没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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課外授業編

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ルイズが常に持っている本はルイズが子供の頃に自分の家の中で見つけた物である。

幼いながらに魔法に興味を持っていたルイズは自分にその才能があることも知っていた。

そんなルイズにとって魔法の練習方法や簡単な魔法から少し複雑な魔法まで載っているその本は宝物となった。

不思議なのは家族の誰に聞いてもその本が誰の持ち物であるか知らなかったことだ。


「多分前に住んでいた誰かの物だろう」


とルイズの父親は言っていた。

ルイズの家はとても古く、もともとは別の貴族が住んでいたものだったらしい。

さらにその貴族の前にも住んでいたものがいて、遡ると何人も候補者が出てくるのだ。

どこの誰のものかもわからない本だったが、ルイズは気にしなかった。

彼女にとっては魔法が学べることの方が重要だったのだ。


「……って、思ってたんだけど」


日記と自分の本を並べて見比べながらルイズが呟く。


「謎の洞窟に誰も知らなかった岩小屋。その置かれていた日記に同じマーク。なんだか、本の持ち主にも興味が出てきたわ」


とルイズは言う。

レオンもまた、興味がないと言えば嘘になるくらいには興味が出ていた。

元々、ルイズが持っていた本と自分の夢に出てきた本がよく似ていることを不思議に思っていたが、偶然だろうと思っていた。

しかし、こんな事実が出てくるとなんだか重要なことのように思えてくるのだ。


「レオンさん、そろそろ日が来れます……」


エイデンに言われてレオンが空を見上げると、確かに夕日はもうほぼ沈みきっていて薄暗くなっていた。


気になることはまだあったが、今ここでそれを話していても仕方がないだろう。

学生達もいる以上、あまり遅くなるわけにもいかない。


「よし、じゃあ帰ろう」


とレオンは空気を変えるためにあえて明るい声で学生達に呼びかける。

興味津々に話を聞いていた学生達は「続きを聞きたかったのに」と不満そうな顔をしている者となんだかホッとしたような表情をする者達に別れていた。


レオンが「帰ろう」と言ったので学生達は荷物を持って下山する準備をする。

今から歩いて帰れば、街に着く頃には日もすっかり暮れてしまうだろう。

歩き出そうとする学生達にレオンは指を振りながら「チッチッチ」とわざとらしく言って待ったをかける。


「君達、魔法使いだろ? 魔法使いの移動手段を知らないのかい?」


レオンがそう言ったのがまるで合図だったかのように、ルイズやエイデン。他の引率の教員達がふわりと中に浮き上がる。

「飛行」の魔法である。

学生達から「わぁ」という感嘆の声が漏れる。

そのうちの一人の学生が手を挙げてレオンに発言する。


「でも、私たちまだ『飛行』の魔法は使えません」


レオン達もそうだったが、この国には「飛行」の魔法は成人を迎えてからではないと使えないという安全のための規則がある。


レオンも当然それは知っている。
何も、学生達に「飛行」の魔法を使わせようという気はないのだ。


「皆、頼むよ」


レオンがそう言うと、空が一瞬暗くなったように学生達は感じた。

しかしすぐに違うと気付く。

黒い大きなローブを着た何者かが、空を遮ったのだ。


「人間というのは、割と人使いが荒いのだな」


「それを言うなら使だけどね」


呆れ顔のシュドラの横で楽しそうにドリスが笑っている。

現れたのは八人の悪魔達であった。


「まったく……悪魔達に生徒を運ばせるなんて……」


いつの間にか戻ってきたマークが言う。

悪魔達を連れてここまで来たのはマーク自身だったが、それでもどこか呆れたような声である。


「ヒースには許可を貰ってるよ。本当は授業にも参加してもらいたかったけど、それはダメだったからね。代わりに生徒達に『飛行』を体験させてあげようと思って」


レオンはマークに笑いながら言う。

悪魔達はレオンの頼みを聞き入れて、この役を引き受けてくれたのだ。

特別に造られた丈夫なローブが魔法でふわりと広がり、そこに生徒達が数人ずつ座れるようになっている。


戸惑う生徒達は引率の魔法使い達に促されて悪魔のローブに乗り、初めての「飛行」を味わうのであった。
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