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忍び寄る影編

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課外授業二日目。
レオン達がクルザナシュの西の山から戻ってきた日の夜のことである。

授業で興奮し、はしゃぎ疲れた子ども達はすやすやと眠り、引率についた魔法使い達も日中の疲れを癒すかのようにぐっすりと眠り込んだ夜ふけの頃。

レオンの精神はよく見知った屋敷の中にいた。

かつて、レオンが何度も夢に見たあの屋敷である。

薄暗い廊下を進み、その先を右に曲がったところにある図書室。

そこにはレオンが魔法を極めんと練習してきた魔法の本が置かれている。

といっても、最近のレオンはその本を手に取ることはなかった。

レオンの体の中に宿る悪魔、ファ・ラエイル。別名エレノアとの魂の親和性が上がったためか、レオンは夜眠っている間だけという条件付きでいつでもこの屋敷を訪れられるようになっていた。

そのため、最近夜はもっぱらこの屋敷の中へ精神を移動させて図書室にある無数の本を読みふけっている。


この屋敷はいわばエレノアとレオンの共通の場所となっていて、二人が唯一顔を合わすことのできる場所である。

そして、この精神世界の中では懐かしい顔を見ることもできた。


「モゾ、テト。じゃれあいもほどほどにね」


このレオンとエレノアの二人の精神世界では、陽の魔力で作られた影魔法のテトだけでなく、陰の魔力で作られたモゾも姿を現すことができるのだ。


初めて二匹が出会った時、二匹とも同じように首を傾げて、同じように恐る恐るといった感じで様子を伺っていた。

それが今では、兄弟のように仲良く遊んでいる。

二匹が本棚の上を飛び跳ねるので埃が舞い、レオンは小さく咳をした。

精神世界だというのに、どうもここはリアルに近い感覚がある。


レオンは本棚の隅に置かれた赤い本を手に取る。


子供の頃から夢で読んできたあの本である。

最近は他の本を優先させてあまり読むことはなかったのだが、昼間の件もありもう一度目を通しておこうと思ったのだ。

さっと流し読みして書いていることを再確認した後にレオンは本の裏表紙の内側を開く。


開いてみたが、ルイズの本やあの日記にあったような花の印はこの本にはなかった。


この本に関してはレオンは子供の頃から読んでいて、夢の中とはいえ隅から隅まで穴が開くほど目を通してきた。


だから、裏表紙にマークが書いていないことは知っていたが念のためもう一度確認しに来たのだ。


レオンはその本を持って図書室を出ていき、廊下を少し戻って階段を上った。


かつてはこの屋敷を不気味に思ったこともあったが、今では自宅にいるような感覚である。


レオンは二階の一番奥の部屋の扉を三階ノックしてから


「エレノア、いる?」

と問いかけた。

エレノアはレオンの体の中に魂を宿しているわけだが、その魂がいる場所がこの精神世界である。


普段、エレノアはずっと眠りについたような状態で過ごしている。

それは、レオンの精神にかかる負担を減らすためである。

しかし、レオンが呼びかけると短時間だけ目を覚まし言葉を交わすことができる。


この時も少し待つと「どうぞ」という声が部屋の中から聞こえてきた。


レオンは扉を開けて中へ入る。


いつものように白いローブを着たエレノアがにこやかな表情でレオンを待っていた。


「おはよう、レオン」


「おはよう。僕からすると、今は夜だけどね」


二人が精神世界で会う時はいつも些細な会話から始まる。

まずはレオンが今日現実の世界であったことを話、エレノアは楽しそうにそれに頷くのだ。

時折エレノアがレオンに質問して、レオンはエレノアに相談したりする。


二人の関係はいつのまにかずっと深まっていた。


この日、レオンは山の中で見つけた岩部屋と洞窟のことをエレノアに相談したのである。
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