貧乏貴族なのよ? そういった国の重要ごとに出るような身分じゃないわ」
「クルザナシュを置いて他国には行けないよ。襲撃の復興もあるし、それでなくてもクルザナシュは今一番発展が進んでる頃合いなんだから」
と二人は困っているというよりも遠慮しているように行った。
ただ、ヒースクリフは今回クルザナシュが襲われた時にその場にいた「当事者達」であるという理由とそれからもしも何かがあった際に危険なく帰って来れるだけの戦力を有しているという点で既にもう決めてしまっているようだった。
「もちろんそれだけではなくちゃんと僕の血縁の貴族にも行かせるさ。なに、少し行ってさっと調べて帰ってきてくれればいい」
簡単にいう割に有無を言わせぬような笑顔を振り撒くヒースクリフに結局レオン達は何も言えずにいるのであった。
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