191 / 277
忍び寄る影編
391
しおりを挟むそれは、課外授業三日目の夜が終わり、生徒も教員も街の人たちでさえもはしゃぎ疲れて眠った頃に突然起こった。
自室のベッドの中で休んでいたレオンの耳に最初に聞こえたのは大きな爆発音であった。
「……!?」
その衝撃に目を覚ましたレオンが窓の外を見ると、街の空が赤く染まっていた。
燃えている。
クルザナシュの街が、燃えているのだ。
次に聞こえてきたのは住民達の悲鳴である。
「火事だ! 逃げろ!」
「周りの連中も起こしてくれ! 街が燃えちまう!」
レオンは、衣装掛けにかけてあったローブを手に取ると家の中を飛び出した。
外に出てレオンはますます驚愕する。
日が沈むまではお祭り騒ぎだったクルザナシュではあるが、この喧騒はそれとはまったくの別物だった。
街のあちらこちらから火の手があがり、それに気づいた住人達が街の中心であるレオンの家の方へと走って逃げてくる。
魔法を使えるものは空を飛びながら魔法による消化を試みているところだった。
一体なぜ? という疑問がレオンの中で渦巻く。
街の建物のほとんどが岩を魔法で切り出して作ったものだ。
火の不始末があったとしても、こうも燃え上がるとは考えられない。
それに、火は街の外周の方で燃え広がっているようだった。
それはまるで、住人達を街の中心に集めて街から逃がさないようにしているようにも見える。
「おいレオン、ぼさっとすんな! 襲撃だ!」
そばを通ったマークがレオンに声を荒げる。
マークはそのまま部下達を連れて街の正門の方へと飛んでいく。
襲撃? とレオンは怪訝に思った。
そして、同時に「ありえない」とも。
通常、大きな街には夜間も街を守るための衛兵が配置されており、昼と夜の二体制で街を守っているが、クルザナシュにはその衛兵がいない。
それには当然理由があり、簡単に言えばクルザナシュに衛兵は必要ないからであった。
街にはレオンが自ら施した結界があり、クルザナシュに悪意を持つものの侵入を拒む。
それだけでなく、クルザナシュに住む多くの魔法使い達が防衛の要にもなっていた。
魔法が発動すれば大抵の魔法使いはそれに気づく。
レオンや悪魔達には敵が魔法を発動する準備段階での感知が可能なため、襲撃される前に動くことが可能なのだ。
それなのに、今回は何も感じなかった。
悪意のある者が街に入ったことにも、魔法が発動されたことにもレオンは全く気が付かなかったのである。
そんなことは絶対にあり得ないとレオンは困惑していた。
しかし、すぐに我に帰る。
「僕がしっかりしなきゃ……この街の領主は僕なんだ」
と自分に言い聞かせるように呟く。
襲撃者がどんな方法でレオンにも気づかれずに街に攻撃を仕掛けたのかはわからない。
しかし、事実として街が襲われている以上、住民を守るのがレオンの責務である。
「みんな! 一先ず街の広場へ! 防御魔法をかけます! それから歩けない人には手を貸してあげて、僕は火を止めてくる」
レオンは逃げる住民達に魔法で声を拡張して指示をする。
その言葉で住民達の心に冷静さが戻ったのか、バラバラに逃げ惑っていた人々は互いに声を掛け合って、レオンの指示の通りに街の広場へと向かって行く。
レオンは「飛行」で空高く飛び上がると街の周囲をぐるりと見渡した。
火の手は街を取り囲むように上がっているが、一箇所だけそれが既に鎮火されている場所がある。
魔法学院の生徒達が寝泊まりする宿泊所の方である。
「ルイズか、良かった」
その早さに心当たりがあったレオンはホッとする。
水系統の魔法を得意とするルイズが一足先に宿泊所の周囲の火を消してくれたようだ。
ルイズと他の教員達がついているならば学生達は安全だろうとレオンは判断した。
そして、その反対側。
最も激しくひのてがあがる街の正門の方へ向けてレオンは全速力で飛んでいくのだった。
0
お気に入りに追加
7,502
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!
小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。
しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。
チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。
研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。
ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。
新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。
しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。
もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。
実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。
結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。
すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。
主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。
没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。
亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。
さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。
南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。
ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。