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月夜の夜明け編
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しおりを挟む雲に隠れていた月が姿を現し、月明かりが窓から差し込んで二人を照らす。
綺麗な三日月の夜だった。
「アンタの言った通りだった……人の縁ってやつは不思議なもんだ。もう決して見つけることはできないと思っていたアンタとまたこうして再会することができたんだからな」
ベッドの脇に落ちた短剣を拾い、シュレンガーはファナスへと近づいていく。
魔法を使えないという初めての状況。怯えたファナスの目が苦痛に歪みながらシュレンガーを見上げた。
「再会だと? 何を言っている。お前は誰だ!」
お互いの顔がよく見える位置まで来てもまだ、ファナスはシュレンガーのことを思い出せないようだった。
「わからねぇか。無理もない。あれから何年も経った。俺は成長したし、アンタも歳をとったからな……いや、そもそも騙した村のことなんていちいち覚えてねぇのか」
初めて出会った時のシュレンガーはまだ子供だった。
しかし、ファナスを探して旅をしている間に体は大人へと成長している。
ファナスはまだシュレンガーのことを思い出せないようだったが、シュレンガーがここに来た目的は察したようだ。
「はっ、お前……俺が騙したどこかの村の奴か。わざわざ苦労して俺を見つけたってわけだな」
額に汗をかきながら、ファナスは強がったように言う。
内心ではこの状況をマズいと思いつつ、虚勢を張っているのだ。
「なぁ、おい。奪った金なら返すよ。村に持って帰ればいい、それか全部お前のもんにしちまえ。なんなら、他の村で稼いだ分も渡す」
命乞いをするようにそう提案するファナスだが、シュレンガーは聞く耳を持たなかった。
ジリジリとファナスに近づいていき、ナイフを背中から心臓に向けて突き立てる。
「やめろ……やめてくれ……死にたくない、嫌だ」
と魔法を使えなくなったファナスは子供のように泣いていた。
その光景はシュレンガーには酷く滑稽に見える。
もうこんなことは早く終わらせてしまおう。
そう思い、ナイフを突き刺そうとしてシュレンガーはその手を止めた。
思いとどまったわけではない。
どうしても聞きたいことが一つあったのだ。
それは、旅を続ける中で時折考えていたことだった。
「お前、他にも村を騙したと言ったな。その村も俺の故郷のように流行病に苦しんでいたのか?」
シュレンガーが長年考えていた疑問。
いや、考えないようにしてきた疑問でもある。
それは、流行病が起こってからファナスが村に現れるまでのタイミングが完璧だったことだった。
ファナスが村に現れるのがもう少し遅ければ、その前に村人は流行病で死んでいただろう。
ファナスが立ち去った後、感染症と言われていた流行病がピタリと感染しなくなったこともおかしいと思っていた。
さらには、今いる村が苦しめられていたのも流行病だという。
それはあまりにも不自然ではないかとシュレンガーは思ったのだ。
「なぁ、お前なんだろ? 流行病なんてものはなくて……全部お前の仕業なんだろう」
怒りを露わにしつつも決して口を荒げず、震える声でシュレンガーは問い詰める。
ファナスは観念したのか、それとも開き直ったのか。静かに、そして不気味に笑い始めた。
「ああ、そうさ。流行病なんてものはない。全部俺の作った魔法だよ。毒のように体を蝕む魔法さ。進行度は俺のみが操れて、俺がいなければ朽ち果てるのを待つだけ。どうだ、すごいだろう」
最も簡単にファナスは白状した。
そして不敵な笑みを浮かべ
「それでどうする? それを証明することなどできないぞ。 証拠はないし、村人が死んだのは俺が去った後だ。『治せたと思っていた』なんて言い訳はいくらでも通用する。お前達平民の訴えよりも魔法使いの俺の言葉の方を信じるに決まってるからな」
開き直った理由はそれだった。
白状したとしてもシュレンガーには何もできまいとたかを括っているのだ。
「俺を殺すか? 罪のない俺を殺せば、捕まるのはお前のほうだぞ。それも、平民が魔法使いを殺すなんて大事件だ。どこの国でも極刑は免れないだろうな」
ファナスの下卑た笑いがシュレンガーの耳に煩わしく突き刺さる。
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