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月夜の夜明け編
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しおりを挟むシュレンガーとハンク。二人の復讐の旅は、途方もなく、そして当てのない旅であった。
なにしろ、標的のファナスという魔法使いが今どこにいるのか二人には全く当てもないのだから。
国内にいるのか、それとも国外に逃げてしまったのか。
ファナスという名前が本名なのかどうかさえ二人にはわからなかった。
魔法使いでもないただの平民である二人にとって国内を隅々まで探して回るというだけでも大変な苦労である。
それが、国外にまで可能性があったのではもはや探しようがないとも言えた。
唯一の手がかりはファナスがどんな名前で、どんな風に外見を変えていたとしてもまた同じような手口を使って誰かを騙すのがわかっていたことだった。
ファナスと名乗った男が漁村で実行した犯罪の手段は実に鮮やかであった。
まず、王都やその他の主要都市と連絡の取りづらい辺境の小さな村を狙ったこと。
そして、その小さな村を騙すためだけに王都からの書状という信憑性の高いアイテムを用意したこと。
それは偽物ではあったが、一目でバレてしまうような安い造りものではなかったのだ。
さらには、騙し取った金額も小さな漁村からすれば決して安いとは言えない額であったが、国家権力が動くほどの大金というわけでもなかった。
現に、漁村から詐欺被害にあったと連絡を受けた王国側はこの事件をあまり大きいものとして扱わず、「調査する」とお役所的な返答をしただけである。
漁村には貴族も魔法使いも住んでいなかったため、王都の役人達は平民が少々騒いでいるくらいにしか受け止めなかったのである。
辺境の小さな村を狙うというファナスの手口はバレた後もことを大きくしないように考え尽くされた実に巧妙なものだったのだ。
とはいえ、その考えに考え尽くされた手口はファナスの手がかりともなる。
同じように巧妙に考え尽くされた手口が他にもあるとは考えづらく、ファナスは世界中の至る所で同じような条件の村を狙っているのだろうとハンクは考えていた。
ハンクとシュレンガーは残された自分達の財を全て投げうって、馬一頭と荷馬車を一台購入した。
そして、その馬車を使ってまずは国内の村々を渡り歩いたのである。
「最近何か村で困りごとはないか? それを助けようとした魔法使いの話を聞いたことはないか?」
村に着くたびに、ハンクは人の集まる店でそんな風に聞いて回った。
魔法使いが平民を助けるというのはそうよくある話でもない。
ファナスがどこかで悪事を働こうとすれば、それは良い噂となって広まるはずだった。
しかし、国内のどこを探してもファナスの手がかりは掴めなかった。
元いた西の村から、真反対の東の村へ。
そして、北へ南へと旅をしたがファナスの情報は何もつかめなかったのである。
馬車を使った旅は相当に時間がかかった。
ハンクとシュレンガーが国内の辺境のほとんどの村を旅して回って、「この国にはもうファナスはいない」と判断できるようになるまでに、およそ二年と半分の月日が流れていた。
しかし、二人の旅はまだ終わらない。
「ファナスを見つけるまでは諦めない」とシュレンガーの母の墓に誓ったハンクはその誓いの通り、決して諦めようとはしなかった。
二人は船に乗り、国を出たのである。
シュレンガーが十五歳を迎える年の夏のことである。
「よく見ておけ、シュレンガー。次に戻ってくる時は全てを終えて、晴々とした気持ちでこの国を見渡せる」
だんだんと遠ざかっていく故郷の大地を眺めながら、ハンクはシュレンガーにそう言った。
シュレンガーは過ぎ去って行く己の故郷を見つめて、その遥か向こうにある母の墓前に再び心の中で復讐を誓い、国を出たのである。
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