212 / 305
忍び寄る影編
384
しおりを挟む課外授業二日目。
レオン達がクルザナシュの西の山から戻ってきた日の夜のことである。
授業で興奮し、はしゃぎ疲れた子ども達はすやすやと眠り、引率についた魔法使い達も日中の疲れを癒すかのようにぐっすりと眠り込んだ夜ふけの頃。
レオンの精神はよく見知った屋敷の中にいた。
かつて、レオンが何度も夢に見たあの屋敷である。
薄暗い廊下を進み、その先を右に曲がったところにある図書室。
そこにはレオンが魔法を極めんと練習してきた魔法の本が置かれている。
といっても、最近のレオンはその本を手に取ることはなかった。
レオンの体の中に宿る悪魔、ファ・ラエイル。別名エレノアとの魂の親和性が上がったためか、レオンは夜眠っている間だけという条件付きでいつでもこの屋敷を訪れられるようになっていた。
そのため、最近夜はもっぱらこの屋敷の中へ精神を移動させて図書室にある無数の本を読みふけっている。
この屋敷はいわばエレノアとレオンの共通の場所となっていて、二人が唯一顔を合わすことのできる場所である。
そして、この精神世界の中では懐かしい顔を見ることもできた。
「モゾ、テト。じゃれあいもほどほどにね」
このレオンとエレノアの二人の精神世界では、陽の魔力で作られた影魔法のテトだけでなく、陰の魔力で作られたモゾも姿を現すことができるのだ。
初めて二匹が出会った時、二匹とも同じように首を傾げて、同じように恐る恐るといった感じで様子を伺っていた。
それが今では、兄弟のように仲良く遊んでいる。
二匹が本棚の上を飛び跳ねるので埃が舞い、レオンは小さく咳をした。
精神世界だというのに、どうもここはリアルに近い感覚がある。
レオンは本棚の隅に置かれた赤い本を手に取る。
子供の頃から夢で読んできたあの本である。
最近は他の本を優先させてあまり読むことはなかったのだが、昼間の件もありもう一度目を通しておこうと思ったのだ。
さっと流し読みして書いていることを再確認した後にレオンは本の裏表紙の内側を開く。
開いてみたが、ルイズの本やあの日記にあったような花の印はこの本にはなかった。
この本に関してはレオンは子供の頃から読んでいて、夢の中とはいえ隅から隅まで穴が開くほど目を通してきた。
だから、裏表紙にマークが書いていないことは知っていたが念のためもう一度確認しに来たのだ。
レオンはその本を持って図書室を出ていき、廊下を少し戻って階段を上った。
かつてはこの屋敷を不気味に思ったこともあったが、今では自宅にいるような感覚である。
レオンは二階の一番奥の部屋の扉を三階ノックしてから
「エレノア、いる?」
と問いかけた。
エレノアはレオンの体の中に魂を宿しているわけだが、その魂がいる場所がこの精神世界である。
普段、エレノアはずっと眠りについたような状態で過ごしている。
それは、レオンの精神にかかる負担を減らすためである。
しかし、レオンが呼びかけると短時間だけ目を覚まし言葉を交わすことができる。
この時も少し待つと「どうぞ」という声が部屋の中から聞こえてきた。
レオンは扉を開けて中へ入る。
いつものように白いローブを着たエレノアがにこやかな表情でレオンを待っていた。
「おはよう、レオン」
「おはよう。僕からすると、今は夜だけどね」
二人が精神世界で会う時はいつも些細な会話から始まる。
まずはレオンが今日現実の世界であったことを話、エレノアは楽しそうにそれに頷くのだ。
時折エレノアがレオンに質問して、レオンはエレノアに相談したりする。
二人の関係はいつのまにかずっと深まっていた。
この日、レオンは山の中で見つけた岩部屋と洞窟のことをエレノアに相談したのである。
0
お気に入りに追加
7,322
あなたにおすすめの小説
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。