没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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忍び寄る影編

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翌朝、魔法学院の生徒にとってはクルザナシュでの課外授業の最終日である三日目である。

とはいっても今年のこの課外授業は魔法学院が新体制になったことに伴って試験的に行われているものであり、期間も四つの街でおよそ三日間ずつが目安である。

生徒達の体力を考えてもあまり大きなことはできず、レオンが事前に学院に許可をとった授業の内容は昨日の鉱石探索で終わりだった。

そんなわけで、この三日目は朝から生徒達が街に繰り出して街を探検したり、商店で買い物をする、いわゆる「お楽しみ」の時間となっている。


「この本がまさか、そんな古い物だったとはね」


生徒達は全員街にいて見守っているだけなら人数は足りるから、とこの日だけ引率が から解放されたルイズが私物の赤い本を目の前のテーブルに置いて呟く。

場所はレオンの家である。
レオンは夢の中でエレノアとした会話を伝えるためにルイズ、マーク、エイデン、そしてディーレインの四人を自宅に呼んだのである。


「もしかしたら、この本は写本なのかもしれませんね。人間に魔法が伝わった頃に書かれたものにしては綺麗すぎますし」


エイデンがルイズに許可をとってから本を手に取り言う。

エイデンの言う通り、ルイズの持っている本がそのままエレノアの言っていたトーマの書いた本だとはレオンには思えなかった。

エレノアの話から察するにトーマが本を書いたのは今よりも何百年も前の話のはずだ。

それにしてはルイズの持っている本は綺麗すぎる。

恐らく、元々の本を読んだ誰かがその本を書き写したのだろうとレオンは考えていた。


「だとしたら、赤い花のマークはその誰かが書き加えたのかもな。それに、書き写した人間が一人とは限らないぜ?」


マークの言葉にレオンも頷く。
間に何百年も経っているのだから、何人かの人間が写本を書いていてもおかしくない。


「それじゃあ、やるべきなのはそのトーマって人のことを知る人を探すことと、この本が写本だと仮定して、それを書いた人を探すことね」


ルイズは「さぁ、やるぞ」と言わんばかりに息巻いている。

鉱山が見つかったのも、日記が見つかったのもクルザナシュであり、関係があるとすれば領主であるレオンだけなのだが、どうやら手伝ってくれるようだ。


「おい待て、お前達、本当にそのトーマとかいう人間のことを調べるのか? まだ日記の人物と繋がりがあるとわかったわけではないし、仮に分かったとしてもそれがなんなんだ? 多少不可解ではあるが、必ず調べないといけないわけではないだろう」


それまで話を聞いていたディーレインが口を挟む。
確かに、クルザナシュに何か問題が起きたわけでもなく、以前誰かが住んでいてその人物が坑道を作ったということが分かっただけである。

無理に調べる必要はない。
それよりも、街は発展しているとはいえまだやるべきことも多いのだから、街のことを考えるべきだ、というのがディーレインの意見だった。


特に、地下に暮らす悪魔達にはまだ肉体がない。

レオンの頼みで、王都にいるクエンティンが悪魔達の魂が入り込める魔導人形の作成をしているが、それができるまで悪魔達は魂のままの姿である。

彼らの生活環境を整える方が先だった。


「もちろん、今すぐに調べようってわけじゃないよ。街のことも、悪魔達のこともちゃんとやる。それに、君との約束も忘れていない。ただ、やっぱり気になるから、できる時に少しずつ調べようかなってことさ」


レオンはディーレインを説得する。
レオンのいうディーレインとの約束とは、「ディーレインの一族を復活させる」というものであり、ディーレインがこの街にいる理由でもある。

それにはディーレインの体の中にいるア・ドルマの協力と、現在シドルト族の体の中に宿っているア・シュドラ達の魂が体に定着するのを待つ必要があるのだが、そちらの方も順調に進んでいるとは言えない状態だった。
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